02-10
「これをどう見る? コウタくん」
妖しく光る友人の目。
吸い寄せられそうなほど美しい。
「この人形の紙は、もともと点検口に貼り付けられていたってことだな――――封をするように」
そうとしか考えられない。
蓋の縁と開口部の境界にまたがるように貼り付けられていたのだ。物理的にあの紙にそれを成す強度があるかという点はおいておくとして、その行為に封以外の意図があったとは考えにくい。
「……実にセンスが良い。さすがボクの見込んだ男だ。……そう、まさしくこれは封印だ。――これらを人に見せないためのね」
セリナは何かをお披露目するかのように両手を広げ、ダンスのように優雅に回転しながら振り向く。右手に持った懐中電灯から出る光線が、埃を薙ぎ払うかのようにセリナを中心にして空間を滑り出す。
光線に照らされて映しだされるもの、それは天井裏を埋めつくす人形の紙だった。
まったく無秩序というわけではなく、皆が皆同じ方向に頭を向けて、整列するかのように貼り付けられている。
ただ、不可解なことに、人形が貼り付けられていない箇所もあった。
それは五〇センチメートル程の幅でまっすぐと伸びていて、埋め尽くす白い紙の中でそれはまるで通路のように見えた。
僕のいま立っている地点も含め、何本もその通路らしきものはあって、伸びた先でそれらは合流していた。だが、ただそれらは合流しているだけで、その先に何か特別な入口やら出口やらがあるわけでもなく、人形の埋め尽くす白の中唐突に始まった通路が合流し、ただ行き止まりで終わっているだけだった。
「一体これは……」
「キミの印象としては何に見える?」
「……通路」
「ふむ。では何の通路かな?」
……何の通路。
それはつまり――暗に人以外のものである可能性を示唆しているのか?
冷たい汗がこめかみを伝っていく。
けれど、この点検口を見ればこの天井裏に人が来ることを想定していない可能性が高いことは明白だ。
目を凝らすと、他の通路も全て点検口から始まっていて、僕が今通ってきた点検口と同様に、人形の紙で封がされている。通路の設けられている間隔、位置関係から推測するに、各部屋に設けた点検口から通路が伸びていると見て良さそうだ。
もし、この天井裏に人が来ることを想定しているのなら、点検口に態々封などしないだろう。でなければ、人が通る度に封の人形が破れてしまう。都度貼り直すのは面倒だ。
人が通ることを想定していないのなら、あの通路は――。
「人ではないモノのため?」
「そう。それも、流れを整理し、意図した場所に送り込むための通路だよ」
ご覧、と言いながらセリナはその通路を歩き始める。逆らう理由もないので僕も続く。
照らされる通路を見て気づいたが、一定間隔で、通路の両端から進行方向に対して斜めに人形の線が伸びている。くの字の折れ曲がった部分を進行方向に向け、その折れ曲がり部分が開いているような形といえば伝わるだろうか。
「これは逆止弁だ。ここから先に進むと、戻れないように組まれている」
逆止弁。静脈の逆止弁、のようなものか?
なるほどたしかにそう言われるとそうとしか見えない。
セリナは逆止弁に逆らわず前に前に進み、あるところで立ち止まった。一本の通路の行き止まり――点検口の蓋の前だ。
「ここが、送り先? ……ここって」
セリナの口元がにやりと歪む。
これほど悪い顔もなかなか見られない。
「出ると言われている部屋だ」




