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サクラ、サク  作者: 宙埜ハルカ
第二章:憧れのその先
27/80

27.形勢逆転?

お待たせしました。

ずいぶん遅くなってしまってすいません。

なんとか11月中に更新する事が出来ました。

どうぞよろしくお願いします。

 翌日も由香は変わりなく皆の前ではいつもの由香で、咲良は見守る事しかできない。彩菜も心配顔で「由香、何か言ってた?」とこっそり訊いて来たけれど、咲良は静かに首を振る事しかできなかった。

「咲良ちゃんまで落ち込んでたら、由香に心配かけるよ」

 彩菜に指摘されて、咲良は反省した。

「ごめんね、彩菜ちゃんの言う通りだよね。でも、由香の気持ちを思うと、胸が痛くなっちゃって……」

「もう、咲良ちゃんったら。一緒になって落ち込んでたらダメでしょ。じゃあ、今日のお昼は美味しい所へ連れってあげる」

 単純な咲良は、その言葉で元気が出た。最近学食の味に慣れてしまい、少々飽き気味だったのだ。


 咲良、彩菜、由香の三人が向かった、彩菜が先輩から教えてもらったと言うお勧めの食堂は、大学の北門から出てすぐの所にあった。所謂Q大生の通う店として有名な所らしい。咲良は大学の外で食べるのは初めてだったので、ワクワクしていた。

 その食堂は、量が多い上に安価で美味しいと来れば、お昼時にはすぐに満席になる。咲良達がその食堂へ着いた頃にはすでに満席で、3人がキョロキョロと見渡しても空いている席はなさそうだった。

「咲良ちゃーん。こっちこっち」

 不意に名前を呼ばれて、3人が揃って声の方を見ると、一番奥の座敷席にいる見知った顔が、おいでおいでと手を振っている。

「篠田さんじゃないの!?」

「あー、ホントだ」

「相席させてくれるんじゃない?」

 由香に先導されて篠田のいる席へ近づいて行くと、他にいる二人も見知った顔だった。

「何だ、部長も一緒だったんですか? あ、及川さん、お久しぶりです」

 サークルの部長の菊地と平川男子寮の寮長の及川だった。

 由香が挨拶をしている横で、咲良は彩菜に先輩達を紹介しながら、一緒に挨拶をした。

「ここ、お昼時はすぐに満席になるから、よかったら相席しない?」

「ありがとうございます」

 そこは6人がけのテーブルだったので丁度良く、篠田の隣に由香と咲良が座り、向かい側に彩菜が座った。

「彩菜ちゃん、何にする?」

 隣同士に座った咲良と由香は、店の外の黒板に書かれていた本日の日替わり定食にしようと決めたけれど、さっきからボーっと篠田の方を見ている彩菜は上の空だ。

「えっ? あっ、ごめん。こんなに近くで篠田さんを見たのは初めてだったから、見惚れてしまいました」

 彩菜の発言に咲良達が驚いて絶句していると、彩菜の隣にいた及川と菊地が吹き出して笑い出した。

「さすが新入生キラー、ここにも犠牲者がいるよ」と部長の菊地。

「君、なかなか正直だね」と寮長の及川。

 彩菜の発言に驚いていた篠田は、二人の友人の笑いに眉間にしわを寄せた。

「犠牲者って、なんだよ。君もさっさと注文しないと、時間無くなるぞ」

 篠田に注意されて、彩菜は「すいません」と小さくなった。そして、小さな声で由香に注文を伝えると、由香が店員を呼んだ。


「日替わり定食のAが二つとBが一つ、ご飯はみんな小で、お願いします」

 本日の日替わり定食のAは白身魚のフライとコロッケの揚げ物アラカルトで、Bはサバの味噌煮定食だった。どちらも味噌汁と煮物の小鉢と漬物とご飯が付いて500円。ちなみにサバの味噌煮定食は咲良の注文だった。

 (サバの味噌煮なんて、懐かしいな)

 

