第1章:アカウント名「真実の探求者エリ」の薄明
私はエリ。本名?どうでもいい。知る必要なんて、あんたにはない。ネットの住人は私を「真実の探求者」と呼ぶ。SNSのIDは@TruthSeeker_Eli。それが、今の私を構成する全てだ。現実なんて、どうせクソ喰らえの連続でしょ。
部屋はいつも薄暗い。カーテンは閉め切り。埃っぽい空気と、カップ麺の匂いが混じり合う。モニターの青い光だけが、私の世界を照らしている。この光の中で、私は何にでもなれる。探偵、識者、そして時には、審判者。
別に、特別な才能があったわけじゃない。ただ、誰かの「いいね!」が欲しかった。それだけ。たったそれだけなのに、いつの間にか私は、世間の注目を浴びる存在になっていた。未解決事件の裏側を暴く匿名アカウント。
私の姿?ああ、興味ある?鏡なんて何年も見てない気がする。でも、まぁ、覚えてる限りは――痩せぎすの身体。いつも着てるフード付きのスウェットは、もう何色なのかも分からないくらいくたびれてる。フードを深く被ると、顔の半分以上が影になる。
視線は、いつもPCの画面に釘付け。目は多分、真っ赤だろうね。寝不足とカフェインのせいだ。爪?見るなよ。噛み癖があるんだ。深爪を通り越して、いつも血が滲んでる。不安になると、無意識に噛んでしまうんだ。
最近、特に執着してる事件がある。「曙町身元不明遺体事件」。地元のニュースじゃ、ろくに報道もされてない。ただのホームレスの変死、なんてレッテル貼られて。ふざけるな。
発見現場は、町の外れにある廃工場。錆びた鉄骨が剥き出しで、ガラスは全て割れている。風が吹き抜けるたびに、ヒュー、ヒューと物悲しい音がする。そこだけ時間が止まったみたいに、全てが朽ち果てていた。工場の一角に、ぼろ布にくるまれた遺体。それが、全ての始まりだった。
私が調べた限り、被害者は「アキラ」という名で呼ばれる男。住所不定、無職。だが、彼のSNSアカウントを辿っていくと、いくつか奇妙な接点が見えてきた。特に気になるのが、彼の友人とされる「タカシ」というアカウント。アキラの死後、彼は一切の投稿を停止している。まるで、影に潜んだかのように。
タカシのプロフィール写真、あれは一体何なんだ?妙に古い感じの、ぼやけた風景写真。どこかの湖畔か、それとも深い森の中か。それが、私の引っかかりだった。直感、とでも言うのかな。タカシ、お前は何を隠してる?
ふと、私の視界の端で、薄汚れたぬいぐるみが目に入る。棚の隅に放置された、片目のウサギのぬいぐるみ。幼い頃、私のお気に入りだった。あの目をじっと見つめていると、妙に落ち着くんだ。まるで、全てを見透かされているみたいで。
また、新しい投稿のアイデアが浮かんでくる。タカシ、お前を追い詰める。それが私の使命だ。そして、全ての「真実」を暴いてやる。私の歪んだ正義が、また疼き出した。