19.GWの女子会
「咲良、進学先をハッキリ言わないと思ったら、いつの間に王子と同じ大学を目指していたのよ」
「そうよ。咲良がM大に落ちたって聞いて、ガックリしているだろうと思って、何も聞かなかったんだし、てっきり柚子と一緒の大学へ行くんだと思っていたのに」
久々に会った高校の友人にいきなり責められた。この二人も県外の短大と大学へ進学していたので、ゴールデンウィークで帰って来たのだ。
今日は、高校の時に仲の良かった友人達5人で柚子の家に集まり、一晩中語り明かそうと言う事になっているが、本当のところ、咲良を問い詰めようと待ちかまえていたのだった。
小学校の時からの友達の柚子には隠しておけないと思って話したが、高校に入ってから友達になった後の3人には、ずいぶん友達甲斐の無い事をしてしまったけど、単純に恥ずかしかったのだ。王子を追いかけて行ったと思われると思ったから、余計に。
「咲良ちゃん、そんなに王子の事、本気だったのね」
目をウルウルさせているのは、柚子と同じく地元に残っている内の一人で、M女子短大へ行っている夏帆だ。
「夏帆、咲良は抜け駆けしたんだから、感動していちゃダメだよ」
感動している夏帆をたしなめているのは、最初に責めて来た隣県の短大へ進学した沙織。
「でも、あのQ大へ合格するなんて、すごい事じゃない? やっぱり恋の力はすごいのね」
「すごい事はわかっているわよ。でもね、咲良は何も言ってくれなかったんだよ。こっちは心配していたって言うのに」
興奮して話しているのは、最初に責めたもう一人、県外の大学へ進学した智香。
「みんな本当に、ごめんね。落ち着いたら話そうとは思っていたんだけど……」
咲良が項垂れて謝ると、睨んできた沙織と智香が「こうなったら、全て吐いてもらいましょうか?」と言い放った。
「まーまー、みんな、落ち着いて」
柚子が間に入ってくれたけれど、味方になった訳じゃない。
「咲良には、王子に近づくミッションを言い渡してあるから、まずその報告を聞きましょうよ。咲良ったら予想以上の働きをしてくれてね、すっかり王子と友達になって、メールもやり取りしているらしいし、こっちへだって二人で夜行バスに乗って帰って来たらしいのよ」
柚子が得意気に言うと、皆の口からは「えー!!!」という絶叫が発せられた。
「いや、あの……友達ってわけじゃないよ? それにメールだって、今回のバスの時間の連絡を貰っただけだし……」
「でも、メルアドは交換したんだ? それに夜行バスで一緒に帰って来たって言うのは本当なのね!!」
沙織が興奮して言う。仲間内の中では沙織が一番王子と騒いでいたかもしれない。
「一緒と言ってもね、……」
咲良は王子が心配しているふりをしていびきを回避するために誘ってきた話をした。途端に皆の目が同情に変わった。
「でも、神崎さんはどうしたのよ? 神崎さんはQ大じゃなかったの?」
誰でもそう思うよね?
そして、神崎さんは関西の大学へ進学した事を話すと皆は同じように「遠距離なの?」と疑問を口にした。咲良がその疑問を王子にぶつけた話をすると、皆静かになった。
「ねぇ、それって、王子達、別れたんじゃないの?」
「でも、そんなに辛そうじゃなかったし、ニヤリと笑って想像に任せるなんて言うんだよ?」
「う~ん」
みんな咲良の話に考え込んでしまった。
「まあ、それでも、神崎さんと離れ離れなら、王子にアプローチするチャンスじゃないの?」
夏帆が嬉しそうに提案する。
「なんだか悔しいけど、大学まで追いかけて行った咲良の頑張りに免じて、王子に抜け駆けした事許す」
沙織が渋々と言った。
「咲良は散々心配かけたんだから、これからは王子情報、皆に報告する事」
智香が言い渡す。
「とりあえず、今までの王子情報を聞こうよ。それに、Q大を目指す事になった経緯も説明しないと、皆納得しないんじゃない?」
それまで咲良から王子情報を貰っていた柚子は、みんな程の興奮が無い分、余裕有り気に言った。
結局咲良は、王子の進路を聞いたところから、帰省直前までの話を延々としゃべらされた。それでも咲良はみんなにQ大へ進学する事を話していなかった負い目があったので、問われるままに全てを話していた。
咲良が話しながら感じたのは、自分の中にある想いと、皆が想像しているだろう咲良の想いとの温度差があると言う事。
咲良は今まで、王子に振りむいて欲しいとか、王子と付き合いたいとか思った事が無い。だから、告白しようとか、アプローチしようとか言う考えはこれっぽっちも思ってはいなかった。ただ最近、王子と喋ったりするようになって距離が縮まってきた事は素直に嬉しいし、もっと話せたらとも思う。だけどそれも、サークルで会うだけの事。それ以外の王子の事は、噂で聞くぐらいで、何も知らないのだ。
