5
『ナノッハー! こんばんは、菜乃葉でーす。さてさて、皆さんお待たせ致しました、菜乃葉のゲーム実況のお時間ですよーっと。今日はねー、ついこの間出たばっかりの新作で遊んで行こうと思うんだけど……って、本当にねー、申し訳ないんだけどさー、実はね、まだダウンロードが終わってないんだよね。あはは、本当、ごめんなさい!
まあ、今に始まったことでもなし、ナノラーの皆なら許してくれるでしょ。え、許さない? お詫びをよこせ? しょうがないなー。ごほん、愛してるぞ、はい、これでいいでしょ? え? 塩過ぎ? ふふん、塩なのが好きなくせに気取っちゃってさ。
ええとね、うん、あと五分ぐらいで終わりそう。まあまあ、五分だけ雑談配信ということで。
だったら時間遅らせろって? それはそれで文句言う人がたくさんでてくるでしょーが。私だって、皆に早く会いたいからこうして醜態晒しているっていうのに。えーんえーん。いいの? 皆のせいで菜乃葉ちゃん、泣いちゃったよ?
嘘泣きには慣れてる? だから無視? ははん、君さては、童貞だな? 女の子の扱いになれてないねー。
あー、そういえばさ。この間、ナノが昔いじめられてたって話したじゃん? そしたらさ、ナノラーの中でもたくさんそういう人たちがいたみたいで、たくさんメッセージもらったんだよね。
悩んでる人がたくさんいるみたいでさー、相談ていう感じの内容が多かったんだけど、正直なところ、ナノは解決策を提供してあげれるほど出来た人間じゃないんだよね。
逃げてるって、思われるかもしれないけど、やっぱり、難しいんだよ。軽はずみに、こうしたら? ていうのは簡単だけど、それぞれの人たちの状況次第では、大変なことになっちゃうかもしんないしね。
それでも何か言葉が欲しいと思ってる?
うーん、本当にそうかなー。当時のナノは、別に言葉よりも、そうだなー、味方が欲しかったかも。ナノのことを見てくれている、今だったらナノラーの皆みたいなさ。
なんか、この世界には自分しかいないんじゃないかって、思っちゃうんだよね。親も兄妹も友達も、皆上辺だけで、自分のことを本当はどうでもいい、面倒な子と思ってるんじゃないかって。そんな自分は、周りの人たちに迷惑かけちゃいけないんだって、心がぎゅーってなっちゃうの。
だから、心から信頼できる味方が、欲しかったな。まあ、その結果が、今のナノを作っていると言っても過言ではないのかもしれないが!
拗ねてひねくれて閉じこもっているだけじゃ、心は通わせらんないから。届いてるのに、それに気づかない振りしてさ、それが嘘だって勝手に決めつけてさ、じっとしてても何も始まらなかった。でも、Vtuberになって、たくさんの人を信頼しようって決めたら、ナノの人生滝登り! え? うなぎ上りじゃないかって? こまかいなー。じゃあ、うなぎの滝登りでいい?
ナノの人生、うなぎの滝登り! いやー、うなぎの響きがぬめり気を帯びて、ちょっと嫌かも。あはは。
まあ、とにかく。メッセージくれた人たちも見てくれてると思うから、ナノからひと言。
誰か一人だけでもいいから、勇気を出して寄り添ってみて。そしたらきっと、何かが変わる。心が死ぬ前に、心を開いてみて。
あ、最後のはナノからのお願いね。
いやー、なんか真面目な話しちゃって、ちょいキモいな。ごめんね。よーし、お、ダウンロード終わってんね。
よっしゃー、じゃあやって行こう!
おいおい、ナノラー、気分を変えろー! コメント欄が、なんか物悲しい感じになっちゃってんじゃんか。そんなんで楽しくゲーム出来るか―。
あ、ナノのせいか。
あー、もうやめやめ。気分を変えて、テンション上げろー!現実世界を一時忘れて、いざ、ゲームスタート!』