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サクラ、サク  作者: 宙埜ハルカ
第二章:憧れのその先
13/80

13.友の推測

2015.4.5 13話~16話の中身を時系列に沿って入れ替えました。大筋は変わっていませんが、少し説明を追加した部分があります。

「ねぇ、咲良。咲良は最初から部室の中にいた石川君に気付いていたんでしょう?」

 由香の鋭い突っ込みに、咲良は一瞬息がとまったかと思った。「うっ」とも「えっ」ともつかぬ声を出し、視線をそらせた。


「なによ、誤魔化そうったってそうはいかないんだから。そう言えばあの時、白昼夢を見たなんて言っていたよね? 石川君がいて、驚いたんでしょ?」

 由香の少しつり上がった目が、好奇心と言う輝きでキラキラしていて、やけに眩しい。


「ま、まあね」


「ふ~ん。でも、咲良は石川君がQ大へ入った事は知っていたんでしょう?」

 痛いところを突いてくる由香を、納得させるだけの言い逃れができる訳もなく、咲良はおずおずと頷いた。


「石川君がQ大にいる事は知っていたのに、咲良の石川君と遭遇した時の驚き方は尋常じゃなかった。おまけに、やけに石川君の事、詳しいし……カフェで話している時も、石川君と目が合うのさえ恥ずかしそうだった……」

 由香はここまで言うとニヤリと笑って、咲良を見た。


「私の観察と推測によると……咲良は石川君が好きでしょ?」


 (ゆ、由香……あんたは探偵ですか?!!!)


 由香の右ストレートが、綺麗に咲良の心臓に決まったような気がした。一気に血が頭に上る。返す言葉が見つからなくて、アワアワと慌ててしまう。


「ふ~ん。図星みたいね。それにしても、高校の時、告らなかったの? 存在さえ知られていないなんて……不毛過ぎるじゃないの」


 (由香ってどうしてこんなに痛いところばかり突いてくるかな)


 咲良は心の中で嘆息した。そしてつい思わず本音がこぼれた。


「見ているだけで良かったから……」


「はぁ? 今時の小学生でももっと積極的だよ? 私が協力してあげるから、頑張ってみなよ。せっかく同じサークルに入ったんだしさ」

 由香の気持ちは嬉しかった。でも、咲良は首を横に振った。


「無理なのよ。だって、彼には恋人がいるもの……それも凄い美人で頭もよくて、スタイルも良くて、性格もいいらしい彼女が……」

 由香はつり上がった目を見開いた。しばらく絶句した後、納得したように頷いた。


「まあ、そうだよね。あんなにカッコイイんだもの、彼女ぐらいいて当たり前だよね」


「うん。確かに彼は凄く人気があったけど、3年間あの恋人がいたから、誰も本気で告ろうなんて思わなかったのよ」


「じゃあ、彼女もQ大へ来てるの?」

 由香のもっともな質問に、咲良は静かに首を横に振った。


「どこに進学したか分からないけど、Q大では無いらしい。けど、きっと東京の大学だと思う」


「まあ、そうだろうね。学校違っても、もしかしたら同棲していたりして?」

 由香の言葉に、咲良は今までその可能性について考えた事がなかったので、驚きよりもショックだった。でも、そのショックの方向は普通とは違ったけれど……。


 (同棲……そうか、そんな事ができる年齢なんだ)


 咲良にとって男の人と付き合うこと自体未知な事なのに、同棲なんて……小説の中の話のようだ。それが自分と同じ年の、それも良く知る同級生が……と思うと、反対に自分の遅れに気付かされてしまった。


「同棲……なんて、できるんだ?」


「そりゃー、しようと思えば出来るでしょう? 親元離れているんだもの」

 そうだよね、地元じゃないんだから、わからないよね? でも、親にバレ無いのかな? 彼女ぐらい最高レベルの恋人だと、親公認だったりして?

