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第5章:反響と影の告白

挿絵(By みてみん)



頭に響く鈍い痛み。私は意識が朦朧とする中で、薄暗い地下室の床に倒れていた。重い瞼をこじ開けると、視界の端に男の影が映った。私の真上に、見上げるように立っていたのは――あの、SNSのプロフィール写真とは似ても似つかない、狂気に歪んだ表情のタカシだった。


タカシの目には、正気を失った獣のような光が宿っていた。彼の片手には、あの写真で見た金属の棒が握られている。錆と、そして乾いた血痕がこびりついていた。まさに、アキラを殺した凶器。


「よくここまで辿り着いたな、エリ」タカシの声は、乾いた葉が擦れるようにざらついていた。「まさか、お前がここまで粘着してくるとはな。まるで、あの時のあいつみたいだ」


あの時?あの時って、一体いつのことだ?私は混乱していた。タカシは、突然、狂ったように笑い始めた。その笑い声は、廃墟の地下室に不気味に響き渡り、私の耳にまとわりつく。彼は、突然、私の顔を覗き込んだ。その瞳は、深淵のようだった。


「アキラは、私の秘密を知りすぎたんだ。私の『作品』を、世間に晒そうとした。だから……仕方なかったんだ。」


タカシは、壁に貼られた写真に目を向けた。アキラの怯えた顔。そして、私のSNSのスクリーンショット。「お前も同じだ。真実?笑わせるな。お前はただ、私の『作品』を汚そうとしているだけだ」


「作品…?」私はか細い声で尋ねた。喉が乾ききって、声が出ない。


「そうだ。この世には、誰にも理解されない『美』がある。私はそれを追求していたんだ。アキラは、その妨げになった」タカシの口調は、まるで芸術を語る画家のようだった。しかし、その目は、全く異質な光を放っていた。


その時、私の頭の中で、凍てついていた記憶の断片が、まるで閃光のように蘇った。それは、私自身の暗い過去。かつて、私が誰かを、ある場所に閉じ込めていた記憶。その場所は、この廃墟の地下室によく似ていた。そして、その時の私が、まさにタカシと同じような「作品」という言葉を使っていたのだ。


あの片目のウサギのぬいぐるみ。あの地下室の匂い。あの不気味な非通知の電話。全てが、繋がっていく。私は、タカシの行動を通して、自分自身の罪を追体験していたのだ。私がSNSで「真実の探求者」を演じていたのは、他者の罪を暴くことで、自分自身の罪を忘れるためだったのか。


タカシは、再び私に視線を戻した。「お前は、『真実』を求めていると言ったな。ならば、教えてやろう。この世に、真実など存在しない。あるのは、認識された『真実』だけだ」彼の言葉は、まるで鋭い刃のように私の心臓を貫いた。


その時、地下室の入り口から、微かな物音が聞こえた。誰かが、階段を降りてくる気配。タカシの顔色が変わった。警戒に満ちた表情で、音のする方を睨みつける。


「まさか…警察か?」タカシはそう呟くと、手にした金属の棒を高く振り上げた。私に向かって、振り下ろそうとした、その時――


突然、地下室の入り口から、まばゆい光が差し込んだ。そして、複数の足音と、怒鳴り声が聞こえてくる。「動くな!警察だ!」


タカシは、まるで獣のように唸り声を上げると、金属の棒を投げ捨て、光とは逆方向の、別の暗い通路へと逃げ込んだ。警察官たちがなだれ込んできた。彼らは、散乱した写真と、意識の朦朧とした私を見て、険しい表情を浮かべる。


「エリさんですか?SNSの情報から、ここを特定しました。よく頑張りましたね」一人の女性警察官が、私に優しく声をかけた。彼女の瞳は、私を慈しむように見つめていた。私は、その優しさに、思わず涙が溢れそうになった。


警察官たちがタカシを追い、地下室の奥へと消えていく。私は、静かに地下室の床に横たわったまま、天井を見上げた。真実の探求者エリ。私のSNSアカウントは、私の罪を隠蔽するためだったのかもしれない。だが、結果的に、私はタカシを追い詰め、彼を逮捕に導いた。


私のスマホが、床に転がっていた。画面は割れているが、まだ電気が通っていた。通知欄には、フォロワーからの無数のメッセージが溢れている。「エリさん、無事ですか?」「応援してます!」「真実を暴いてください!」


私は、か細い指で、スマホの画面に触れた。まだ、私を信じてくれている人たちがいる。私は、本当に「真実」を追い求めていたのか。それとも、単なる承認欲求の亡者だったのか。答えは、まだ見つからない。


だが、少なくとも一つだけ確かなことがある。私は、この廃墟の地下室で、自分自身の「影」と向き合った。そして、それをSNSに「告白」する時が、いつか来るのかもしれない。私は、空っぽになったスマホを握りしめ、目を閉じた。私の「探求」は、まだ終わらない。



<終わり>

■ あとがき:真実って、本当に一つ?


