表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イノリβ  作者: 山橋 雪
21/27

02-14


「だから女将を探る必要があるんですね」


 ユウカに問う。

 苦虫を噛み潰したような顔でユウカは答えた。


「そうだ。これほどまでに大規模なものは珍しいが……よくあるんだよ。そもそもクライアントが仕組んでいることが。大体が偶然そうなってしまったケースだが、今回のように意図的にやったと思わしきケースも少なくない」


「後者に対して、貴方がやったものだと問い詰めたところでしらばっくれられたら終わりだ。契約を解除されて追い出されるのがオチだ。金すらもらえずにな」


「だから……探るんだよ。クライアント自身がノロイに意図的に関与している証拠を」


 なるほど。

 色々と世知辛い思いをしてきたのだろう。きっとその経験の中で得た処世術というやつかもしれない。

 しかし……証拠がわかってそれをクライアント――女将に突きつけたところで何か状況は変わるんだろうか。逆ギレでもされたら結局追い出される未来しか見えないが……。


「そこがこの仕事のミソでね。……返せるんだよ、ノロイは」


「ノロイをかけたものがわかれば、ノロイをかけた者に返るように書き換えられるんだ。所謂、呪詛返しだね」


「それで脅すのさ。金を渡すか、呪詛返しを受けるか、どちらが良いかとね。くくく、ウチも人のことを言えた義理ではないが、なかなかアコギな商売だよね」


 くつくつと、堪えるような嗤い声が響く。

 友人の目が妖しく光っている。

 ぐにゃりと歪む口角が目に浮かぶ。


「……そろそろ来るぞ。おい、布団に入れ」


 ユウカが会話に割って入った。

 声は潜ませながらも、急かすような強めの語気だった。

 何が来るのかわからないが、言うとおり布団に潜り、寝ているふりをした。


 とたんに静まる部屋。

 暗闇の中で聴覚が鋭敏になる感覚を覚える。



 ギイ…………ギイ……。



 廊下から音がした。

 昼間であれば聞き漏らしてしまいそうなほど小さな音だ。

 だが、わかった。これは人の歩く音だ。


 ギイ……ギイ……。


 徐々に音が大きくなってきた。

 こちらに向かってきている。


 ギイ……ギイ。


 ついぞこの部屋のすぐそばで、音は止んだ。

 そして――。


 ズズ……ズ……。


 入口の引き戸が開く。

 脳内で警報がけたたましく鳴っている。寝たふりをといてはならない。


 廊下の光が差し込み、顔を照らしているのを感じる。同時にそこに人がいる気配も覚える。


 じっと、入口で立っているようだ。



 すぐどこかに行くだろうと高をくくっていたが、その予想は外れた。

 実際のところはほんの一、二分とかそこらのはずだったのだろうが、とても長く感じるような時間、その気配は入口にあった。

 

 やめておけば良いものを……耐えきれず、薄目で見てしまった。


 女将だった。

 首を真横に傾け、少しばかり空いた引き戸の隙間からにやにやと、こちらをうかがっていた。



 ケケ……ケケケ…………。

 ……クモツ……上質な……。

 ノリ……あげなきゃ。


 喜びを押し殺すかのような、小さな声だった。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