お握り
掲載日:2026/05/10
ノリと勢いと徹夜テンションで書き上げました。
弱みを握る大将
「へいらっしゃい!」
「おう大将!」
「やあやあ黒岩さん。伝えた通り今日は活きの良いの入ってるよ!」
都内某所。昼夜を問わず眠ることを知らない街の雑居ビルたち。その隙間を縫うように張り巡らされた細い路地の先に居を構えるこじんまりとした寿司屋に、常連である黒岩は今日も足を運んでいた。目当ては一昨日に予告されていた限定の握りだ。
「くぅ〜、ここまで我慢して来た甲斐があるってもんだ。大将、一番良いのを頼むよ」
「あいよ! 黒岩さんにはお世話になってるからねぇ。特上の握りをご馳走するさ」
黒岩は大将の目前のカウンターへ着席し、今か今かと手を清めながら、まるで少年のように目を輝かせている。すると奥からお弟子さんだろうか、年若い坊主の青年がジャラジャラと音を立てながら鎖に繋がれたケースを運んできた。
「おぉ!? 今日はまさか目の前で捌いてくれるんかい!?」
「そりゃあ黒岩さんはお得意様ですからねぇ。ささやかながら目でも楽しんでいって下さい」
大将は不敵な笑みを浮かべ、声高々にそう告げる。
「いやぁまさか、守秘義務違反したうちの大馬鹿の弱みだなんて、いいもん握ってくれますなあ」
黒岩は静かに、だが大将と同じように愛的な笑みを浮かべた。




