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森の集落

 人外の力を得たノボルとミチル。その力で襲い来る化け物を倒しながら道を進んでいくと、積み重なった瓦礫の上に建つ駅を見つけた。階段を上って駅に立つと、雨風を凌ぐ石壁の下で、ランタンをぶら下げた杖を持つボロ布がいた。


 ボロ布は二人の存在を認識すると、杖で地面を二度叩いてランタンに明かりを灯した。すると、ランタンの明かりを目印に一両の列車が空を渡って駅に到着した。二人が列車に乗り込むと、列車は駅から飛び立っていった。


 都市の死骸から乾いた地に風景が変わると、ミチルは窓から顔を離し、床に座るノボルに今後の動きを相談した。


「ねぇ、この列車は何処へ行くのかしら?」


「向かう場所へ行くまでだ」


「その向かう場所にワタルがいると思う?」


「俺達はワタルの後を追ってこの異界に来た。なら俺達が向かう場所にワタルがいるのは当然だ。俺達はいつだってそうだっただろ?」


「そうね。誰に言われたわけでも、誰に聞いたわけでもない。私達は集う。何処へ行ったって、私達は出会う運命なのよ」


「解決したな。なら話を変えよう。俺達の身に宿ったこの力についてだ。ここまで化け物共を素手で倒せてきたが、無敵と自惚れるのは止そう。この力が永続的か時間制限があるかは、分からんのだからな」


「あの宝石……あれはこの世界の何処かにまだあるのかしら?」


「喰い足りないか?」


「そうじゃないけど。今後、もっと強大な力を持つ化け物を相手にする場合を考えると、私達はもっと宝石を食べた方が良い。それから力の使い方も」


 ミチルはここまでの戦闘の間に開花させていた魔法をノボルに披露した。開いた手の平に炎を想像すると、無から炎が生まれた。それは燃え上がる炎ではなく、風に揺れる草木のような柔らかな炎であった。


「魔法か。くだらん。戦いの最中、そんなものを練り上げる暇は無い。殴り、蹴り、投げる。原始的な方法こそが戦いには最適だ」


「それが通じない相手はどうするつもり?」


「無論。通じるまで」


「……いいわ。まぁ、アナタが魔法に賛同しない事は分かってた。ただ、私が魔法も使える事を憶えていてね」


 ミチルは炎を握り消すと、ノボルの背に寄り添った。


「大丈夫よ。あの子は生きてるわ」


 ノボルが隠していた不安を見抜いたミチルは、ノボルの頭を優しく撫でる。ミチルの温かさに気持ちが和らいでいたノボルは最初こそ受け入れていたが、その優しさが何の意味を持たないと自分に言い聞かせ、ミチルから逃げるように距離をとった。


 それからしばらくして、終着駅に着いた列車から降りた二人。去り行く列車を背に駅から出ると、木々の隙間から漏れ出す黄金に照らされた森の中。切り拓かれた通り道の先からは、人ならざる声が賑わっていた。


 通り道を進んだ先にあったのは、獣人達が住む小さな集落。設置されたテントの下では店を経営する者や、生活をする者がいる。人に限りなく近い姿をした獣人達は、人のように服を着ており、それぞれ特徴があった。


 獣人達から好奇の目を向けられる中、二人が辿り着いたのは集落の中でも特に大きなテントの前。中に入ると、薬草が入った多種類の瓶が並ぶ棚と、複数置かれているベッドには傷を負った獣人が横になっていた。


 診療所と思われるこの場を眺めていると、一人の気品ある獣人が二人に近付く。長く綺麗な金髪を後ろで結い、疲弊した様子であったが青い瞳には未だ優しさが残っていた。服の汚れは彼女の献身さの表れであろう。


「何処か怪我をしたの? それとも、旅の方かしら? どちらにせよ、あまり歓迎出来ないわ。この森の近くに現れたマンドラの被害が相次いで、治療が追い付かないの」


「俺達は人を捜してる。小さい少年だ。ここを通ったはずなんだ」


「ごめんなさい。ずっとここに籠りっきりで、外に出ていないから分からないわ。森の番人なら何か知ってるかもしれないけど、彼もマンドラの被害に遭って寝たきりなの。酷い傷だからすぐに治してあげたいけど、必要な薬草が足りなくなって治療が出来ない状況よ」


「その薬草は何処に生えてるんですか? 私が採ってきますよ」


「おい……」


「いいじゃない。助けを求めてるのに無下には出来ないわ」


 ノボルは一人診療所から出ると、ミチルは改めて獣人に詳しい事を聞いた。


「私はミチル。さっきの大男がノボル。私達は行方知れずになってる子を捜しているんだけど、アナタ達に手を貸したい」


「よろしいのですか? 無駄足になるのかもしれませんよ?」


「今はどんな些細な情報でも欲しい。それに、怪我で苦しむ者を見捨てられませんので」


「ありがとう、旅の方。私はアレザ。怪我人の治療と集落の長の代理を務めているの」


「よろしくね、アレザ。早速だけど、頼みを聞きたい。私達に何をしてほしい?」


「集落の東にはアレルパレスへ通じる道があります。その途中で生えている青い花を摘んできてほしいの。多ければ多いほど助かるわ。ただ気を付けて。その通りにはさっき言ったマンドラが潜んでいるから」


「分かった。早速向かうよ」


 ミチルは診療所の外で待っていたノボルと合流し、集落の東側にある通りを進んでいった。


「どうして引き受けた?」


「これから先、マトモに話せる相手がいるとは限らない。信用されれば、ワタルの事やこの世界についての情報を得られる。花をいくつか摘み取るだけで済むなら、安いものでしょう?」


「人付き合いは面倒だ」


 しばらく歩いた途中で脇道があり、その道を進んでいくと、花や植物が豊富に生えた拓けた地に出た。このどれかに目当ての青い花があるのだが、それを探す余裕は今の二人にはなかった。


 植物の肌をした巨大な体をした花の化け物。顔と思われる花は呼吸をするように動き、中心部の柱頭には無数の瞳で埋め尽くされている。蛹のような胴体の背中部分から生えた蝶に似た巨大な羽は穏やかに揺らぎ、木々の隙間から漏れる黄金の光から金色の粒子を散らしていた。


【神秘の顕現】マンドラ。


「潜んでるですって? これのどこが」


「文句は後にしろ! 今はどう倒すかだけを考える時だ!」 

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