サクラサク
冬が終わり、新しい春が訪れる時。
それは私が長い長い眠りから覚める時。
この大きく、美しい、桜から生まれた妖精
名を「サクラ」
これはサクラと1人の少年の物語。
*
突然だけど、私は自分の名前が好きだ。
「桜の木の下にいるからサクラ!」
そんな、安直な理由でつけられた名前だけれど、
この名前をつけてくれた「ゆきの」という少年は
毎年必ず私に会いに来て私が眠っている間の話を
日が沈むまでいっぱい聞かせてくれる。
私はゆきのの話が大好きでずっとゆきのと一緒にいたいなんて思うことだって少なくない。
でも、それは叶うことの無い戯言でしかないのだ
「あっ!サクラ起きたんだ!おはよ!」
憂鬱な気持ちを吹き飛ばさんとする元気な声。
「ゆきの、おはよ」
私より頭1つ大きい体に、青のインナーの入った
綺麗な黒髪。長いまつ毛とグレーの瞳。
前見た時とは容姿は大きく変わっていたが一瞬で分かった。
「その青髪に瞳。綺麗だね」
「あぁ、これ?いいでしょ!髪を染めてカラコンもつけてみたんだ!」
「ゆきのはやっぱかっこいいよね」
「そんな、俺なんてまだまだだよ!専門にはもっとかっこいい人とかいるんだよ?」
「私の中じゃゆきのが1番だよ」
「ありがとう、サクラも可愛いよ」
ゆきのは去年から専門学校という所に行っているらしい。
小さい頃からの小説家になるという夢を叶えるために。
ゆきのと一緒に春を過ごすようになってもう13回。少し前まであんなに小さかった子供がいつの間にか私より大きくなっている。
ゆきのの成長に喜びを感じている事と同時に、
人間と妖精では同じ人生を過ごすことは難しいんだと悲しさを感じてしまう。
「サクラ、元気ないけど大丈夫?」
ありゃ、ゆきのに気を使わせちゃったな。
そんなに分かりやすかったのかぁ、
「前まであんなに小さかったゆきのがもう私より大きくなっちゃったなぁって」
「まぁ、俺ももう18だし、身長も170超えたんだよ」
「私は、1500だよ?」
「そりゃ、木には勝てないよ」
ははっと笑うゆきの。可愛い。
人間は子供の頃の話を忘れてしまうことも多いって聞いたけど、ゆきのはちゃんと覚えててくれたし、私が妖精だって言うことも信じてくれた。
そういうところに私は惹かれていったんだ。
でも、
「サクラ、俺に隠し事してるでしょ」
そう言ってゆきのは私のおでこを指でピンッと弾いた。
やっぱり、いつまでたってもゆきのには敵わないな。
「私、ゆきのと死ぬまで一緒にいたい」
私の本心を話した。
ゆきのは、驚いたように目を見開いている。
「そうだったんだ。話してくれてありがとう。
俺も、一緒に居れるならいたいって思うよ。
俺にとってサクラは大切な友達以上の人だから」
「でも、私たちは人間と妖精。一緒になることは難しいんだ」
「そうだよね。だから、サクラは悩んでいるんだよね」
「うん、」
今まで何度もゆきのと一緒の時間を過ごしてきたけれど、とてつもないぐらい空気が重い。
ここから逃げ出してしまいたい。そう思うくらい。
でも、こうなってしまったのは私のせいだから、
私は逃げては行けない。向き合わないといけない。
「サクラ。目を閉じて」
突然、ゆきのにそう言われた。私は言われるがまま目を閉じた。
そうしたら、唇に暖かい物が当たった。
私は驚いて目を開けてしまった。
そして、そこに映っていたゆきのの顔は桜の花のように染まっていた。
「ちょっと恥ずかしいね」
また、ゆきのは私に笑ってくれた。
その笑顔に私も釣られて笑顔になる。
その時私達は突如強い光に包まれた。
*
私は小高い丘の桜の木から生まれた。
私が初めて見た景色はこの世とは思えない地獄のような様子だった。
丘から見える街からは炎と煙が上がっており、
空を見れば数え切れない爆撃機。
桜の木の周りには血まみれの人達。
私はその光景が怖くて、また眠りについた。
でも、眠りから目覚めても目覚めても、その景色は変わらなかった。
私が4回目の眠りから目が覚めた時、ようやく
街は元の姿に戻ろうとしていた。
私は第二次世界大戦の時、地域の人達が植えたらしい。「未来と平和」を願って。
それを知った時、もう終戦から10回程の眠りから目覚めた時だった。
私達妖精は、人々の願いに呼応して命を授かる。
それを私の周りに咲いていた花から生まれた妖精が教えてくれた。
ただ、その妖精も街の発展に合わせてどこかに消えてしまった。
その代わりに私の元には子供が集う大きな公園ができていた。
だいたい、その頃だ。ゆきのと出会ったのも。
「ねぇ、君元気ないけど、怪我でもしたの?」
ゆきのは特別で私の姿が見える人間だった。
今までそんな人間一人もいなかったから私は嬉しかった。久しぶりに誰かと話せたから。
「ううん。今私嬉しいの」
「どうして?」
「君と話すことが出来たから!」
「僕と話せたのが嬉しかったの?じゃあ僕と友達になろうよ!」
「友達?」
「うん!僕は、花咲ゆきのって言うんだ!君は?」
「私?私に名前は無いよ」
「名前が無いの?じゃあ、僕が名前をつけてあげる」