 咲良がグルグル考えていると、由香が「ごめん」と謝って来た。驚いて顔を上げると「無神経だったよね。咲良の好きな人の事なのに」と頭を下げられた。

 咲良は首を振って否定した。


「ううん。彼に恋人がいる事は分かっている事だから……ただ、同い年なのに同棲なんて、私なんて思いもつかないレベルにいるんだなって……」


「もう~何言っているかなぁ。咲良は石川君を追いかけてQ大に来たんじゃないの?」


 (えっ? どうして……)


 本日最大の急所を刺された咲良は、あんぐりと口を開けたまま固まった。

 目の前の由香はプッと吹き出すと、「図星?」とニヤニヤ笑っている。途端に一気に身体中の熱が顔に集まったような気がした。


「飯島彼方はフェイクか……」

 聞き捨てならない言葉に、咲良は現実に引き戻された。


「違う。本当に飯島彼方の講義が受けたいと思ったの!」


「はいはい。石川君を追いかけてQ大へ入れば、飯島彼方の講義も受けられると、思った訳ね?」

 咲良はまた「うっ」と言葉に詰まった。どうして彼女はこんなに鋭いのだ。


「ふふふっ、咲良ったら、分かりやすいよね」

 分かりやすい?

 そんなに顔に出ているのだろうか?

 もしかして、王子にも気付かれた?


「私ってそんなに分かりやすいの? もしかして、今日、お……石川君にも分かってしまったと思う?」


 (やばい、やばい、王子と言いそうになったよ)


「う~ん、どうだろうね? 石川君ぐらいのイケメンの前で恥らう女の子は結構いるだろうから、彼も慣れているんじゃないかな? それに、あの時は飯島彼方を好きで顔が赤くなっているって思われていたみたいだし。それよりも一緒にいた村上君がね、『山野さんって、かなり年上好みなんだね』って言っていたよ。飯島彼方が若くてショックだったって言ったから……」


 (由香がバラしたくせに!!)


 それにしても、好きな人に年上好みって思われるなんて……いや、別に、王子に振り向いて欲しいなんて思ってないから、いいんだけどね。だけど、へこむ。

 咲良はそれまで座っていたベッドに、バタリと倒れこんだ。そして、盛大に溜息をついた。


「もう~咲良は、そんな彼女持ち追いかけてないで、それも見ているだけでいいなんてお子ちゃまは、もう卒業しなさいよ。大学には素敵な人が沢山いるんだから、別の出会いを求めるのよ。新しい恋をして、大人にならなきゃ。そうそう、近い内に平川男子寮と合同の新歓コンパがあるらしいのよ。あの篠田先輩にもお近づきになるチャンスよ」

 由香は励ましてくれているんだろうけれど、咲良の心は浮上できなかった。


         *****


 同じ週の水曜日、第一回目のサークルの定期会合があった。咲良は再び王子に会えると思うとドキドキが止まらない。


「ねぇ、咲良。学食で食べる度に写真撮っていたけど、今日何か報告するの?」

 由香に尋ねられて、咲良は困惑顔で「う…ん、どれも美味しくて、どれを一番にしたらいいか分からなくて……。食べる度に、これが一番に違いないって思うんだけど……」と答えた。

 由香は咲良が本気で困惑しているのを見て、プッと吹き出した。


「咲良、まだ全部食べた訳じゃないのに、一番なんて決められないでしょ?」


「う~ん、そうだけど……学食のメニューの中で好きな順に食べてみているんだけど……」

 咲良は美味しいものは好きだけど、あまり冒険ができるタイプではなかった。おまけに舌が肥えているとも言えない。だから、食べた事の無い料理に手を出すより、つい食べ慣れたメニューを選んでしまうのだった。


