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サクラ、サク  作者: 宙埜ハルカ
第二章:憧れのその先
24/80

24.奇妙な撮影隊

お待たせしました。

いつもより少し長くなってしまいました。

どうぞよろしくお願いします。

 どうしてこんな事になったのだろう?

 

 撮影ポイントとして、大学紹介などによく使われるこの大学で一番古い建物である講堂前まで、ぞろぞろと移動してきた。

 どうして『ぞろぞろ』なのか? それはいつの間にか撮影メンバーが膨れ上がってしまったからだ。


 サークルの殆どの者は、解散と同時に帰ってしまったけれど、最後まで残っていた咲良達と同様、後に残っていた王子と村上、そして部長の菊地と副部長の河辺がなぜだかメンバーになっていたのだ。

 王子と村上は、由香同様「一緒に写真を撮ってもらってもいいですか?」と声をかけて来て、咲良が断りきれずに同意したからで、部長達はその様子を見ていて、面白そうだからと付いて来たのだった。


 (王子はいったい何を考えているの?)

 王子の真意が分からない。

 同じ高校出身で同郷だから、親しく友達付き合いをしようと思っている?

 もしかして、友達として気に入られている?

 新しい彼女がいる王子にとって、恋愛対象として見られる事は無いだろうし……。

 やっぱり友達だと思ってくれているからなのかな?

 これって喜ぶべきなんだろうか?

 憧れの人と親しくなれるって喜ぶことだけれど、これなら遠くから見ているだけの方が心は平和だったなと、咲良は戸惑う頭の中で考えていた。

 

 


「ね、ね、ここで並んで記念撮影しよう?」

 付いて来ただけのはずの副部長の河辺が、なぜだかテンション高く提案した。


「何言っているんだ。俺はここで講堂をバックに咲良ちゃんの写真を撮ってあげる約束したから……」


「じゃあ、山野さんの写真を撮ったら皆で撮りましょう。さあさあ、山野さん、そこに立って」


「……じゃ、じゃあ、由香も一緒に」

 先輩の河辺に逆らえるはずもなく、咲良は慌てて由香の腕を掴むと、講堂前の広場の真ん中へ進み出た。


 (さっさと写真撮ってもらって、この場を離れなきゃ)

 ただでさえ目立つイケメンが二人もいるのだから。

 数人が遠巻きにこの奇妙な撮影隊の様子を窺っている。

 

「僕達も一緒に良いかな?」


「石川君は私達と一緒に取ればいいでしょ」

 王子の要望を、仕切り屋の河辺が切り捨てる。


「山野さんと高校の時の共通の友人に見せたいから、一緒に撮りたいんだ」

 王子のこじつけた様な理由に、咲良は唖然とした。

 (なぜ? そこまでして……私が友達に自慢するために王子と写真を取りたいって言うのなら分かるけど……)

 王子の不可解な行動に咲良は又グルグルと考えあぐねる。


「ああ、そう言えば同じ高校だったわね。だったら早くして」

 河辺の言葉に追い立てられて、王子と村上が傍へやって来た。村上はどうして自分までと思っているのが見え見えのふて腐れた様子だし、由香は面白い事になって来たと目を輝かせているし、王子は全く空気を読んでいないかのようにニコニコと咲良に笑いかけてくるし……。


 それでもさっきからデジカメを構えている篠田に申し訳ないので、4人で並び、由香につられてVサインなどをしてみたりして……。

 本当は父親に写メするために、自分の携帯で由香とのツーショットを撮って欲しいと思ったが、河辺が急かすように監視しているから、自分の想いは呑み込んだ咲良だった。


「さあさあ、全員で記念撮影しましょう。すいませーん。写真撮ってくれませんか?」

 河辺は篠田のデジカメを取り上げると、遠巻きに見ていた野次馬の一人に声をかけた。そして、ちゃっかり篠田と石川の間に収まっている。


「篠田、データー、私のパソコンへ送ってね。今度の女子会の時、自慢するんだ。人気の二人との写真」


「なんだよ河辺、そんな事に利用しようと思って、付いて来たのか」


「ふふっ、こんなチャンスは逃さないわよ」


「篠田、こいつはこんな奴だって知っていただろ?」

 部長の菊地が呆れたように言う。


「なによぉ、自慢するだけじゃないの。別に写真を売り捌くとか言っている訳じゃないんだから……って、それいいかもね。某運送会社みたいにQ大イケメン写真集作って売り捌く?」


