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「その者の名は」  作者: mumu3173
第二部- 片思い
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「明かされる理由」2

「なんでだよ!? どうしてそうなるんだよっ!!」


 腕輪の語る『宣言』を、俺は理解できなかった。

 左腕に嵌めた腕輪を何よりの宝なのだと語り、美しい月を見ては闇を照らす唯一の光と語ったラエルを思い出す。声しか知らぬというその謎の導き手を命の恩人なのだと敬い、頼ることの出来た唯一の人物だったはずなのに。


「なんでアンタがラエルをって……そういう話になるんだ! ――やるなよ! 断ればいいだろ!? しなきゃいいじゃないか! 何故ラエルを助けてきたはずのアンタが、ラエルを追い詰めるんだよ!」

「ロアーツ、ちょっと黙って!」


 母の鋭い声が俺を制した。


「母さん、でも!」

「――腕輪の声の方。あなたが言った偽りの名は……それは、言霊の力ね?」


 母の言葉は確信めいた口調だった。


「……言霊、か。我らが信じるものとは別のものだが、確かにその信仰の方がそちらには馴染み深いのだろうな」

「ええ。その類の本なら、わたしの実家(シュバルツの家)にもあるから、見たことがあるもの」


 腕輪がそれを認めたことに、母は納得したかのようにうんうんと頷いている。


「なるほどね。だから、ラエルちゃんはロアを主と呼ぶのね? その名前を名乗ることになったきっかけとしてロアが関わったことに間違いは無いのだから。そして、普段は極力その名前を呼ぼうとしないのも、ラエルちゃんに名を与えた形となったロア自身の名が知られるのはまずいから、なのかしら?」

「まずいって、どういうことだよ?」

「馬鹿ね。考えても見なさいな。おまえの所有物はおまえのものだけど、おまえ自身をわたしの所有物にしてしまえば、おまえの所有物は当然わたしのものになるでしょう? ……そういう理屈よ」

「――どういう理屈だよ! ありえないだろ、そんなの!!」


 至極当然と言わんばかりな母の論理に、俺は納得がいかなかった。


「名を縛られることの無いだろう者には、この苦痛がどうにもわからぬのだろうな……」


 腕輪が、呻くように呟いた。


「我ら魔の力や術に関わる者にとっては今でも強く名残が残っている――真名というものがある。古くは、創世記の神々が『全ての物事に名を与え、それを使役し、全てを支配した』と言う迷信。しかし、我らの世界では少なくとも迷信などではない。真名を知る者、知られてしまった者……真名を持つとされるそれら全てのモノに深い影響を与えるのだ。仮に意思を持つ人であったとしても、その名を奪われ、奪った者からの偽りの名を与えられることは、最悪の場合、思うまま使役される『操り人』と成り経てしまうのだ」

「――操り人って……そんなの、冗談だろ!? その真名なんてもの、知られなければいい話じゃないか!」

「抗いたくとも、強大な力を持つ者にはいずれ知られてしまうのだっ!」


 腕輪が声を荒げ、激昂する。その声は腕輪の主自身本意ではないという思いを現しているようだった。


「なあ、ロアーツ。きっと、おまえだって同じ気持ちだろ? 救う手立てがその方法しかなかったから、俺は俺だけにしか彼女の居場所がわから無いように呪い(まじない)を掛けた。俺の全ての力を込めた術……『真名』を用いて行う秘術の一つだ。だから、俺さえヘマをしなければ、彼女は自由になれる。――そう思っていた。まさか、こんなにも早く『名』を奪われて使役されるとは思ってなかった。俺が名を奪われる頃には、アイツも力を失うだろうし、彼女の力も底をつくだろうと思っていたのに……」


 苦々しげに呟く腕輪の声が言い終えるのを待っていたかのように、父が「お尋ねしたいのだが」と言った。


「狙いがわからないと仰るわりに、彼女の力が有限のものらしいことをご存知なのは何故でしょう?」

「恐らくとしかいえないのだが……純粋な魔力は、成人前の子供しか持たないとされているからだ。普通ならばとうに失われるはずの力を特殊な術を使って消失を食い止めることで、多くの者が魔術使いを名乗っている。加齢とともに力は衰えて失われるのが自然の摂理なのだが、それを認めたくないものに限って、力をも権力をも求めるからな……」

「ラエルちゃんの魔力が原因だと仮定できるなら、彼女に負担が無いように失くしてしまうことはできないのかしら?」

「魔の力を多量に使用する魔術を乱用すれば、無くなるかもしれん。だが……」


 腕輪は、無理だろうなと呟いた。


「成人する以外ないってことなのかよ? 何か手立ては……!」

「……無理やりにオトナにすると言う方法も、あるにはあるがな」

「っ! 方法があるのか?」


 藁にも縋るような思いでそれを聞き出そうとすれば、腕輪はためらうような口調になった。

 

「……あるにはある、という程度だ。目くらましでしか無いが、魔力はそのままに、黄金の色だけを失くしてしまうことは出来る」

「オトナにする、って……」


 母はまさかねと一人ごちて、ラエルを見やる。

 釣られて俺もラエルを見ていたのだが、ラエルは泣いているようだった。


「……だから、わたしに『三人の男の子』と出会わせたんですね? 彼らに出会い、彼らと共に過ごすように。初めから、全て……っ!」


 涙交じりに声を荒げるラエルに、腕輪は、それを認めた。


「おまえのためだ。だから……」

「――っ、嘘つき!」


 ラエルは叫んだが途端、腕輪を外して、床に叩き付けた。

 そして、部屋の外へと一目散に駆け出してしまった。


「お、おい、ラエル!?」


 ころころと床に転がる腕輪の有様に俺は仰天したものの、直ぐに体は動いてくれて、ラエルの後を追おうとする。父も母もあまりのことに驚いて動けないでいるのか、立ち尽くしているようで、俺が二人を置いて行こうとしたとき、今にも消えそうなほど小さい声が俺を呼び止めた。


「――ロアーツ」


 思わず舌打ちしてしまいそうになったが、腕輪の交信が声と声を伝えるものだと思い当たって、俺は頭をかいた。


「あー、そうか、おまえ見えてないからわかんねぇのか! 今、ラエル外に出ちまったんだ! 腕輪、話ならまた聞くから、今はラエルを追わせてくれ!!」

「ああ……彼女を、頼む。ロアーツ。おまえなら、もしかしたら……抗えるかもしれん。だから……」

「ラエルのことは心配するなよ? 俺が、絶対守るから!」


 弱弱しく光る腕輪に、俺は宣言するようにそれを言って、部屋を飛び出した。


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