「ほんとに?」
「うん!じゃあ、桜の木の下にいるからサクラ!」
「サクラ、いい名前だね!ありがとう!」
「ふふん!どういたしまして!」
「ゆきの〜!そろそろ帰るよ!」
「あっ!ママが呼んでるからまたね!」
「あ、うん。またね」
そうしてゆきのは家に帰っていった。
*
私はまた眠りから目覚めた。
私はゆきのに会うのを待っていた。
ゆきのはまた、私に会いに来てくれた。
でも、どこか怒ってる様子だった。
「サクラ!どうして僕にあってくれなかったの!」
その時初めて、私は人間と妖精の時間の流れが違うことを知った。
「僕サクラに嫌われたと思って怖かったんだよ!」
そう言ってゆきのは泣いていた。
私はそれをただ眺めることが出来なかった。
そして、また、私は眠りについた。
*
眠りから目が覚めた時、またゆきのは私に会いに来てくれた。
「お母さんが教えてくれたんだ。サクラちゃんは遠くに住んでいて毎年この時期にしか会えないんじゃないかって。だから会える時間でいっぱい遊んであげなって。」
ゆきのはそう言って私に飴玉をくれた。
仲直りの印って言って。
その飴はとっても甘酸っぱかった。
*
それからしばらく時間が経った時、私は自分の正体をゆきのに話した。
ゆきのはそうだったんだって言って笑って。
その日もいっぱい話して帰る時にはまた来年なんて言って手を振って去っていった。
それからも毎年私はゆきのと時間を過ごした。
*
私達を包んでた光の奥からひとつの人影が見えた。
それはだんだん近づいてきて、その容姿がはっきりとしてきた時、私は驚いた。
それは昔私に妖精だということを教えてくれた花の妖精だったから。
会えるのは一体いつぶりだろう。なんて思っていたら彼女は私にこう教えてくれた。
「あなたに秘密の魔法を教えてあげるわ、、」
彼女は私に魔法を教えて消えていった。
そうして私達を包む光は消えてしまった。
「なんだったんだろう今の光。」
「ね、不思議だね」
「あっ、ごめんゆきの。もう時間だから帰らないと行けないんだ。また来年かな」
そう行って、ゆきのは立ち上がり丘を下っていく。
あっ、ゆきのが行ってしまう。
「ゆきの!」
ゆきのは私の声に反応して振り返る。
それと同時に私はさっきの仕返しと言わんばかりにゆきのの唇に私の唇を合わせた。
「さっき、魔法を教えて貰ってさ。ゆきの本心で話してね」
「魔法?本心?どうしたの?」
ゆきのは突然のことにまたも顔を真っ赤にして混乱してる様子だ。
「私がもし人間になれるなら嬉しい?」
「えっ、そりゃ嬉しいよ。」
「じゃあ、私の事好き?」
「、、うん。好きだよ」
「それが聞けて嬉しい。ありがとう。」
私は、ゆきのにハグをした。
『あなたとあなたの大切な人の想いが繋がる恋。
その恋があなたの願いを叶えるとっておきの魔法よ』
私達はまた光に包まれた。
「はじめまして、ゆきのくん」
光の中で花の妖精が話しかける。
「えっ、誰?」
ゆきのは状況が呑み込めていないようだった。
「私はサクラの母。全ての妖精の母にあたる存在です。」
「「えっ?」」
その言葉には私も驚いた。まさか花の妖精が私のお母さんだったなんて。
「妖精は人の願いから生まれる小さな存在。
全ての妖精は想いによって命づくられ。
大切な人からの想いでその命を有限のもの、
つまり、人間になることが出来るのです」
「てことは、俺がサクラと一緒にいたいって想えばサクラは人間になれるって言うこと?」
「まぁ、簡単に言えばそういうことです。」
「サクラ!良かったじゃん!これなら俺たち一緒になれるじゃん!」
「あっ、ちなみにさっきサクラにハグされましたよね?あの時あなたとサクラの想いは通い合い。サクラは人間として生まれ変わりましたよ」
「え?」
「ふふっ、驚いた?私もさっき教えてもらったから試して見たんだ」
「驚いたに決まってるでしょ!」
そういうとゆきのは泣き出してしまった。
「あらあら、ちなみに。サクラは人間になった時に不便の内容に家も用意したのであとは名前ですね」
「でも、サクラって名前があるよ?」
「それだけじゃ人間の世界じゃダメなのですよ。」
「そうなんだ。じゃあゆきの!また私に名前をつけてよ!」
「えっ、じゃあ。冬野 サクラなんでどうかな」
「冬野ですか、ちなみにその理由を聞いても?」
「言わなくてもわかってますよね」
ゆきのは顔を赤らめて顔を逸らす。
「え?どういうこと?」
でも、私には分からなかったからゆきのに聞いても教えないって言われちゃった。
「では、花咲ゆきの。私の大切な娘を。
冬野 サクラをお願いします。」
「もちろん。」
花の妖精は、ゆきのの言葉に良かったと返し消えていった。
そうして、私達は桜の木の下に戻ってきた。
「もう、すっかり夜だね。」
「うん。」
「家まで送るよ。だから、手繋いでもいい?」
私の答えを聞く前にゆきのは私の手を取り歩き出す。
風になびいて桜の花びらは私たちの間を抜けていく。
「これからも仲良くしようね。ゆきの」
「こちらこそ。サクラ」