「咲良ちゃんもサバの味噌煮なんだ?」

 先に注文分が来て食べていた篠田が、咲良達の分が届いたのを見て、嬉しそうに言った。

「そうなんです。私、サバの味噌煮が好きで……ここの美味しいですか?」

 同じサバの味噌煮定食を食べている篠田に親近感がわいた咲良も、嬉しそうに答えると訊き返した。

「ここのは何でも美味しいから。でも、サバの味噌煮は特にお薦め」

 篠田の返事を聞いて咲良はますます期待が大きくなり、「そうなんですか」と嬉しげに笑った。


「俺ら先に行くね。ゆっくり味わってよ」

 そう言って篠田達が去って行くと、彩菜は瞳を輝かせて咲良を見た。

「ねっ、咲良ちゃんってやっぱり篠田さんに気に入られてるんだねぇ」

 この間の写真撮影の話しも聞いていた彩菜は、篠田の気に入りぶりを目の当たりにして、嬉しそうに言った。

「べ、別に気に入られてる訳じゃないよ。それより彩菜ちゃんの見惚れてました発言の方がビックリ」

「そうそう、本人目の前にして言うんだもの、私も驚いちゃった」

 彩菜の事を高校の時から知ってる由香にとっても、彩菜の発言は驚きだったようだ。

「いや~、思わず本音が出ちゃってね。でも、咲良ちゃんって篠田さんと普通にお話しできるよね。私なんかドキドキしちゃった」

「私だって緊張するよ~。でも、それは先輩だからで、篠田さんだけにドキドキするんじゃないの」

「えー、あんなイケメンの傍にいたら、ドキドキしないの?」

 彩菜はまるで咲良がおかしい様に言うけれど、咲良には良く分からなかった。

「咲良はホホエミ王子しかドキドキしないんだものね」

「ゆ、ゆかー!」

「あっ、ごめん。でも、彩菜は口が堅いから、大丈夫だよ」

「なになに? そうだったの? ホホエミ王子って篠田二世の事だったよね? そうだったんだ。咲良ちゃんってホホエミ王子派だったんだね?」

 (ホホエミ王子派って……)

「私だったら断然篠田派なんだけどなぁ」

 そんな事を言う由香はいつもと変わりなくて、それでも辛い気持ちを胸に秘めているのだろうかと思うと、咲良は切なくなった。



 夕食や入浴を済ませ、部屋へ戻ってきた咲良と由香は、眠るまでにそれぞれ自分のスペースで思い思いの事をして過ごす。ノートパソコンに向かい課題のレポートを仕上げていた咲良は、ベッドの上で読書をしていた由香の溜息に気付いた。