「それにしても、一番を決めるにはまだ早すぎるんじゃないの? それに学食はいつも利用する文学部棟の所だけじゃないんだよ?」


「えっ、どの学食もだいたい同じメニューじゃないの?」


「大学生協の学食はだいたい共通メニューだと思うけど、外部の業者のお店も入っているから、今度行ってみよう」 

 由香の誘い言葉に、咲良は嬉しくなって笑顔で頷いた。



 部室の前まで来ると、中から賑やかな声が聞こえて来た。少し開いたドアから覗いてみると、前回いなかった女の子達が王子と村上を囲んで楽しそうな声を上げている。


「おー、さすが篠田二世だね」

 由香がこちらを見てニヤリと笑った。

 由香には、王子の恋人の事や咲良の想いも口止めをしておいたが、なんだかポロリとこぼされてしまいそうで、不安になった。

 けれど、それ以上に、ここにあの美しい恋人がいない事が、王子の周りの女性達の抑制にならない事に、咲良は心がざわめくのだった。


「山野さん、渡辺さん、こんにちは」

 咲良と由香が「こんにちは」と部室の中へ入って行くと、楽しそうに笑っていた声が止み、一斉にこちらを向いた。すると、王子がニッコリと笑って挨拶を返す。王子の隣にいる村上からも「おう」と手を上げて挨拶が返ってきた。

 二人の挨拶が終わると、また女の子達はしゃべり始めた。けれど、王子は真っ直ぐにこちらを向いたまま、また咲良達に話しかけて来た。


「山野さん、渡辺さん、学食に美味しいメニューあった?」

 咲良と由香は、王子の問いかけにもう一度そちらを見ると、女の子達もお喋りを止めてこちらを見た。村上も興味深そうな目で、こちらに笑顔を向けている。


 (ああ、王子。女の子達が睨んでいるよ)


 咲良は王子に話しかけられた嬉しさよりも、傍にいた女の子達の視線が痛かった。

 やっぱりKY王子だと心の中で思いながら「いえ、まだ……」と答えた。


「咲良はね、食べる度にこれが一番と思って、毎回写真撮っているのよ。でも、まだ決められないんですって」

 由香が嬉しそうに言うので、又余計な事をと思った咲良が「いや、あの、どれも美味しいから……」と言い訳にもならない言い訳をすると、王子とその取り巻きたちは笑い出した。


「学食が美味しいって……味覚音痴なんじゃないの?」

 王子の傍に立っていた目の化粧がやけに印象的な美人が、まるで内緒話のように小さな声で笑って言うと、他の女子たちも「そうよねぇ」と同調して笑っている。


 (聞こえているって言うの!)


 こんな風に聞えよがしの嫌味を言われるなんて咲良にとっては初めての事で、どう対応していいか戸惑った。ある程度自分の舌が肥えていない事は自覚していた咲良は、こうもあからさまに言われるとは思わず、王子の前で言われた事で、反発心よりも羞恥心の方が勝ってしまったのだった。


「そうかなぁ? 僕も学食、美味しいと思うけど? 村上はどう思う?」

 王子は悪気もなく、のんびりと言った。話を振られた村上は、ギョッとした様な顔をしている。おそらく最初に発言した女の子に睨まれたからだろう。

 咲良も王子の発言に驚いたが、女の子に睨まれる様な気がして、顔をそむけた。由香は自分の発言が発端だと言う事は棚に上げて、面白そうに観察している。


「ま、まあ、値段の割には美味しいんじゃね?」

 村上が答えると、女の子達も口々に「まあ、あの値段じゃねぇ」とか「値段に見合った味よね」とか言っている。

 そんな声を聞いて、咲良の中に沸々と怒りが沸いたが、王子は相変わらず爽やかに微笑んでいるのを見て、怒りがしぼんで行くのを感じた。


「今のところ、僕はネギ塩唐揚げ丼が一番かな? まだ、全部制覇した訳じゃないけどね」

 王子の全く空気を読んでいなさそうな、のんびりとした口調で語られたメニューに、咲良は思わず王子を見て「あっ、私もそれ好きです」と言ってしまった。


 (ああ、私も空気読めてないよ)


 言ってしまった後で、彼女達のしらけた様子に気まずさを感じたが、由香がプーッと吹き出し笑い出した事で、その場を支配しかけていた気まずさが、一気に吹き飛ばされた。


「何だかこのサークルの人達とは味覚の好みが合いそうにないわね」

 そう言うと、彼女達は部室から出て行った。「あー、ちょっと待ってー」とかけた声を無視された部長は、がっくりと肩を落としていた。




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