表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サクラ、サク  作者: 宙埜ハルカ
第二章:憧れのその先
10/80

10.新入生キラー

お待たせしました。

今回は少し長くなってしまいました。

どうぞ、よろしくお願いします。

 入学式の夜、寮の親睦会が行われた。前日の入寮日は、寮の説明会の後、歓迎会をしてもらい、今日の親睦会と言うのは、本来寮の食事があるのは平日の朝夕のみで、昨夜と今夜は土日のため夕食がないところを、先輩達が新歓行事の一環として、夕食を用意してくれたのだった。

 昨日の歓迎会では、新寮生の自己紹介と先輩達の紹介があった。そして今日は、班ごとに別れて親睦を深めるのが目的らしい。

 班は共有部分の掃除の当番のためで、部屋の位置によって班が決まっている。すなわち、各階には中央の階段を挟んで東西に5部屋ずつあり、その5部屋が一つの班と言う事になる。咲良達の部屋は、2階東班で、同じ班の中に各学年が上手く振り分けられている。満室なら10名だが、現在は8名だった。


「あなたたち、今度の3年に新入生キラーがいるから、気を付けるのよ。見た目は芸能人よりも整った美形で、いつも微笑んでいて、すごく優しいから、勘違いする女の子や一目惚れする子が続出するのよ」

 同じ班の4年生の先輩がニヤニヤ笑いながら忠告する。でも、笑いながらと言う所に危機感を感じさせなくて、どう気を付けろと言うのだろうか?


「そうそう、去年私もヤバかった。あの、人を引き付けるオーラ、私もうっかりよろめきそうになったもの。やっと最近免疫が出来たわ」

 2年生の先輩も苦笑しながら同意している。

 人を引き付けるオーラって……咲良の脳裏には王子の顔が浮かんだ。そして、その事に内心焦ったが、誰にも気づかれずに済んだ。


「先輩、新入生キラーって、タラシな訳ですか?」

 由香が目を輝かせて質問している。何だか興味津々な感じ。


「ん……タラシと言うのとはちょっと違うなぁ。本人は無自覚に女性の気持ちを引き付けるんだけど、誰も恋愛対象として見ていないのよね。中には本気になる娘もいてね、そんな相手には優しい彼が冷たくあしらうの。だから、彼に恋するなんてバカらしい事なのよ。まあ、しばらくすると彼のオーラにも慣れるんだけどね、去年も一昨年も新入生は、あのオーラにやられちゃったのよね。だから、新入生キラーなの」

 今度は寮長でもある3年生の先輩が説明してくれたけれど、分かったような、分からないような……咲良と由香は顔を見合わせ、首をかしげた。


「もしかして、その人、ゲイとか? それとも、恋人がいるとか?」

 もう一度、由香が尋ねると、先輩達がクスクスと笑いだした。


「その疑惑は去年も一昨年も流れたわね。でも、ゲイでは無いし、恋人はいないって本人が言っていたのよ。彼は嘘を吐く様な人じゃないしね」

 

「でも、誰も恋愛対象として見ていないって言うのは、どう言う事なんですか?」

 由香が尚も突っ込むのを見て、咲良は感心してしまった。


 (まあ、私も同じ事、気になったけど……)


「あ……だから、彼はそのよすぎる外見のせいで、いろいろ苦労して来たみたいで、恋愛には興味ないんですって」


 (へぇ~、そんな人もいるんだ。さすが都会だねぇ)


 何がさすがなのかわからないが、咲良がのんきにそんな事を考えていると、由香の興味は尽きないらしく、「何だかもったいないですね。でも、どんなにイケメンか見てみたいな。名前は何と言うんですか?」と訊いている。


「忠告のつもりで言ったのに、返って興味を湧かせちゃったみたいね。まあ、遅かれ早かれ知る事になると思うけど、彼は工学部3年の篠田啓介(しのだけいすけ)。平川男子寮にいるのよ。だから同じ寮生として、結構かかわりがあると思うから、早く彼のオーラに慣れてね」

 先輩は苦笑しながら説明してくれた。

 篠田さんと言うのかと咲良がどうでもいい情報と同じように特に重要とせずに記憶する横で、由香は脳裏に刻みつけるように口の中で「篠田啓介」と繰り返していた。



 その夜、自室へ戻って、後は寝るだけとなった頃、咲良は由香に話しかけられた。


「ねぇ、篠田さんって、そんなにすごいイケメンなのかな?」

 

