但しイケメンに限る、というわけではない幼馴染ちゃんの百合事情
Xで見かけて地涌用があるならと思って思いついたので書きました
人間見た目ではないというのを知っていたとしても、人当たりの良さや装いで容易く引っ張られてしまう。
とはいうものの、彼女の場合、実は違っていたのだが。
嫉妬という感情は時に人を狂わせてしまう。
喧騒とは程遠い昼間の酒場兼レストランにて。
休憩と食事を兼ねて入った店の椅子に座りながら、自嘲気味な考えが浮かびつつもまだミリアー銀髪に赤い瞳の魔法剣士-は助けてくれたもう一人の幼馴染にお礼を言っていなかったのを思い出して、幼馴染の彼女-金髪に青い瞳の剣士-レーゼにお礼を言う。
「助けてくれてありがとうレーゼ。今あまり持ち物が無いから、後でお礼をするわ」
そう告げるミリアにレーゼは困ったように、
「別にいいわ、この程度、大したことはないもの」
「でもあそこのダンジョン、危険な魔物がいて私でも歯が立たなくて、あの“イケメン勇者様”も倒れた私を置き去りにして、私の武器とかその他持って逃げて行ったのに?」
「あそこの魔物は、貴方が“振った彼”がすでに倒したから。だから私は安心して貴方を探せたけれどね」
「嘘。だって私達が別れてから、一か月しか経ってないよ?」
「色々あったの。…でももう寄りは戻せないわよ?」
「…分かってる」
レーゼの言葉に、ミリアはそう答える。
自分が何をしたかは覚えている。
それでも、嫉妬心が勝ってしまったのは自分の焦りからだ。
そこでレーゼが自身の金色の髪を弄びながら、
「それでもやっぱり、前の幼馴染の彼…彼に助けて欲しかった?」
その言葉に黙ってしまった。
虫のいい話だが、自分から振った彼に助けて欲しかったのは事実だ。
生死の境、あの時よぎったのは彼だったから。
もっとも、助けてくれたのはもう一人の幼馴染である彼女ではあったけれど。
それでも失望が少しあったけれど安堵したのは事実。
「それはまだあったけれど、レーゼに助けてもらえて嬉しかった」
「そう。…実は私まだ彼のパーティにいてね、でも、貴方を探しに行くのは抵抗があったみたい」
「そっか…」
「だから私が探しに来た。案の定、悪い噂を聞いていたけれどその通りだったみたいね。貴方を使うだけ使って、動けなくなったら荷物を盗んで置いてきぼり…良くそんな真似が出来るわね」
「…」
「貴方、前から男を選ぶ才能が無いわよ。そのイケメン勇者の前の、私達の幼馴染だけが唯一まともなだけで…」
「う、うるさいな…。本当に実害のある男を選んだのは今回だけだし」
「それで死にかけたらダメでしょう。…ミリア、一つ聞いていい?」
「何?」
そこでレーゼが意を決したように、
「どうして幼馴染の彼を振ったの? 貴方、大好きだったじゃない」
それにミリアは黙った。
自分の心の醜い部分に手を付けたくなかったからだ。
でも、自分の中だけにとどめておくのはもう辛かった。
それに相手は幼馴染であるレーゼ。
彼女相手ならばいいだろうと、一度水を口に含んで飲み干し、少し頭を冷やしてから、
「彼、私だけに優しいだけじゃないんだなって」
「…」
「彼女だった、私にだけ優しんじゃなくて。他の子にも優しくて。そこも好きだったけれど、だから、隠れて彼の事が好きな人もいたし、隠れなくても好きな人もいた。段々に頭角を現していって、でもそれにつれて、“彼と私だけ”がどんどんなくなっちゃった。私はもっと“彼”の特別でいたかったんだ」
「…」
「そのうちたまたま、あのイケメン勇者と話すことがあって、誘われて…でも、その光景、彼も見ていたはずなのに、話題にも出さなくて。もっと、問いただしてくれればいいのに、ああ、私は彼にとって“その程度”で、たまたま私が告白したから一緒にいただけで、何とも思っていないんじゃないかって」
「…」
「結局、あのイケメン勇者の方に行くって言った時も、その時酷い事言って振った時も、彼は下を向いて笑うだけで私に何も言わなかった。一言でも、『どうして』って聞いてほしかったし、ののしるくらいして欲しかったし…引き留めて、追ってきて欲しかった。でも何もなかった。彼の感情を揺さぶるくらいに大きなものは、私とは、“何もなかった”。私なんてその程度だったの。私“だけ”が好きだったの」
そこまで一気に話して、ミリアは一息ついた。
するとレーゼが、
「彼、貴方が出て行って凄く後悔して嘆いていたわ。それで他の子に慰められてはいたけど…強くなったのはそれがきっかけだったわ」
「そう…なの?」
「少しどころか彼なりに貴方が好きだったみたいだけど、それはもう克服して、別の子がいるから…元の位置には戻れないわよ」
「そう…」
「でも貴方との関係は心の整理がついていないみたい。ただ気にはかけていたみたいだから、後で一緒に謝りに行きましょう。それと信じてもらえるかは別にして、嫉妬でやってしまった事は伝えておくと良いわ。彼、引きずっているようだし」
「…分かった。その時、レーゼは一緒に来てくれる?」
「いいわ」
そう答えた幼馴染にミリアは微笑む。
仲のいい彼女は、ミリアに優しくて…でも幼馴染の彼には、ちょっとだけ厳しかった。
そんな彼女にミリアは、
「でも私をあんな状態で、ダンジョンに置き去りにしたイケメン勇者はやっぱり許せない」
「後で元気になったらそのイケメン勇者の首、一緒に獲りに行きましようね」
「うん」
そう半分本気で答えたミリア。そこでレーゼが、
「でも貴方、彼を振ったからもういいかしら」
「なにが?」
「私、貴方が好きなの」
「…」
「彼だったら見逃したのに。諦めたのに。でも貴方の男を見る目はダメだから、もう逃がさない」
「えっと、レーゼ?」
「ずっと好きで、そんなあなたに愛してもらえる彼が羨ましくて嫉妬はあったけれど、貴方が幸せそうだったからそれでよかったの。でも、今の話を聞いて、やっぱり彼には貴方を任せられないわ」
「…突然そう言われても」
「貴方の心が欲しいと思ったけれど、放っておくとダメ男に引っ掛かりそうだから、今のうちに手をうつわ」
「酷いな…。はあ…お友達からはダメ?」
「ダメ」
「じゃあまずは恋人としてのお付き合い、デートからだよ」
「…いいの?」
「まずはお試し。別にレーゼの事、私は嫌いじゃないしね。それに付き合ってみたら嫌になるかもしれないし」
「それはないわ。絶対」
「断言しちゃうんだ」
困ったとミリアは思うけれど、不思議と嫌な感じは覚えなくて。
まずは恋人同士から、といった話をして。
彼に謝りに行ったり、イケメン勇者に復讐しに行くのに彼と共闘したのはそのすぐ後で。
それから…ミリアとレーゼ、お互いに大切になるまでにはそう時間はかからなかったのだった。
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