「何言っているんだよ。そんなのは引き受ける訳ないだろ」


「そうそう、写真サークルの奴らがすでに同じ事考えて、篠田に頼んできたんだよ」


「えー、もったいない」


 3人の遠慮のない会話を、口を挟めないまま茫然と見ていた4人は、「さあ、移動するわよ」と言われて訳も分からないまま、またぞろぞろと移動する。そして、着いた所は新歓コンパを行った居酒屋だった。

 戸惑ったのは咲良だけで、他のメンバーはすんなりとその場の雰囲気を受け入れている。


「ちょっと、由香、こんなとこまで付いて来ちゃったけど、帰らなくて良いの?」

 寮では夕食の用意がされているはずだ。いらない時は前日までに申し出なければいけない。もう夕方の6時になろうとしているので、咲良は心配になった。


「大丈夫よ。少しだけ摘まんで、遅くならない内に帰って、それから夕食を食べればいいでしょ? 篠田さんに近づけるチャンスなんだから」

 咲良には、そんなにまでして篠田に近づきたい気持ちが分からなかった。


 (そりゃー、イケメンさんとお知り合いになるのは嬉しいかもしれないけど……)

 けれど、今自分の置かれている現状は、あまり楽しいものではない。

 篠田や王子が咲良をかまう度に、女子の視線がきつくなるのだ。こんな事は大学へ入るまで経験した事の無い咲良は、イケメンは遠くから観賞するに限ると真剣に思っていた。


 それでも、皆で飲み食いしながらのお喋りは楽しかった。お喋りすると言うより、皆の話を聞いている方が多いぐらいだったが、同じテーブルに王子がいると言う緊張も忘れるぐらい、その雰囲気は楽しかった。特に先輩達はアルコールが入っているせいか会話は遠慮が無くて、その会話に絡んで行く由香や王子や村上の話しぶりも楽しくて、咲良は笑いっぱなしだった。


 (ああ、楽しい。こう言うのが大学生だよね)

 サークルや寮の新歓コンパの時は、人数も多かったし、皆が動いてテーブルのメンバーが次々代わって行くので、どこか落ち着けなかった。

 こんな楽しい場に、王子も一緒にいる事が不思議でならない。でも、こんな風に親しい仲間としての付き合いが良いのかもしれない。


 遠くから見つめるだけから、一歩も二歩も進んだと思う。でも、もうこれが限界なんだろうなと、頭の片隅で咲良は感じていた。

 同郷の友として、サークルの仲間として、4年間彼の傍にいられるのなら、よく頑張ったって、柚子は褒めてくれないかな?


 楽しそうに話す王子をそっと盗み見る。こんなに近くにいられるようになって、話しもするようになって、少しずつ彼のイメージは変わりつつあるけれど、それでもやっぱり素敵だと思う。こんな彼を見る事が出来る幸運を、咲良は自分の手で勝ち取ったのだと、少し自分を誇りたい気持ちになった。

 


「ねぇ、篠田はどうして山野さんの写真を撮る事になったの?」

 先輩3人が気持ちよくほろ酔いになった頃、河辺が篠田に問いかけた。少しお酒が入って、フェロモンがこぼれ始めた篠田が少しけだるげに河辺の方へ顔を向けた。咲良も自分の事が話題に出て、驚いて河辺の方を見ると皆もつられて視線を向けた。


「こいつね、春休みに珍しく女の子に声をかけたら、ナンパに間違われて逃げられたって、落ち込んでいたのよ。篠田は女の子に逃げられるなんて経験してないから、ショックが大きかったみたいだよ」

 篠田が答える前に横から部長の菊地が楽しそうに口を挟む。そんな菊地を睨んで篠田が「別にショックなんて受けてないよ」と憮然と言い返した。

 (あの時は、逃げた訳じゃ……あれは逃げた事になるのかな? だけど……)

 咲良は何か篠田のフォローになる様な事を言わなければと思うのだけど、かけるべき言葉が浮かんでこなくて焦るばかりだった。


「なんと言って声をかけたんです?」

 突然王子が口を挟んだ。河辺も同じように「そう、それが訊きたいのよ」と口添えた。

 あの日の事は別に(やま)しい事は何もないのに、咲良は王子が聞いていると思うと、妙に動揺してしまった。


「だから、受験の前日に受験生らしき女の子が一人で写真を撮っていたから、何となく自分の受験の時のこと思い出して、せっかく大学まで来ているから、あの講堂をバックに彼女の写真を撮ってあげようと思っただけだよ」