「えっ? 篠田って? ……ああ、さっき先輩が言っていた、人を引き付けるオーラの人ね」

 突然話を振られて、咲良は咄嗟に何の話しか分からなかった。咲良にとっては単なる噂話でしかないからだ。


「もう、咲良ってイケメンに興味ないの? 飯島彼方の時だってそうだし……反対にショック受けていたよね。イケメンに嫌な思い出でもあるの?」

 由香の質問に咲良はきょとんとした。


 (イケメンに興味ない? 嫌な思い出があるかって? まさか……)


「そんな事無いよ。普通だと思うけど……」


「いやいやいや、普通だったら、新入生キラーと言われるぐらいのイケメンに興味湧くでしょ? それとも咲良は、付き合っている人がいるの?」


 (はぁ? 何でそんな話になるの?)


 咲良は由香の話の展開のスピードに付いていけなかった。答えなくちゃと思うと余計に頭の中がこんがらがる。


「えっ? あの……付き合っている人はいないけどって、今まで男の人と付き合った事無いんだけど、それとこれとどう関係あるの?」


「ええっ? 嘘……」


「嘘って……こんな事、嘘を言ってどうするの?」


「そうなんだ……でも、好きな人ぐらいいたでしょう?」

 由香の問いかけに、咲良の頭の中にまた王子の顔が浮かび、一人焦ってしまう。そんな咲良の様子に呆れたのか、由香は小さく溜息を吐くと「まあ、いいわ。明日、篠田さんを見に行こう」と言って、ニッと笑った。

 

     *****


 入学式の翌日からは、新入生対象のオリエンテーションやガイダンスのスケジュールが組まれていて、新しい事ばかりで咲良の頭はパニックになりそうだった。それでも知り合いのいない咲良にとって、由香は頼れる存在だ。

 由香の地元は電車の乗り換えを含めて1時間半から2時間程の所らしく、通えない事もないらしい。彼女と同じ高校からQ大へ進学した人もそれなりにいて、その中の咲良と同じ日本文学を専攻していると言う友達も自宅通学組だった。その友達、大原彩菜(おおはらあやな)を紹介してもらえたのは咲良にとってラッキーだった。と言うのも、専攻ごとにクラス分けされ、クラス単位でのオリエンテーションや懇談会があるので、知っている人がいると言うのは心強い事だった。

 咲良は又新しい出会いに、胸を躍らせていたけれど、早速由香に、飯島彼方の真実を知ってショックを受けた事をバラされ、驚かれてしまった。


「違うんだからね。イケメンがショックだったんじゃなくて、年が若い事がショックだったの。私の中では5、60代の紳士を想像していたんだもの」

 咲良は慌てて言い訳したけれど、彩菜に「咲良ちゃんって、なんだか天然ぽいのね」と盛大に笑われてしまった。

 

 その時、由香の携帯がメールの着信を告げた。メールを見た由香がニヤリと笑っている。


「さあ、噂の篠田さんを見に行くわよ」

 由香はそう宣言すると、目的の人のいる場所が分かっているのか、さっさと歩き出す。咲良と彩菜はお互いに状況が分からず顔を見合わせると、慌てて由香の後を追いかけた。

 新入生キラーと言われている噂のイケメン男子の話は、事前に彩菜にもしてあったので、どうして急に見に行く事になったのかを由香に尋ねた。

 さっきのメールは寮長からのメールで、噂の彼のいる場所が分かったら教えてもらう事になっていたらしい。咲良にしたら、そんな事を寮長に頼んでいた事自体驚きだが、寮長もそんな話に乗るなんて……。

 なんでも、寮長は平川男子寮の寮長と仲がいいので、その平川男子寮にいる篠田も寮長達と同級生と言う事もあり、彼の本日の予定を訊いてくれたみたいで、二人の寮長経由で、彼の居場所が分かったらしい。

 由香と彩菜はイケメンと言うキーワードに興奮するらしく、二人が興奮気味に喋っているのを、咲良は興味深く観察しながら後を付いていった。

 高校生の時、柚子と王子の話で盛り上がったのは、こんな感じだったのかもと、咲良は一人思い出してクスリと笑った。


 辿り着いた場所は、生協前の広場で、いくつかのサークルが勧誘活動をしている。その中で一番人だかりのところに、どうやら目的の人がいるようだ。

 三人は人垣の後ろから覗き見た。説明している人の横で微笑んでいる人がどうやら噂の彼のようだった。


 (わぁ~噂通りのイケメン。眼福、眼福。でも、私は王子の方がいいけど。ん……見た事がある様な気がするけど、誰かに似ているかなぁ)


