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イノリβ  作者: 山橋 雪
18/27

02-11

「――なるほどな。それは間違いなく組まれてるな」


 セリナは自動販売機で買ってきたペットボトルの水を飲みながら、応えた。


「誰が組んだと思う?」


 セリナは広縁にある椅子に腰掛け、足をぱたぱたと動かしながら問いかけた。

 何かを示すように上げられた手には、いつの間にくすねてきたのか、あの天井裏でみた人形の紙が握られている。


「……ちゃんと祓ったのか、それ」


「うーん、いまのボクが触ってなんともないのだから大丈夫じゃないか?」


「妙な体の張り方をするなよ……これはどこの系統の式だろうな……」


 眉間に皺を寄せながら、ユウカはその形代をセリナの細い指から奪い取った。

 咥えタバコの煙が揺れる。

 ユウカは煙草を灰皿に押し付けるように消して、まじまじと形代を観察しだした。


 それを見たセリナが呟く。

 

「……ボク達のところだったりして」


 ユウカの肩がピクリと動いた。


「そんなバカな。形代の形状は似ているけれど、それだけで断定はできない」


「ではどこの」


「わからん」


 一瞬の沈黙。

 空気が重くなった刹那に、セリナがおどけた口調でユウカに突っかかる。


「しっかりしたまえよ、霊障コンサルの社長さん」


「はったおすぞお前」


「おお、怖い怖い」


 拳を上げたユウカから逃げるように、セリナは小走りで僕の後ろに隠れた。

 その割にセリナはくつくつと笑っている。ユウカを見やると、呆れたような顔をしていた。

 両者に喧嘩の時のそれのような、緊迫した空気はない。いつものじゃれあいのようなものなのだろう。

 空気が柔らかくなったところで、ここぞとばかりに気になっていたことを聞いた。


「……組んだと言うのは?」


 文脈から何となく察しは付くし、存命のときに僕の親の口からも時々聞こえてきた単語でもある。

 けれど変に知ったかぶりするものでもないから、聞いておくに越したことはない。


「ああ、悪いな。置いてきぼりにして。こういう界隈ではそういう風に言うんだよ。ノロイを仕掛けることを」


 *


「――ノロイの根源は、人の思いだ」


 ユウカは煙草に火をつけながら、ポツリと話しだした。

 甘くも苦い、紫煙がゆらりと漂う。


「悪霊もそうだと」


 先ほど見た、得体のしれないあれのことを思い出す。ユウカはあれも――悪霊のこともそう説明していた。


「そう。悪霊も、ノロイもマジナイも……イノリの出発点は人の強い思いだ」


「途方もない強い思い――自らを蝕むほどの強い思いの発露としてそれらが現れる」


 ――だから人を呪わば穴二つなのか。

 ふとそう思った。


「そんなことを毎回やってたんじゃカロリーが高すぎる。それを専門とする連中は、効率よくノロイを発露させるための仕組みを組むんだよ。供物とともに」


「今回、コウタ達が見たものがまさにそうだ。各部屋から伸びる形代で作られた通路が、逆止弁を経てこの部屋に集まっていたんだろう。――それは、集積装置にほかならない」


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