「ねっ、由香、なにか悩み事でもあるの?」

 一人で抱え込まずに話して欲しいと願いながら、咲良は問いかけた。

「えっ? どうして?」

「最近、溜息が多いから……」

「私、溜息なんか吐いてた?」

 気付いていないのかと少し呆れながら、こちらを見ている由香に頷いて見せた。


「そっか……まあ、いいわ。それより、お願いがあるんだけど……」

「お願い?」

「そう。咲良から篠田さんに合コンお願いしてくれないかな?」

「ええっ? 合コンを、篠田さんに? む、無理だよ」

「咲良は篠田さんに気に入られてるから、合コンデビューしたいのでお願いしますって可愛く言えば、メンバー集めてくれるかも」

「それでも、篠田さんは恋愛とかする気が無いって言う話だから、合コンは無理じゃないかな?」

「いや、あの、彼が欲しいとかじゃなくて、雰囲気だけ体験してみたいからって、お願いできないかな?」

「じゃあ、篠田さんじゃなくても……由香の方が知り合いも多いし、頼める人がいるんじゃないの?」

 咲良は心の中で、幼馴染の事が気になって、由香の気持ちをはかりかねた。


「どうしても篠田さんとお近づきになりたいの」

「由香、幼馴染の人はいいの?」

 咲良は由香の言葉に、思わず聞き返していた。その途端、由香の表情が強張った。


「幼馴染って、恭ちゃんの事? どうして、ここで恭ちゃんのことが出てくるの?」

 こちらからは言わないでおこうと思っていたのに、つい口が滑ってしまった咲良は観念した。


「あのね、彩菜ちゃんに聞いたんだ。高校生の頃、由香が幼馴染を好きだったって言う事」

 由香は少し驚いた顔をした後、小さく舌打ちすると「もう昔の事だから」と話を流した。


「でも、幼馴染と再会してから、由香おかしいよ。元気が無いって言うか、溜息ばかり吐いてるし……本当はまだ好きなんじゃないの? 彩菜ちゃんがあんなに一途に思ってたのに、すんなり気持ちが変わると思えないって……」

 咲良が彩菜から聞いた事を思い出しながら話していると、いつもの由香らしくなく、俯いている。


「だって、仕方ないじゃない。恭ちゃんは大人の女性が好みみたいだし、年上っぽい大人な彼女がいるみたいだし、私なんて妹としか思われてないんだから」

 こんな拗ねたような由香を見るのは初めてで、咲良は驚いてしまった。

 (なんだ、由香だって好きな人に彼女がいるからって諦めてるんじゃないの!)

 咲良はいつも強気でしっかりしている由香しか知らなかったから、今目の前で拗ねてる彼女を見て、なぜだか笑いが込み上げて来た。


「由香ったら、私に好きな人に恋人がいても当たって砕けろなんて言ってたけど、由香だって同じじゃない」

「なによ。私は彼女持ちの男なんか忘れて、新しい恋をしなさいって言ってたと思うけど……」

 まだ強がりを言う由香が急に可愛く思えて来て、咲良は茶化したくなった。


「ふ~ん、それで、篠田さんに近づきたいんだ?」

「そうよ、いけない?」

 どんなに由香が強がっても、咲良は由香がまだ幼馴染を思っている事を確信した。

 篠田さんは当て馬か?

 たんにイケメンだからお近づきになりたいだけなのか……。

 咲良はここまで考えて、ハタと思い当った。


「ねぇ、もしかして、『処女は重いから嫌だ』って幼馴染に言われたの?」

 咲良の問いかけに、由香はみるみる目を見開いた。そして、クシャリと顔を歪ませる。

 好きな人にそんな事を言われたら、自棄になって彼よりも素敵な人と……と思ってしまったのかもしれない。


「違うの。ドア越しに恭ちゃんが友達と話してるのを聞いたのよ」

「そんなの、友達に見栄を張って言ったかもしれないじゃない」

「でもね、その数日後に綺麗に化粧をして大人っぽい女生と腕を組んで歩いているのを見ちゃったのよ。だから、恭ちゃんは私みたいな未経験の子供は恋愛対象じゃないの」

 (なに、その勝手な思い込み!)

 あまりに今までと違うキャラの由香の様子に、咲良は驚きながらもやっぱり笑いが込み上げてきそうになった。

 (由香も恋すると臆病になるんだ。私には散々強気な事言ってたのに)

「恋愛対象じゃないって、幼馴染に気持ちを伝えてみたの?」

 なんだか形勢逆転かなと咲良は心の中でニンマリした。

 今まで散々咲良の恋愛について言われ続けて来たのだから。


「バレンタインや誕生日、クリスマスには必ずプレゼントやチョコをあげてたよ」

「そんなの私だってお兄ちゃんにあげてるし……じゃあ、真剣な告白はしてない訳だよね?」

「そんなの、今更よ。それに、もう恭ちゃんの事は昔の事だって言ってるでしょ」

 天の邪鬼な由香が、又拗ねた口調で言い返す。

「一度もぶつからずに逃げ出すなんて、由香らしくないよ」

「なによ、咲良だって告白できないくせに。じゃあ、咲良が石川君に告白するのなら、私も恭ちゃんに告白する」

「ええっ!!!」

 どうしてこうなるの?

 


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