「おぉ、想像以上じゃないの。先輩の忠告が無かったら、よろめいていたかも」

 由香の呟きに答えるように彩菜が「ホント。これは新入生キラーなの分かるわ。あの微笑み、王子様みたい。眼福だわ~」と視線を噂の人に当てたまま呟いている。

 二人の呟きに咲良はクスッと笑いながら、周りを見回した。見事に女子ばかり。でも、周りの会話を聞いていると、どうやら今年は新入生キラーの噂が先行していたようで、噂以上のイケメンと認めて見惚れているくせに、「でも、恋愛対象で見る女性には冷たいんだってね」とか「女性に興味ないらしいよ」とか「やっぱりホモ説は本当なの?」とか、とか……勝手な事を言っている。


 (こんな風にいろいろ言われちゃうから、恋愛に興味なくすんだよね)


 咲良はこの見目麗しい先輩に、心から同情した。


「ねぇ、このサークルに入らない?」

 あの後、勧誘のチラシを貰って、三人はカフェに落ち着いた。あの時、説明なんかちっとも聞いていなかった咲良には、何のサークルなのか分からず「何のサークルなの?」と訊き返して、二人に盛大に呆れられた。


「B級グルメサークル【グラットン】だって。ちなみにグラットンは英語で食いしん坊の意味ね」

 由香の説明に『さすが英米文学専攻!』と咲良が感心していると、「それで、どう?」と追い打ちをかけられた。咲良は「ちょっと待って」と言うと、慌ててチラシに目を通す。

 美味しくて、量が多くて、安いの三拍子そろったお店やメニューを開拓し、情報を集めて冊子にして、大学祭の時に売り出すらしい。もう何年も続いているサークルらしく、雑誌に紹介されたり、ラジオやテレビの取材を受けたりした事もあるらしい。Q大の学食だけでなく、近隣の大学の学食まで足を伸ばし、もちろん大学周辺のお店も毎年チェックして、割引券なども協賛してもらっているらしい。

 高校生の頃は、友達と行く外食なんて、ファーストフードかファミレスが定番だった。でもこれからは、昼食は外食になる訳だから、こんな情報はとてもありがたい。おまけに、今回入部した人には、去年の情報誌を進呈と書いてある。

 咲良はここまで確認すると嬉しそうに顔を上げ、「いいね、このサークル」と笑顔で告げた。咲良の返事を聞いて由香も嬉しそうに「でしょ? おまけにイケメンで目の保養もできるし」と笑っている。


「あの先輩は眼福だったよね。私も覗きに行こうかなぁ。去年の情報誌を貰ったら、見せてね」

 彩菜がチラシに落としていた目を上げて、ニヤリと笑った。


「えっ? 彩菜ちゃんは入らないの?」

 

「彩菜はね、陸上部に誘われているのよ。なんといっても、800mでインターハイにでたぐらいだから。もう決めているんでしょう?」

 由香の説明に咲良が改めて彩菜の方を見ると、「まあね、今日もこれから先輩のところへ行く予定なの」と恥ずかしそうに笑った。


 (なんだか皆すごいなぁ。Q大へ入るぐらいだもんね)


 そう言う自分もQ大生だと言う事は、今の咲良の頭の中から抜け落ちていた。


 そんなこんなで、翌週の月曜日、B級グルメサークル【グラットン】の入部希望者の説明会があるので、咲良達は部室のある学生会館へ向かった。部室の入口あたりに、入部希望者がひしめいている。やはり女子が多そうだ。噂が先行していても篠田効果があったと言う事なのだろう。

 咲良は何気なく入口にいる人達の隙間から中を覗いて心臓が止まりそうになった。


 (ど、どうして……ここに王子がいるの?)


 彼もまたQ大生である事を、一瞬頭の中から抜け落ちた咲良だった。

 


 


 



 

  

な、なんとか、王子登場までたどり着けました。

あっ、まだ、見ただけだけど……(汗)

王子にはまだ咲良の存在を認識されていないけど……(爆)

次回をお待ちください(ぺこり)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