皆さん、こんにちは!このたび、長らく温めていた物語『影の告白:SNS探偵エリの真実』を無事に書き上げ、こうして皆さんにお届けできること、心から嬉しく思います。本当に、ここまで辿り着けたのは、読者の皆さんの応援あってこそ。いつも感謝しています!


さて、この物語、一言で言えば「SNSの闇と、人間の心の闇を深掘りする心理サスペンス」といったところでしょうか。主人公のエリは、匿名アカウントで未解決事件を追う探偵。でも、彼女の語る「真実」は、どうも一筋縄ではいかないんです。まるで、目の前にあるはずの真実が、くるくる姿を変える万華鏡みたいで。


執筆のきっかけは、実は私自身のSNSでの体験なんです。日々流れてくる情報に触れる中で、「これって本当に正しいのかな?」「誰かが意図的に情報を操作してるんじゃないか?」なんて疑念がフツフツと湧いてきて。そして、私自身も「いいね!」の数に一喜一憂する、なんとも滑稽な自分を発見しましてね。これは物語になる!と、天啓のように閃いたわけです。


特にこだわったのは、エリの「信頼できない語り手」としての存在です。彼女の言葉を、読者の皆さんがどこまで信じてくれるのか。矛盾や違和感を感じながらも、読み進めるうちに「あれ?もしかして、私自身がエリに操られてる?」なんてゾワッとさせられたら最高だなぁ、と思いながら書いていました。読者の皆さんが「真実の探求者」として、エリの語りの裏を読み解いてくれることを願ってやみません。


エリには、並々ならぬ思い入れがあります。彼女の行動は時に常軌を逸しているかもしれませんが、その根底にある「誰かに認められたい」「自分の存在価値を確かめたい」という切ない願いは、現代社会を生きる私たちにとって、決して他人事ではないと思うんです。私自身も「あ、これ、私のことかも?」なんて、執筆中に何度か冷や汗をかきましたよ。そして、タカシというキャラクターも、彼の歪んだ「美意識」の裏には、何か悲しい過去があるんじゃないか…なんて、深読みしちゃったりして。彼はとんでもない奴ですが、ある意味では「純粋な狂気」を体現したかったんです。


執筆中の裏話としては、エリの部屋がどんどん散らかっていく描写があるんですが、実はあれ、執筆中の私の部屋を忠実に再現しています。ええ、もう、足の踏み場もないくらいに…。(苦笑) あと、あの不気味な非通知の電話のシーンでは、ちょうどその時に私のスマホにも非通知で電話がかかってきて、思わず「ヒィッ!」と叫んでしまったのはここだけの秘密です。


苦労したのは、エリの精神状態をどうリアルに、そして説得力を持って描くかという点でしたね。彼女の言葉遣いや行動の一つ一つに、その不安定さを滲ませるように腐心しました。でも、その分、エリが自分自身の「影」と向き合う最終章は、書きながら私自身も感情が揺さぶられました。


さて、構想中の次回作は、これまたSNSを舞台にした物語なんですが、今度は「AIが生成するフェイクニュースと、それによって引き起こされる社会の混乱」がテーマになりそうです。物語の中で「真実」がどんどん曖昧になっていく様を描けたら面白いだろうな、とニヤリとしています。


最後に、この物語を読んでくださった全ての読者の皆さんへ。私たちの生きる世界には、たくさんの情報が溢れています。その中で、何が真実で、何がそうでないのかを見極めるのは、本当に難しいことだと感じています。この物語が、皆さんが「真実」について少しでも深く考えるきっかけになれば、これほど嬉しいことはありません。そして、SNSは使い方次第で毒にも薬にもなるもの。どうか、賢く、そして自分自身の「いいね!」を大切に、素敵なSNSライフを送ってくださいね!


また、次の作品でお会いできることを楽しみにしています!

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