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武士(もののふ)クライシス  作者: マイン


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領地の境界線

真田さなだ 義人よしと豪族の支配地域は、中央の干渉を排除して以降、独自の経済圏を確立しつつあった。真田の資金力と真田武士団の武力により、物流、電力、食料生産は安定。住民は安堵する一方で、自らが真田の**「領民」**となった事実を受け入れ始めていた。


しかし、この平穏は、外部の混沌から隔絶された薄氷の上に成り立っていた。


真田の領地の西側には、古くからの大地主で、地元の建設会社社長でもあった**中川なかがわ 忠信ただのぶが率いる勢力が存在していた。

彼もまた、独自の「自衛団」を組織し、熊害と略奪者から地域を守ることで、周辺の集落をまとめ上げ、「中川勢力」**として台頭していた。


真田豪族と中川勢力の境界線は、自然に引かれていた。それは、両勢力圏を潤す**阿波川あわがわ**の上流と下流で分断された水利の境界線だった。


衝突は、秋の稲刈りが終わった直後、阿波川の上流にある小規模なダムの管理権を巡って発生した。


真田豪族は、米の乾燥と電力供給のため、ダムの放水量を増やすよう要求したが、中川側は自領の農業用水確保を理由にこれを拒否。水は、この現代の戦国における最も重要な資源であり、両者の言い分は真っ向から対立した。


真田は、筆頭武士である**加納かのう 幸蔵こうぞう**に武士団を率いて出動するよう命じた。


「加納さん。阿波川のダム管理小屋を制圧しろ。これは、武力による領地防衛だ」真田の目は、冷たい光を放っていた。「彼らが武力で抵抗するなら、容赦は無用だ。彼らは、我々の領民の生存を脅かす敵である」


幸蔵は、ついにこの時が来たことを悟った。自分たちが熊ではなく人間と戦い、防衛ではなく侵略と制圧に手を染める日が。


「分かりました。ただし、私は不必要な流血は避けます。あくまで、武力による威嚇と交渉を優先させていただきます」


幸蔵は、弟子である**青山あおやま たける**を含む精鋭隊を率い、ダムへと向かった。


ダム管理小屋の前には、既に中川勢力の「自衛団」が陣取っていた。彼らも元猟師や警備員崩れであり、真田武士団と同じく高性能の銃器で武装していた。


中川勢力のリーダーは、中川忠信の片腕である元自衛官だった。彼は、真田武士団の威圧的な制服と銃列を見て、顔色を変えながらも、一歩も引かなかった。


「そこから先は、中川様の領地だ!真田の武士団、何用だ!」リーダーが叫んだ。


幸蔵は、ライフルを背負ったまま、冷静に一歩前に出た。


「我々は、阿波川の水利権確保のために来た。中央政府は機能不全だ。水は、力によって確保されるべきだ」


「笑わせるな!先にこの水を管理してきたのは我々だ!お前たちの武力で、我々の命綱を奪おうなどと、許すものか!」


緊張が最高潮に達し、両武力集団は銃の安全装置を外す音を響かせた。彼らの間に引かれた目に見えない線、それが、現代日本の地方に突如として現れた**「国境」**だった。


猛は、初めて武士団同士の対峙に立ち会った。熊との戦闘とは全く違う、人間の覚悟がぶつかり合う冷たい空気。彼の呼吸は浅くなった。


「加納さん…本当に撃ち合うんですか?」猛は幸蔵に耳打ちした。


幸蔵は静かに答えた。「撃ち合うのは、最悪の手段だ。だが、猛。武力とは、撃ち合う覚悟を見せつけることで、初めて平和を維持できる。これが、お前が護ろうとしたこの時代の現実だ」


幸蔵は、一瞬の隙を突いて、ダム小屋の鍵がかけられた扉の蝶番に、威嚇ではない正確無比な一撃を放った。金属が弾け飛ぶ音が、ダムの壁に響き渡る。


「我々は、武力で水の確保が可能であることを示した。中川殿に伝えろ。これ以上の武力衝突は、双方の破滅を招く。公平な水利権配分の話し合いの場を設ける。応じなければ、次は領地の全てを武力で奪いに行く」


幸蔵の恐るべき射撃技術と、冷徹な恫喝は、中川勢力の戦意を一時的に削いだ。彼らは、真田武士団の武力の方が、わずかに上回っていることを肌で感じたのだ。


中川勢力は、一時撤退を選んだ。


真田の事務所に戻った幸蔵に対し、真田は満足そうに微笑んだ。


「見事だ、加納さん。無駄な流血なしに、こちらの優位を示した。これで中川も、こちらの条件を飲むだろう」


幸蔵は、ダムの水面を映した衛星写真を見ながら、静かに報告した。

「真田様。我々は、領地を拡大し、隣接する勢力と争うという、新たな段階に入りました。我々はもう、地域の防衛者ではありません。あなたは、この地で戦国時代を始めている」


真田は顔色一つ変えずに答えた。 「戦国?構わない。乱世にこそ、真の支配者が生まれる。そして、君たち『武士』は、その乱世を生き抜き、真田家を天下に導く刀となるのだ」


幸蔵は、自分の手が、住民を守る盾ではなく、真田の欲望を切り開く刀になってしまったことに、深い絶望を感じた。彼の心の奥底で、真田への反逆の意思が、静かに芽吹き始めていた。

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