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 ひとつ屋根の下で、三人の若者が住んでいた。ワタル、ノボル、ミチル。ワタルは二人に比べ小柄な少年であり、高い探求心によって思考が優れていた。ノボルは二人に比べ大柄な青年であり、表立つ暴力性に秘められた優しさがあった。ミチルは母性溢れた女性であり、際限ない慈悲深さを持っている。


 三人は同い年の十六歳で、幼馴染であり、また家族であった。自身らを産んだ親を知らず、故郷を知らず、名前を知らない。何一つとして真実を知らぬ三人は必然的に集い、仮の名前と関係を構築した。そこに不満など無く、偽物と言えど本物の幸福を感じていた。


 しかし、三人の運命は唐突に、そして必然的に動き出す。


 それはワタルが消息不明となってから三日目になった頃。警察に捜索願いを出し、二人も近隣住民に聞き込み続けていたが、何一つとして情報が出ない。


 一つ、手掛かりがあるとすれば、ワタルが消息不明になる直前に視た夢の内容。


「橋の先で呼ばれている」


 あまりにも情報が少なく、悪夢と呼ぶには普通過ぎた為、二人はさして気にはしなかった。そんな夢を視る日もあるだろうと、軽く流してしまった。


「あの子は橋を渡ってしまったんじゃないのかしら?」


 聞き込みの最中、ミチルがノボルに呟く。心労の果てに遂に狂ってしまったのだと呆れたノボルは、ミチルの頬を叩き、自筆した地図にバツ印をつけた。


「この近辺は全て調べ尽くした。次に行くぞ」


「……あの子の夢に、もう少し関心を向けた方が良いと思う」


 ノボルはため息を吐き、もう一度ミチルを叩こうとした。振り返った先で見たミチルの表情は真剣そのもので、その表情にノボルは圧倒された。


 二人は自宅へと帰宅し、ワタルの部屋へ入った。奇妙な絵が描かれた紙で埋め尽くされた壁と、床には奇怪な造物が並べられている。二人はそれらを一つずつ見ていき、ワタルの夢に該当する物を探していく。

 

 そうして見つけ出したのは、橋が描かれた一枚の紙。塗り潰した黒の中心に向かうように橋が架けられ、橋の先では鈍く光る小さな宝石が置かれていた。意味不明な絵に見えるソレは、二人の頭の中で鮮明な光景となり、現実に現れた。


「ここは……さっきまで、私達は部屋の中にいたはず……」 


 二人の眼前には絵に描かれていた橋があり、暗闇の先へと架けられていた。怪奇現象にたじろぐミチルとは違い、ノボルは確固たる足取りで橋に踏み入り、先へ先へと進んでいく。ミチルは後ろに振り向くよりも追いかける事を先に覚え、ノボルの後を追いかけていく。


 闇の中、鮮明に見える橋を渡る二人には聞こえていた。恐怖と飢餓に叫ぶ人ならざる者の声。その声を耳にする二人の感情は違えど、抱く想いは同じであった。


 橋を渡り切ると、そこから先は異世界であった。割れたアスファルトと崩れた建物といった文明があった名残りの他は異質に満ちていた。雲は焦げ、血生臭い空気が漂い、恐ろしく静寂に包まれていた。


 今目にしている光景が現実のものか確かめるべく、二人は後ろを振り向いた。そこには鏡合わせのような荒廃した光景が広がっていた。


「俺達は……夢を視ているのか……?」


「分からない。でも」


「ああ。ここにワタルがいる」


 気配を察知してか、あるいは理由の無い確信か。はぐれた自らの一部を取り戻すべく、二人はこの異界の地を進むのであった。

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