サークル以外の王子の事を知りたくない訳じゃない。でも、あまりにも長く遠くから眺めるだけの癖がついているから、そこから先はどうしたらいいか分からないのだった。
「それで、王子にはいつ告るの?」
沙織が詰め寄るように訊いて来た。
「そうよ、そうよ、話聞いていると、いい感じだよね」
夏帆が嬉しそうに言う。
「でも、まだ神崎さんと別れたかどうか、わからないよね?」
慎重で心配性な智香が釘をさす。咲良も同じような性格なので、それが気になる。彼女のいる人に横恋慕だけはしたくないし、神崎さんに勝てるとも思わない。……って、その前に、王子が振り向くはず無いのだけど……。皆と話していると、自分の気持ちまでそちらへと流されてしまいそうで、怖い。
「そんなの、神崎さんと付き合っていようがいまいが、王子の気持ち次第でしょう? 別れるのが嫌なら同級生なんだから、もっと近い大学とか同じ大学へ進学すれば良かったって話でしょう? 遠距離なんて、結局難しいのよ」
辛辣に言い放った沙織は、去年一つ年上の先輩と遠距離恋愛になり、沙織の方が我慢できなくなって別れたと言う経緯があるため、実感がこもっている。
「沙織……」
皆が心配気に沙織の名を呼ぶと、ケロリとした彼女は「私の事ならもう吹っ切れているから大丈夫よ。それに先月合コンした近くの大学生といい感じなんだ」そう言って笑った。
他の皆が沙織の新しい相手の事を訊いているのを見ながら、咲良はどうして皆は次から次へと新しい恋ができるのだろうかと考えていた。
*****
ゴールデンウィーク後半はあっと言う間に過ぎ、とうとう帰る日になってしまった。
先日の高校の時の友達とのガールズトークで、背中を押されまくったその相手と、バスと言う個室で長時間過ごすなんて、それは幸せすぎる拷問だと思った。
「咲良、帰りのバスは何時なんだ?」
朝食の時、父親が訊いた。咲良が「午後1時だけど、15分ぐらい前には行かないと」と言うと、父親は「寮まで送って行きたかったのに、咲良はつれないなぁ」と少し不満げだ。
「そんな事無いよ。ただバスは往復で買うと割引があるから……」
「はいはい、しっかりした娘で、安心だよ」
「お父さん、そんなに拗ねないの」
母親が笑いながら、父親を諌めた。
「それで、咲良、帰りもあいつと一緒じゃないんだろうな?」
父親が急に真面目な顔で咲良を見た。咲良はドキリとした。
あいつって……王子の事、だよね?
「あいつって、バスで一緒になった同級生の事?」
「ああ、そうだよ。一緒に帰る女友達はいないのか?」
「東京方面の大学へ行っている女子の同級生って知らないもの。それに、行きに一緒になった彼も、帰りも同じバスなんだって。こんな地方都市からの高速バスなんて、そんなに何本もないから仕方ないよ」
咲良は父親に何も言わせないために、先に説明した。あくまでも偶然一緒のバスになった事にして。王子にも、たまたま一緒のバスになったと言う事にしておいて欲しいとお願いしておいた。王子は笑って「男親は娘の事って、心配で仕方ないらしいね」と承諾してくれた。
「なになに? 咲良、男の子と一緒に帰って来たの?」
父親と咲良のやり取りをニコニコと見ていた母親が、興味津々の眼差しで口を挟んだ。
帰って来たばかりの時は、父親はすっかり忘れていたのか、バスで一緒だった同級生の事は言わなかったのに、今頃になって思い出したのか……。
「一緒って……たまたま一緒のバスになっただけ」
「それでも夜行バスだぞ。寝ている間に変なことされたりとか、あったらどうするんだ」
「だから、そんな人じゃないから。今はバス会社が女性一人で申し込んでも、隣は女性になるように配慮してくれるんだって」
咲良は面倒くさいなと思いながら、言い訳を重ねた。心は少し咎めたが、変な誤解を招くよりいい。
「咲良、同じ大学の子なの? どんな子? 仲良いの?」
母親は脳天気に訊いてくる。
「仲が良い訳じゃないけど、高校が同じだから……」
「そうか……良かったじゃないの。同郷の人がいて。それも同じ高校なら、いろいろ共通の話題もあって心強いでしょう?」
「まあ、そうだね」
ニコニコしている母親に、苦笑しながら答えると、父親はふて腐れたのか新聞へ目を落とした。咲良はそんな父親を仕方ないなぁと、母親と一緒に笑ったのだった。
今回は王子の登場が無くてすいません(汗)




