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サクラ、サク  作者: 宙埜ハルカ
第二章:憧れのその先
20/80

20.GWの男子会【王子視点】

 大学へ入っての初めての帰省を、駿は高校の時には全く知らなかった同級生、山野咲良と一緒に帰って来た。それは、彼女に説明したいびき回避もあったけれど、それよりもほんの小さな気まぐれと好奇心だったと、駿は振り返って思う。

 咲良と初めて会ったサークルでの自己紹介で、彼女が大凪北高校と言った時の驚きは、駿にとって今でも忘れられない出来事だ。

 彼女はきっと駿には知られたくなかったのだろうと思う。校名を言うのをためらっていたのは、そう言う事だったのだろう。

 でも、なぜ、知られたくなかったのだろうと、駿は今でも考える。


 それにしても駿が驚いたのは、彼女が指定校推薦は無理な成績だと言いながら、一般入試で合格している事だ。

 そして、そこまでしてQ大へ入りたかった理由と言うのが、あの飯島彼方の講義を受けたかったと言う事らしい。

 その話を聞いた時、駿は心の中でゲッと思ってしまった。飯島彼方が嫌いな訳じゃないけど、駿には複雑な事情があった。

 それに、あの飯島彼方がまだ30代のイケメンだと知ってショックを受けたって言う事にも、駿は驚いた。なんでも、50~60代の紳士だと思い込んでいたらしくて、自分のイメージが壊れてしまった事がショックだったらしい。でも普通、女性なら喜ばないのだろうか。若くてイケメンなら。

 しかし、そんなところが、駿にとって咲良に興味を持った最初だったと思う。


     *****



 5月5日の夜、駿は高三の時のクラスで仲良かった同級生と集まった。今回女子は抜きと言うのは暗黙の了解なのか、男子ばかり6人がその中の一人の家へ集まったのだ。

 地元の国立大学へ進学した者が二人、私立大学へ進学した者が一人、それ以外は皆県外の大学だった。

 お互いの近況を話しつつ、その場にはいない同級生の噂話などで盛り上がる。


「石川、おまえ、都会へ行って垢抜けて、益々イケメン度がアップしたんじゃないか?」


「一ヶ月ぐらいで変わらないよ」


「石川の事だから、モテモテだろう? でも、おまえは神崎さん一筋だったもんなぁ」


「そうそう、神崎さんも同じ大学だっけ?」


「いや、アイツは関西のJ大だよ」


「えー!! 遠距離なのか?!!」

 皆のこの反応は駿に取って想定内だった。そう言えば咲良も同じような反応をしていた事を駿は思い出した。

 駿は皆の質問を意味深に微笑んでやり過ごした。しかし、それで収まるはずもなかった。


「ま、まさか、別れたとか言うんじゃないだろうな?」

 やけに興奮気味にツッコミを入れて来る友人に、駿はニヤリと笑って「想像に任せるよ」と、咲良に言ったのと同じ返事をする。


「なんだよ~、それ。気になって寝れないじゃないか」


「まあまあ、石川のこの余裕を見たら、分かるだろう? 別れていたらこんな風に笑って無いって」


「そうだよなぁ。神崎も恋人と同じ大学を選ぶようなタイプじゃないもんなぁ。自分の信念を持ってるって言うか……」

 駿が何も答えなくても、周りが勝手に想像して話を作って行く。駿はただ微笑むだけで、肯定も否定もしない。まあ、多少ずるいかもしれないけれど。

 茉莉江の事は、正直誰にも言わない約束なので、駿はこんな曖昧な対応しかできない。もうしばらくは、皆の有難い誤解に甘えていようと駿は思っている。



 皆と相変わらず、高校の時の思い出話をしていたら、駿はふと咲良の事を訊いてみたくなった。

「なぁ、高校の時の同級生で山野咲良って知ってるか?」


「はぁ? 誰それ?」


「あ、聞いた事ある様な名前」


「俺、知ってるよ。文芸部の山野だろ? 2年の時に同じクラスだったよ」

 知ってると言ったのは、加藤晴臣(かとうはるおみ)と言う奴で、地元の国立M大へ行っている。


「へぇ、その山野さんがどうしたの?」


「彼女もQ大だったんだ。僕も彼女の事は知らなかったから、サークルの自己紹介で驚いたよ」


「彼女の方は、石川の事知ってたんだろ?」


「当たり前だろ。あの高校で石川の事知らなかったら、モグリだって」


「ちょっと待て、彼女確かM大志望だったはずだよ。確かセンターの申し込みもしてたはずだ。Q大の指定校推薦にも入って無かったよな? まさか、一般入試で受かったのか?」

