貴族会議と新秩序
反乱は、終わった。
加賀谷零は、玉座の間ではなく、執務机の前にいた。山積みの書類、判の押印、疲れ切った顔の役人たち──戦の興奮が消えた今、待っていたのは現実の処理だった。
「降伏した貴族の名簿です。重臣家門のほとんどが……」
「処罰は軽くていい。金を払わせろ。それが一番堪える」
加賀谷は淡々と書類に目を通しながら、筆を走らせる。血を流すより、財布を空にするほうが支配には効く──それが、彼のやり方だった。
今回の反乱で判明したのは、公国の内部がまだ“旧時代”に縛られているという事実だった。金も権力も、古い家柄が牛耳っている。だが、制度が動き始めた今、それも変えていかねばならない。
「貴族会議を開く。各家の代表に通知を。欠席は降伏の意思なしとみなす」
「はっ」
命令を受けた文官が走り出す。
加賀谷はその背を見送りながら、胸中で呟いた。
(“古い秩序”は崩れた。なら、新しい秩序を打ち立てる番だ)
そして──三日後。
王城の大広間に、名だたる貴族たちが集まっていた。
金の刺繍が煌めく衣装、威圧的な眼差し、陰で舌打ちする声。誰もが、“新参者の大公”を値踏みする目で加賀谷を見ていた。
だが、彼は怯まない。
「まず一言。反乱に与した者たちは、もう“領主”ではありません」
会場がどよめく。
「代わりに、租税管理人として契約を更新する。公国の制度に従い、一定の成果を納めた者のみ、任を継続する」
これはつまり、地位の“終身性”を否定する宣言だった。
名ばかりの貴族ではなく、“仕事をする者”が評価される仕組み──加賀谷はそれを始めようとしていた。
「そして……これからの時代、公国は“金で回る”国になる」
次の瞬間、全員の目が鋭くなった。
「通貨、信用、そして交易。すべてを整備し、帝国にも勝る“経済圏”を作る。協力する者には、利益を。逆らう者には、税と規制を」
静かに、だが確かに、その場に“空気の変化”が生まれた。
(利で刺す。これが俺の戦い方だ)
会議のあと、多くの貴族が個別に面会を求めてきた。脅す必要はなかった。金の流れを握れば、彼らのほうから“すり寄って”くる。
その夜、加賀谷は日報の一枚を読み上げて呟いた。
「明日からは通貨改革だな。……ミロ、準備は?」
「もちろんです、れいしゃちょー! 封印書の試作品も、なんとか間に合いました……!」
頷く加賀谷の表情には、もう迷いはなかった。
この国は、変わる。
金を武器に、未来を奪い返す。
◆あとがき◆
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