近所の女性
俺(鈴木 一郎) ・・ 30歳
ミドリさん(佐藤 ミドリ) ・・ 50歳
2人の甘々な話を。
駅からの帰り道、ちょっとぼんやり歩いていた。今日の仕事はキツかった。何も考えず、フラっと道の中央の方に動いた。「キキーーーッ」という甲高い音がして、お尻に何かぶつかった。ハッして振り向いた。自転車が俺に当たったんだ。自転車に乗っていたのは、ショートカットで、いわゆるキャップを被り、ジャンパー、デニムのパンツ。男性だと思った。
「すいません、お怪我はないですか?」
(えっ、女性??)顔を見ると、男っぽい顔立ちだが声は女性だ。
「いえいえ、申し訳ありません。私が急に動いたせいですよね。そちらは大丈夫ですか?」
「ほんと、ごめんなさい。止まれなくて。わたしは大丈夫です。本当にお怪我はないですか?」
「いえいえ、私が悪いのですし、何ともありません。御迷惑お掛けしました」
「ほんとに大丈夫ですか?あの、お医者さんに行った方が良くありません?」
「いえいえ、本当に大丈夫です。どうぞ、お気になさらずに」
「ほんとに?すいませんでした」
「いえいえ、こちらこそすいませんでした。では、失礼します」
いい歳の大人が自転車にぶつかるなんて、恥ずかしい。まだ何か言いたげな女性から逃げ出す様にその場から離れた。
何日か経った。駅でこの前の女性に声を掛けられる。相変わらず男っぽい服装なので、すぐに判った。
「あの、この前はすいませんでした。お身体大丈夫でしたか?」
「はい、何もありません。御心配お掛けしました」
「そうですか・・良かった。気になっていたもので」
「ご心配お掛けして申し訳ありません」
「とんでもないです、こちらが悪いのに」
「いえいえ、どうか、お気になさらずに」
「そうなんですけど・・・なんか気になって」
女性の「気になって」の意味を取り違えていた。
「じゃあ、コーヒー御馳走してください。それでチャラということで」
「え・・そうですね」
「今、お時間あります?」
「ええ、もう家に帰るだけです」
「じゃあ、そこのお店でコーヒー飲みません?」
「はい」
「私は鈴木です」
「わたしは佐藤です」
「佐藤さんはあの場所のお近くですか?」
「ええ。鈴木さんは」
「私もあの近くです。あの黄色いアパート」
「ああ、あそこ。わたしは、駐車場の隣のアパートです」
「なんだ、御近所さんだったんですね」
「そうですね」
佐藤さんが笑った。ちょっと八重歯が見えて可愛かった。
好きなものの話で盛り上がった。お互い「なろう」の愛読者だったことが判った。僕はノクターンだったが(笑)
「小説を読むと、その間だけ、現実を忘れられるじゃないですか。だから好きです」
妙に実感がこもった声で、佐藤さんが言う。佐藤さんのちょっとはにかんだ顔が可愛かった。
「そうですね、私も小説の世界にのめり込む方なので」
(エロいほうですけど(笑)この人、夢見る少女??)
「せっかくお知り合いになったので、メールアドレス交換しません?」
佐藤さんから言われた。「気になって」の意味を理解した。(「俺」を気になっていたのか)
「はい。そうしましょう。また小説のお話させてください」
「こちらこそ」
こうして、俺とミドリさんの付き合いが始まった。互いの時間が合う時に、コーヒーショップで色々な話をするのが俺とミドリさんのデート。「なろう」の話、仕事の話、趣味の話などをする。ミドリさん、実は「お嬢様」に憧れているという。ミドリさんと一緒の時間は楽しい時間だった。
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ある日、いつもの様に、コーヒーショップで、色々な話をした後、一緒に歩いて帰って来た。
「こっち」
突然、ミドリさんが、誰もいない公園に俺の手を引いていく。立ち止まり、ちょっとの沈黙のあと、ミドリさんが言った。
「笑わないでください」
「はい、なんですか?」
「迎えに来てくれる王子様に憧れてました」
「ああ、判ります。俺も、困っているお嬢様を救い出す、というシチュエーションに憧れてました」
「私の王子様」
ポツリとミドリさんが言う。全部判った。グッとミドリさんを抱き寄せる。赤い顔、潤んだ瞳で俺を見るミドリさん。そっと口付ける。俯くミドリさん。
「俺が王子様です」
抱きしめて、もう一度、口付ける。
「俺の家にきません?」
黙って頷くミドリさん。
・・・・・・・
ミドリさんを抱き寄せる。
「たくましいのね」
「大したことないよ」
「スポーツ??」
「うん、水泳。ミドリさんのために鍛えていた」
「うそー」
「うん、さすがに嘘だね。素敵なレディに出会った時のために」
「あっ、それ?」
「うん、「なろう」で読んだ」
「意外にロマンチストね」
「男はみんなロマンチストさ」
「またー、嘘つき」
「判った?」
「うん、男はみんな浮気して婚約破棄するの!」
「それこそ「なろう」の読み過ぎだよ」
「ふふ・・そうね・・・でも「なろう」を読んで夢見ていたの」
「今、隣に王子様がいるじゃない」
「おじ様じゃなくて?」
「こいつぅ」
ミドリさんの口をキスで塞ぐ。
・・・・・・・
「ねえ、ミドリって呼び捨てて」
「うん、ミドリ」
「はい、あなた」
・・・・・・・
「綺麗だよ、ミドリ」
「あなた、素敵だった」
「王子様にしては、下品だったかな?」
「そうね、王子様はキスで妊娠させるから」
「おいおい」
「これから貴婦人になって」
「あなたは王様ね」