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急襲への逆襲(前編)

 王都の夜は、妙に静かだった。


 だが、足音のない夜ほど不穏なものはない。人々はすでに、胸の奥で“何か”を察しているのだろう。灯りの消えた通りを踏みしめながら、加賀谷はフードを深く被り、人気の少ない路地を抜けていく。


 向かう先は、城郭西部の哨戒詰所。近衛隊の第二分隊が駐屯する小さな詰所で、構成員は十数名──だが、実戦経験豊富な者も多い。


 「加賀谷殿!? 無事だったのか!」


 扉を開けると、数名の兵が立ち上がる。狼狽と驚愕が入り混じった顔を向けてきた。


 「今は話してる暇がない。俺の指揮に従ってほしい」


 「……はっ!」


 加賀谷は短く命じると、即座に地図を広げた。


 「反乱はまだ全面的には起きていない。敵はまず“頭”を潰そうとした。それが外れた今、次はどこを狙う?」


 「……政庁舎、そして近衛本部かと」


 「そうか……本庁舎と近衛本部が狙われる可能性もある以上、全員で城に向かうわけにはいかないか」


 加賀谷は、広げた地図の上に指を滑らせた。


 「……伝令隊を割こう。最速の馬を使え」


 「了解ッ!」


 すぐに数名の兵が選ばれ、迅速に馬具を整え、夜の街へと飛び出していく。詰所の木扉が音もなく閉まり、再び静寂が戻った。


 加賀谷は、残った兵たちに視線を向ける。


 「残る者は俺とともに城へ向かう。目的はただ一つ──公女殿下とガロウの奪還だ」


 短く、しかし明確な指令。


 兵士たちの頷きに、迷いはなかった。


 この場に残されたのは、元より“選ばれし者”たち。いずれも、この国に義を感じて刃を預けた者ばかりだ。血と油に塗れた戦場を幾度も越えてきた者もいる。かと思えば、加賀谷が編成したばかりの若手隊士もいた。


 それでも誰一人、退こうとはしなかった。


 「……感謝する」


 加賀谷は静かに言い、剣帯を締め直した。


 「我々はまだ、何も失っていない。この国は……まだ立てる」


 そう告げて、彼は詰所を出た。


 薄明かりの月に照らされ、王城の尖塔が遠くに見える。


 ──行くぞ。

 あの場所に、戻る。

 取り戻すために。

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