第2章:闇を掘る指先
インスタントコーヒーは、もう何杯目だろう。苦い液体が喉を焼く。私の指はキーボードの上を猛スピードで駆け巡る。アキラとタカシ。この二人の接点を、私は徹底的に洗い出す。ありとあらゆるSNS、掲示板、匿名フォーラム。足跡は必ず残る。どんなに巧妙に隠しても、デジタルタトゥーは消えないんだ。
タカシのSNSアカウントは、本当に異様だった。たった数件の投稿。それも、すべて風景写真。人の気配がまるでなく、凍りついた湖、鬱蒼とした森、そして薄暗い小屋のようなものが写っている。どれもこれも、同じような場所。そして、どの写真にも、必ずと言っていいほど、小さく「M」の文字が刻まれた石碑が写り込んでいる。
「M」?なんだこれ?謎が謎を呼ぶ。私の直感は、これが単なる風景写真ではないことを告げていた。これは、誰かへのメッセージ?それとも、彼自身の居場所を示しているのか?私の頭の中で、様々な仮説が渦巻く。
その時、スマホがけたたましく鳴った。画面には「非通知」の文字。一瞬、心臓が跳ね上がった。こんな時間に、一体誰が?私はしばらく様子を見たが、鳴り止まない。神経を逆撫でるような着信音に、私は舌打ちをして、通話ボタンを押した。
「……もしもし」声が震えたのは、気のせいだ。
受話器の向こうからは、何も聞こえない。沈黙。ただ、息遣いのような微かな音がするだけ。まるで、こちらを値踏みしているかのような、ぞっとする沈黙。私の背筋に、冷たいものが走る。
「誰なの?名乗らないと切るわよ!」私は精一杯、強がった。内心は、心臓が爆音を立てていたけれど。
その瞬間、微かに、本当に微かに、男性の声が聞こえた気がした。いや、声ではない。まるで、風が囁いているような、囁き声のような、そんな不明瞭な音。何を言っているのか、全く聞き取れない。ただ、その音の響きが、私の奥底にある何かを震わせた。
突然、通話は切れた。プツン、という音と共に、静寂が戻った。私はスマホを握りしめ、心臓の鼓動が収まるのを待った。一体、誰だったんだ?いたずら?それとも、私が調べている事件の関係者か?
タカシのアカウント。あの「M」の文字。私は、その関連性を確信した。この不可解な出来事が、私の探究心に火をつけた。SNSの海をさらに深く潜っていく。必ず、お前を見つけ出してやる。私の影に潜む、お前を。