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【短編】その他の短編

パッチワーク号に乗って銀河系一周ツアー!

作者: 烏川 ハル

   

『まもなく土星付近を通過いたします。右前方の映像を流しますので、正面スクリーンにてお楽しみください』


 機械音声のアナウンスが船内に鳴り響く。乗客それぞれの耳に、それぞれの言語で届くよう調整された音声だ。

 同時に、大きなスクリーンに映し出されたのは太陽系の第6惑星。「土星の輪」と呼ばれる特徴的なリングを携えた天体だった。


 この宇宙船には窓が設置されていないため、こうして時々船外カメラの映像が船内スクリーンに表示されるのだ。地球を離れて1ヶ月、地球から乗り込んだ者たちも、既にこの仕様に慣れきっていた。

 そんな乗客たちの一人であるジョージが、感慨深げに呟く。

「もう土星か……。まだ太陽系の中とはいえ、かなり遠くまで来たなあ」


――――――――――――


『おめでとうございます! あなたは銀河系一周ツアーに当選しました』


 というメールがジョージに届いたのは、今から半年ほど前。

 最初ジョージは、詐欺の(たぐ)いではないかと疑ってしまった。それらしきものに応募した覚えがなかったからだ。

 しかし、よくメールを読んでみると、ジョージも利用しているネット通販会社のサービスの一環。年間いくら以上の利用で自動的に抽選の対象となる、という話だった。


「そうか! だったら、この幸運を無駄にするのは勿体ないぞ」

 富裕層ならば宇宙旅行も頻繁に行ける時代だが、ジョージみたいな庶民は違う。子供の頃に家族旅行で月まで行ったのが、唯一の宇宙経験だ。

 だから「銀河系一周ツアー」という言葉自体が魅力的に思えて……。

 数年間は仕事を休んでも大丈夫なように身辺整理した上で、このツアーに参加したのだった。


――――――――――――


「おお、これが……!」

 唯一の宇宙旅行が「月まで」ということは、他の惑星へ行った経験は皆無ということ。

 宇宙港にて、自分が乗り込む惑星間移動シャトルを目にしただけで、ジョージは感激してしまう。

 事前の連絡でパッチワーク号という船名を聞かされた際は、つぎはぎみたいなオンボロ宇宙船をイメージして少し心配もしたが、完全な杞憂だった。すらりとした流線型が美しい、なめらかな銀色の船体だ。


 いざ乗り込んでみると、船内には先客がたくさん。他の恒星系からの多種多様な宇宙人たちだ。

 胴体の上には頭があり、腕も脚も二本ずつ。みんな二足歩行タイプのヒューマノイドだが、目や口などの数は地球人と異なっていた。

 中には、全身緑色のモシャモシャだったり、茶色い硬質な肌の持ち主だったり。二足歩行タイプではあるけれど、植物や鉱物に分類される宇宙人も含まれていた。


「なるほど、雑多な星人の寄せ集め……。『寄せ集め』という意味の『パッチワーク号』なんだな」

 と勝手に納得して、苦笑いするジョージだった。


――――――――――――


『……土星を通過しますと、次は天王星です。天王星まで船外カメラはオフになりますので、正面スクリーンの映像も……』


 船内のアナウンスが変わった。

 スクリーンには相変わらず土星が大きく映し出されたままだが、右斜め前の船外カメラから、いつのまにか後方カメラの映像に切り替わっていたらしい。

 映像の片隅に、白色の球体が映り込んでいた。


 土星と比べれば遥かに小さいけれど、このパッチワーク号の数倍はあるほどの巨大な宇宙船だ。

 地球の宇宙港でジョージがパッチワーク号に乗船する際、それが隣に停船しているのも目にしていたし、いまだにその光景が印象に残っていた。

 球体宇宙船の方はパッチワーク号とは異なり、無数の窓が設置されていたのだ。だから船内の様子が垣間見えたのだが、球体宇宙船に乗せられていたのは巨大な(けもの)たち。地球の生物でいえば外観は牛や豚に似ているけれど大きさが桁違いだったり、鷹や鷲みたいな猛禽類っぽい鳥だったり、古代生物の肉食恐竜を彷彿とさせる爬虫類だったり……。

 明らかに地球外からの巨大生物たちが、窓の外にジロリと視線を向けていた。


 これも事前の説明にあったのだが、パッチワーク号の旅には、食料用の宇宙生物を乗せた巨大カーゴが随行するという。

 だからジョージは、白色の球体宇宙船を食料運搬用と理解していた。こうして土星の近くまで来た時点で改めて、宇宙港で見たカーゴの船内を思い出し……。

 じゅるりと(よだれ)が口に中に広がるのを感じる。

「月旅行では味気ない合成宇宙食ばかりだったけど……。さすがに銀河系一周ツアーともなれば、食事の準備も凄いよなあ!」

 そういえば、まだ合成宇宙食ばかりで、カーゴ内の新鮮な生き物を調理したものは一度も振る舞われていない。太陽系を出た辺りで提供されるのだろうか、と楽しみにするジョージだが……。


 彼は知らないのだ。

 自分たちが騙されていることを。

 実は球体宇宙船に乗る巨大生物たちこそが、このツアーの本来の顧客であり、パッチワーク号の方が食料輸送用。そこに乗せられたジョージたちは巨大生物のおやつに過ぎず、そんな「おやつ」の「寄せ集め」という意味が込められた船名だった。




(「パッチワーク号に乗って銀河系一周ツアー!」完)

   

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