 急に加藤が慌てたように言った。きっと彼女に関する事を思い出したのだろう。


「ああ、そうらしい。なんでも、飯島彼方の講義が受けたくてQ大を受験したらしいよ」


「あ――!! 飯島彼方!!」と加藤が叫んだ。他の奴らは飯島彼方って誰だ? とか言っている。

 そして加藤が、「なんだか、山野らしいや」と言って笑うから、駿はなぜだかイラッとして「何が?」と問い返した。


「彼女のと同じクラスだった時、俺も飯島彼方の小説が好きだったから、よく話をしたんだよ。一見大人しそうで目立たないだけど、話してみると結構話しやすくてさ、飯島彼方の小説について熱く語ってたよ」


「へー、その山野さんって、可愛いの?」


「あまり目立たない普通の子だよ。でも、話してると、感じの良い子だったかな」


「加藤、お前、好きだったんじゃないのか?」

 他の奴らが、加藤をからかう。それでも加藤は、記憶のなかの彼女を思い出しているのか、少し遠い目をした。


「いや、そんなんじゃないけど……でも、山野とは本を貸してもらったりとか、結構仲良かった方かな。なんだか、懐かしいなぁ。そうか、飯島彼方を追いかけてQ大まで行ったのか。飯島彼方の講義ってどんなのか話聞いてみたいなぁ。石川、山野に宜しく言ってくれよ。今度会ったら話聞きたいって」

 加藤は悪びれもせず、駿に笑いかけた。

 駿は「ああ」と返事をしながらも、高校の時の彼女を知っている加藤が、何となく憎らしくなった。


「そういえば……」

 加藤がまた何か思い出したように、駿の方を見た。


「石川は知ってるかな? 女子の間でおまえの事、王子って呼んでた事」

ああ、またかと駿は心の中で嘆息する。どこが王子だよと秘かにツッコミながら、不機嫌な声で「ああ、聞いた事ある」と返事をした。


「そうそう、女子達が騒いでたよな。彼女いても人気あったよな。石川って」


「女子は外見しか見てないから、この胡散臭い笑顔が、王子スマイルに見えるらしいよ」


「そうそう、中身は俺らと変わらないのにな」

 皆が口々にかなりひどい事を言うが、駿は別に気取ってるつもりもないし、その通りだなと思っている。

 皆が言うのように、駿の外見が女子を引き付けるのは分かっていた。どの女子にも同じように、差しさわりの無い笑顔で対応していたつもりの駿だったが、それが王子スマイルと言われていた事も、茉莉江から聞いて知っていた。

 人気があると言っても、茉莉江がいたせいか、告られる事は無く、駿にはあまり実感が無い。今の方が女子からの秋波をビンビンと感じるほどだ。

 高校の頃の女子からの視線は、穏やかなものだったと今になって思うのは、現在、遠慮のない視線、思わせぶりなアプローチが日常となったからだ。今更ながら、茉莉江と言う存在の大きさを実感している。

 そんな事を考えながら、一人苦笑したら、勘違いした皆に「いい気になるなよ」と笑われた。



「山野の友達にすごい石川ファンがいてさ、結構目立ってたんだよ。2年の時、クラス内で石川ファンの女子が集まって王子ネタで盛り上がっている中に、いつも山野もいたなって思い出したよ」

 (山野さんが俺のファンだったって?)

 友達に合わせてただけだろと、駿はうぬぼれそうになる自分を諌める。

「へー、その山野さんって、本当は石川を追いかけてQ大へ入ったんじゃないのか?」

「いや、それはないよ。サークルで会わなかったら、山野さんの存在さえ知らないままだっただろうし」

「そのサークルだって、石川目当てに入ったのかもしれないぜ」

「いや、それは無理だよ。学部も違うし、あの広いキャンパス内で、僕がどのサークルに入ろうとしているかなんて、分かる訳ないよ」

 駿が次々に否定するからか「何必死になって否定してんだよ」とか「山野さんがファンだったら嫌なのか?」とか言われてしまった。

 駿は自分でも何ムキになってるんだろうと思う。

 ただ、咲良もファンだと言う子たちみたいに、駿の外見だけしか見ていなかったら嫌だなと、駿は改めて思ったのだった。

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