02-08
埃っぽさにむせそうになりながら、押入れやタンスの奥を漁る。
得体のしれないものが出るという部屋に態々泊まるという気狂いじみた提案のあと、狼狽えるイナバさんをなだめ、旅館の業務に戻らせたユウカが僕に命じたのは各部屋の探索だった。
こういう拝み屋のような仕事のときは必ず確認するらしい。
他所の霊媒師の処置の痕跡を探ること。
適切な処置がなされているのなら、それに背くようなやり方をしてしまうことで事態を悪化させてしまうかもしれないし、もし適切でない処置がなされているのならその処置の祓えからする必要があるから、とのことだ。
また、その処置のやり方から、そもそもの事象の原因が見えてくることもあるらしい。
イナバさんは、これまでも幾度か別の霊媒師にこの事象について相談したらしい。
結界をはっただの、この祝詞を毎日唱えるように、などと言うだけ言って効果はそれほどだったようだ。
――結界をはったと言うならば、何らかの物質的な供えがどこかにあるはずだな。コウタ、お札とか怪しいものがないか、探すのを手伝ってくれないか。
ユウカの台詞が頭に呼び起こされる。
「初日から結構人使いが……」
思わず口を出かけた言葉を飲み込んで、傾きかける日の中、赤みの増した日差しを光源に押入れの中を物色する。
イナバさんから事前に了承は得ている。
今日、唯一の別の客が泊まっている一〇八号室だけ避けてもらえば良いとのことだった。
中の布団をひとしきり外に出し、押し入れの中の壁を隈なく探してはみるが、お札のような怪しいものは見当たらなかった。
点検口を除いて。
「……屋根裏に繋がっているんだろうな。さすがに明かりなしだと見えなさそうだ」
横着して光源を探すことをしていなかったが、さすがに屋根裏まで日射しは届かないだろう。ましてや夕暮れ時だ。先ほどからどんどんと輝度が小さくなっている。日没が近いのだろう。ヒグラシの鳴き声が遠くに聞こえる。
きょろきょろと当たりを見渡し、非常用の懐中電灯がないか探す。このような民宿はわからないが、だいたいの旅館には部屋の中に備え付けられているイメージがある。
床框のあたりを探していたところで、後ろから鈴の音のような声が響いた。
「探しているのはこれかな?」
ふっと振り向くと、暗闇に浮かぶ青白い顔。
セリナが懐中電灯で自らの顔を下から照らしていた。
……ぎょっとしてしまったのは内緒だ。
「何をしてるんだ。というかいつの間にここに。いやむしろどうやって」
「なんてことはない。キミ達のことは手に取るようにわかるのさ」
セリナはくつくつと笑いながら押し入れに歩を進める。
たしか、今朝ユウカがセリナは後で来ると言っていた。もしかしたらその会話のときに彼女らはこの依頼のことも情報共有したのかもしれない。
「僕が何をしているのかも?」
「もちろん。探すんだろう? 霊的な処置の痕跡を。……ボクのフィーリングとしてはまさにこの奥なんだけれどね」
セリナは気怠げに視線を上に向けながら、ひらひらとその手に握る懐中電灯を揺らし、押入れの奥の点検口を照らす。
「……何か感じるのか?」




