令和の大乱、前夜
**加納 幸蔵率いる「里山守護衆」の独立は、豪族・真田 義人にとって、単なる武力の流出以上の意味を持っていた。
それは、真田の絶対的な支配と、「武力は豪族の利益のためにある」**という秩序への、正面からの挑戦だった。
真田は、直ちに里山守護衆の討伐を命じた。しかし、幸蔵は元々この地のベテラン猟師であり、山野の地形を熟知している。
追討部隊は、幸蔵たちが仕掛けた罠と、山中での巧みなゲリラ戦法により、大きな損害を出し、成果なく撤退を繰り返した。
「あの老いぼれ…山を味方につけている!」真田は苛立ち、豪華な調度品を叩き割った。
幸蔵の「真に民を護る」という理想は、真田の支配に不満を持つ一部の領民や、周辺の小規模な集落に支持され始めていた。このまま放置すれば、真田豪族の支配体制そのものが揺らぎかねない。
真田は、己の傲慢さを一時的に脇に置く決断を下した。彼は、阿波川の水利権を巡って対立していた隣接豪族、**中川 忠信**の元に使者を送った。
中川勢力もまた、武力を持った独立集団の出現を警戒していた。幸蔵の理念が、中川の領民に伝播すれば、自らの支配も危うくなる。
真田と中川、二大豪族のトップが初めて顔を合わせた。その会談場所は、中川勢力の領地と真田領地の境界線にある、廃墟となったゴルフ場だった。
「中川殿。水利権の件は、一旦棚上げとしよう」真田が切り出した。
「今、我々が戦うべき相手は、幸蔵という逆賊だ。彼が掲げる『武力による自治』などという甘い理想は、この乱世では危険なウィルスでしかない。彼の成功は、我々全ての豪族の破滅に繋がる」
中川忠信は、真田の提案を慎重に検討した。彼は、真田の支配欲を嫌っていたが、幸蔵の「里山守護衆」が掲げる武力の在り方は、自分たちの支配体制を揺るがすイデオロギーだと理解していた。
「分かった、真田殿。我々も、武力による秩序の維持が不可欠だと考える。里山守護衆の討伐に、兵を出す」
ここに、**「東西豪族連合軍」**が結成された。真田の資金力と最新装備、中川の地の利と兵員が組み合わされ、その武力は圧倒的だった。
連合軍は、元猟師、元警官、元自衛官からなる総勢数百名という、現代の地方では考えられない大軍勢となった。
一方、里山守護衆の本拠地。幸蔵たちが選んだのは、かつて彼が猟師として一人で過ごした、人跡未踏の山奥の古い山小屋だった。
**青山 猛**を含む守護衆は、総勢わずか十数名。真田・中川連合軍の圧倒的な戦力を前に、彼らは静かに準備を進めていた。
「加納さん。我々だけでは、とても太刀打ちできません」猛が懸念を口にした。
幸蔵は、古びた地図を広げた。そこには、この山脈にある全ての水脈、獣道、隠れ穴、そして廃道が詳細に書き込まれていた。
「正面から戦う必要はない。武力とは、量ではない。効率だ。奴らの最新装備、ドローンも装甲車も、この里山の中ではただの重い鉄の塊に過ぎん」
幸蔵の戦略は、明確だった。山野の知識とゲリラ戦術を駆使し、連合軍の兵站(食料・弾薬の補給線)を寸断し、指揮系統を混乱させること。そして、豪族内部の不満分子を刺激し、内部崩壊を誘うことだった。
幸蔵は、猛に一振りのナイフを渡した。 「猛。これからは、お前が指揮系統の中心となれ。私は老いた。だが、お前には、この戦国時代を生き抜く覚悟がある」
「加納さん…」 「いいか。私たちの戦いは、真田や中川を倒すことではない。『武士とは誰のために存在するか』、その真の姿を、この時代の全ての人間に示すことだ。この戦いが終われば、武力を持った覇者なき時代が始まる。その時、お前が真の武士の棟梁とならねばならない」
幸蔵は、自分の命を賭けて、猛を次世代の指導者として育て上げようとしていた。
夜が明け、連合軍の進軍が始まった。里山守護衆の小さな旗印が、圧倒的な大軍勢の前に、毅然と翻っていた。
**「令和の大乱」**が、今、まさに始まろうとしていた。




