表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

嫌いあい

掲載日:2026/03/28

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 な~んか、あいつとは一緒にいたくないな。

 そう感じる相手って、これまでどれほどいたかを自分で把握しているかい?

 理由を説明できる相手から、生理的にだめだという相手まで、いろいろと種類がある。公の場ではビジネスライクに対応していても、いざオフでプライベートの領域となると一切かかわりたくない、というものも。

 そのこと自体は、個人の心の平穏のためにも悪いこととは断じづらい。全員に良い顔して付き合えるなんて、よっぽど特別な資質でもなければ難しいだろう。

 しかし、嫌でも会わなきゃいけない相手、もしくは会ってはいけない相手の存在などがあるとなかなかややこしいものだ。

 私の学生時代の話なのだけど、聞いてみないか?


「うい~っす」


 そういって、教室へ入ってくる声が聞こえるたび、私は心の中でため息をつく。

 Bくん、としておこうとか。Bくんはクラスで一緒になったときから、どことなく気に入らない人のひとりだった。

 何が苦手なのか、と問われて答えるのは難しい。容姿、仕草、口調などなど、なんとも気にならないときもあれば、一瞬で沸点ギリギリまで怒りがゆだって、どうにかしそうなときもある。

 総合すれば、気に食わない。できれば同じ空気を吸いたくない、といったところだ。能力そのものは決して低いわけじゃなく、もし別の人の「ガワ」をかぶっていたならば印象も変わっていただろうな。

 向こうもこちらへ積極的に働きかけてくることはないのは、幸いといえた。学級内における必要最低限の接触のみを重ね、やがて二学期も終わった。


 その年明けに、彼がやってこないというのは、内心ほっとしたよ。

 それまでも彼が休むと確定したときは胸をなでおろしたものだが、よもや新年の一発目からを顔を見ないで済む、とは思わぬ幸運だった。前日まで、顔合わせることへの覚悟を固めていたぶん、余計にね。

 しかし、会わないなら会わないでいいが、消えてほしいとかまではいかない心地、というのがなんとも微妙だ。あくまで個人的な話であり、世界的とかコミュニティ的にはいなくなるべきではないと思う。職場の上司のような感覚かなあ。

 だから彼が半月ほど連続で休んでしまうころには、清々する反面、本当に大丈夫だろうかと心配する気持ちもちょっぴり湧いてきてしまったよ。これらを一緒に持つことは私の中では矛盾しないんだ。


 だから、休みの外出中。

 はからずも、駅前を通りかかったときに彼の姿を見かけたときも、ちょいと複雑な気持ちになったものだ。

 駅前に設置された、地下鉄乗り場へ通じる階段のひとつ。その出入り口付近に、彼を含めた数人が集まっていたんだ。いずれも私が知らない人ばかりだった。

 学校の中ばかりが、その人の付き合いのすべてではないだろう。そういうこともあるさと思いつつも、そばを通るのも気が引けた。ちょっと手前でさりげなく向きを変えかけたとき、周囲の音を貫いて彼の声が鼓膜を打った。


「おい、あいつ、誰が呼んだんだ!?」


 私に対してではなかったかもしれない。しかし、あたかも私に来られると困るといわんばかりの強い語気だった。

 別にそちらがこちらを嫌うのは勝手だが、こちらがさんざ表に出さないよう気を付けていたものを、向こうが先に吐き出してくるのは、気に食わない。「こちらが我慢してんのに、なんでそちらは我慢しないんだ、てめー!」て感じさ。

 なめられている。もう反射的に、あらためて彼のいるほうへ向かっていたね。


 彼は逃げていた。

 あの集まっていたメンバーで人垣を作り、あたかも合戦の大将であるかのようなふるまいさ。

 だが、そんなのは関係ない。私をなめくさった以上は一発、面と向かって言い返してやらないと気が済まない。

 俊足を自負していた、当時の自分の足にものを言わせ、人垣をまわりこんで彼と対面した。

 彼は明らかにおびえた顔をしていた。学校ではついぞ見たことない表情に、ますます私は頭に血がのぼるのを感じる。

 が、そこからどのように言葉を紡いだか、私は覚えていない。

 のぼり続けただろう血が、ほどなく視界すらも真っ赤に染め上げたばかりか、顔じゅうから無数の激痛を発し、私は意識を失ってしまったのだから。


 ほら、いまも顔に傷が残っているだろ? 病院で目を覚ましたときには、もう包帯でがんじがらめでさ。もう葉っぱの表面かと思うほど、血管に沿ってひびが入りまくっていたよ。本気で顔がはじけるんじゃないかと思ったくらいさ。

 彼はというと、同じ病院にはいたが私とは別の個室でね。面会はできずじまい、退院してからも学校へ復帰することはなかったんだ。

 おそらくは私と同じか、それ以上にひどかったんじゃないかと思う。

 私の身体は、いずれはこうなる恐れをすでに把握し、距離を取るために嫌おうとしていたのかねえ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