「それで、逃げられたのに、どうして写真を撮る約束になっている訳?」


「いや、それは……彼女が合格したら写真を撮るって言っていたから……」


「篠田はそれで約束したと思って名前を聞いたら、今度会った時に教えるって言って逃げられたんだよな」


「ご、ごめんなさい。兄に東京の男には気を付けろって釘を刺されていたから……」

 咲良は篠田の純粋な親切心を(ないがし)ろにしてしまった事を申し訳なく思った。


「でたー! シスコン兄貴」

 村上が可笑しそうに言うから、咲良は内心『お化けみたいに言わないで』とムッとした。その上、先輩達からも「山野さんのお兄さんってシスコンなの?」と笑われ、兄の話は禁句だなと咲良は強く決意していた。

 チラリと王子を窺うと、皆と同じように笑っている。この前の苛めたくなる発言を思い出した咲良は、無性に恥ずかしくなった。

 (王子のいる前では、私の話題はやめて欲しい……)

 咲良は、心の中でそっと溜息を吐いた。


「それじゃあ、写真を撮る約束って、篠田が勝手に思っただけじゃないの。道理で、山野さんの反応が困っているみたいだったもの」


「咲良ちゃん、迷惑だった?」


「と、とんでもない。写真撮ってもらえて、嬉しかったです」

 篠田の申し訳なさそうな顔を見て、咲良は慌てた。確かに困ったけど、迷惑と言う訳ではない。


「当たり前だろ。篠田の貴重なお誘いを迷惑に思う女の子なんて、いる訳ないよな」


「あら、咲良ならありうるかも? だって、飯島彼方が若くてイケメンだと知ってショック受けていたもの」


「ゆ、由香!!」

 (由香ー! その話はやめて!!)

 先輩達の興味津々な眼差しに、由香は喜々として飯島彼方のいきさつを説明るすと、「やっぱり山野さんって、ちょっと変わっているかも」なんて言われ、咲良はがっくりと落ち込んだ。


「でも、山野さんはそう言うところが、いいんじゃないかな?」

 落ち着いた王子の言葉に咲良は唖然とした。

 な、な、なんですと!


「石川君、その発言は言われた女の子に誤解させるよ?」


「誤解も何も、思ったままを言っただけですよ」


「別に誤解なんかしませんよぉ」

 河辺さんに突っ込まれている王子を庇うように、咲良は慌てて言った。けれど、河辺には嫌味に取られないよう、ヘラリと笑いながら誤魔化した。自分の事で王子を(わずら)わせたくなかった。

 王子の言葉に浮かれた気持ちは、一気に霧散してしまったけれど……。


 

「あら、駿も来ていたの?」

 咲良達のテーブルの横を出口へ向かって進んでいたグループの中から、王子に声がかかった。そして、テーブルの皆が一斉に声をかけた人物の方を見た。

 そこには、とても美しくて大人の魅力にあふれた女性が立っていた。

 (あっ、もしかして、噂の彼女だろうか?)

 そう思った途端に、咲良の胸は詰まった。


 王子は慌てたように立ち上がると、「ちょっとすいません」とテーブルの皆に会釈し、声をかけた彼女に「ちょっと来て」と言いながら腕を掴むと外へ出ていってしまった。

 彼女と一緒にいたグループの人達も呆気にとられたみたいで、我に返ると「ごめんなさいね」とこちらへ声をかけてレジの方へ行ってしまった。


 それまで皆声も出せずに茫然と固まっていたが、我に返った菊地が「あれが噂の石川の彼女か?」と村上の方に問いかけた。


「俺もよく知らないけど、最近よく一緒にいるみたいだから、そうじゃないかな?」


「なに? 友達なのに聞いていないの?」


「いや、なんか、石川ってプライベートな事はすぐにはぐらかすし、訊くなオーラがあるって言うか、訊きづらいんだよね」


「でも、噂だと、あの美女の方が石川君を恋人だとストーカーに説明したとか……」

 由香も得意になって噂話に参加する。


「私もその噂きいたよ」

 河辺も興味津々だ。

 けれど咲良には、皆の話は耳を通り過ぎていくだけで、さっき見た美しい女性の顔が脳裏に張り付いたまま、何も考えられなかった。


 その後、王子はすぐに戻って来た。けれど……。

「すいません。用事が出来たので先に帰ります」


「石川、さっきの美人は、お前の彼女?」

 すかさず声をかけた菊地の問いかけに、王子は一瞬顔を歪めた。けれどすぐに「ご想像にお任せします」とニヤリと笑って答えると、足早に去って行った。


 やっぱりここでも『ご想像にお任せします』なのか……。

 どんな想像をしても、咲良には苦しいだけだった。



 


 

 


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