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武士(もののふ)クライシス  作者: マイン


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5/12

血染めの防衛線

「地域安全組合」が**豪族・真田さなだ 義人よしと**の武力として機能し始めて二ヶ月。県内の治安は目覚ましい回復を見せていたが、その平和は、真田が定めた「地域安全条例」と、**加納かのう 幸蔵こうぞう**率いる武力によって、厳しく管理されていた。


しかし、日本全体は静かに荒廃していた。物流は不安定化し、都市部では食料や資源の不足から小規模な暴動が頻発。中央政府の統制力が弱まるにつれ、地方への略奪が始まった。


この真田豪族の**「領地」でも、外部から侵入する「新たな敵」**の影が濃くなりつつあった。


ある深夜。真田豪族の所有する大規模な無人農場に、複数の侵入者がいるとの警報が鳴った。目的は、収穫を控えた米や野菜の強奪だ。


幸蔵と**青山あおやま たける**は、元警官や元自衛官を含むチームを率いて現場へ急行した。


「熊じゃない。人間だ。散弾銃は使わずに、威嚇射撃と制圧を優先しろ!」幸蔵が指示を出した。

彼の表情は硬かった。彼らが銃を人間に向けることは、この組織の存在意義を根底から変えてしまう。


現場に到着した組合員たちは、農場に侵入した複数の人間が、袋いっぱいに食料を詰めているのを発見した。彼らは餓えに苦しむ都市部の住民崩れで、装備らしいものは持っていなかったが、その眼差しは獣のように濁っていた。


「地域安全組合だ!直ちに手を止めろ!抵抗すれば実力行使に出る!」元警官の組合員が警告を発した。


略奪者たちは警告を無視し、逆に鍬やバールを振り上げて抵抗してきた。彼らにとって食料は命であり、抵抗は必然だった。


「このままでは組合員が怪我をする!」


幸蔵は苦渋の表情で「脚を狙え!」と命令を下した。


戦闘は一瞬だった。高性能な装備と訓練された武力を持つ組合員に対し、略奪者たちはなす術がない。数人が脚を撃たれ倒れ、残りは食料を捨てて逃走した。


猛は、初めて「人間」を相手に銃を構えた。彼の目の前で、略奪者が撃たれ、血を流して倒れるのを見た。彼は、幸蔵に救われた時の熊の恐怖とは違う、ぞっとするような感覚に襲われた。略奪者との格闘の中で、彼の腕にも鋭い傷跡が刻まれた。


「加納さん…なぜ…なぜ殺さないんですか?彼らは明らかに危険だった」猛は震える声で尋ねた。


幸蔵は、血を流す略奪者を見下ろし、静かに答えた。

「この銃は、人を守るためのものだ。必要以上の殺戮は、支配者の傲慢に変わる。我々は、真田の私兵だが、人を無意味に殺す道具ではない」


組合員たちは、捕らえた略奪者を警察署に引き渡した。しかし、中央の司法制度は既に麻痺していた。警察は書類手続きに追われ、裁判所は機能不全。略奪者たちは形式的な取り調べの後、すぐに釈放されてしまった。彼らはまた、食料を求めてこの地域に戻ってくるだろう。


真田の怒りは頂点に達した。


「行政も警察も、法の支配も、この地を守れないということが証明された!ならば、我々が新たな秩序を作る!」


真田は、弁護士と元裁判官を囲い込み、組合本部に隣接する形で「簡易治安法廷」を設立した。この法廷は、真田の定めた「地域安全条例」に基づき、略奪者などの犯罪者に対し、独自の判決を下すというものだった。


次に捕らえられた略奪者は、この法廷で裁かれた。判決は「強制労働と地域外への永久追放」。


猛は、この一連の流れを見て、自分が師事した「力」が、ついに法の領域にまで踏み込んだことを悟った。公的な法が意味を失い、武力を背景にした私的な法が生まれた瞬間だった。


幸蔵は、そんな猛に訓練を続けた。彼の訓練は、ただの射撃訓練ではない。戦闘における**「間合い」と「覚悟」**を学ぶことだった。


「いいか、猛。武力とは、持つ者に倫理を問う。お前が銃を抜く時、それは自分の命と、守るべき人々の命、全てを天秤にかける覚悟がなければならない」


猛は、幸蔵が背負う「豪族の武力」としての宿命と、彼の持つ「猟師としての倫理」の二面性を理解し始めていた。


ある日の夜間パトロール中、彼らは熊と遭遇した。猛は幸蔵の指示通り、冷静にライフルを構え、一撃で熊を仕留めた。


熊の死骸を見下ろしながら、猛は自分の腕に刻まれた、略奪者との格闘で受けた傷跡をなぞった。


「加納さん。俺は、もう迷いません。この銃は、この地を脅かすもの全てに対し、引き金を引きます」


猛の眼差しは、都市から来たIターン青年の弱々しさを失い、血と鉄の匂いを纏い始めていた。


幸蔵は、静かに頷いた。 「そうか。ならばお前は、この時代の**『武士の卵』だ。だが、忘れるな。誰のための武力か。それを間違えた瞬間、お前はただの人殺し**になる」


真田豪族の武力は、こうして熊だけでなく、人間をも敵とし、防衛者としての性格を強めていった。そして、その担い手である猟師たちは、明確な階級を持った**「武士」**へと、その身分を確定させていった。

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