002 因縁
広大な領地、豊富な資源、そして人口
それらに恵まれた大国『ゴルドラント』
ゼニアはそんな大国の治安を守る為の軍人だった
「あーもう!!また逃げられた!」
詰所に戻るや否や悔しそうに叫ぶゼニア
「ゼニアさん荒れてますね~」
「またゴエモンを逃がしたんだそうだ」
少し離れた所からヒソヒソと小声で会話をするロワ准尉とピエトラ一等兵という二人の男が居た
「あれだけの人員を割いておきながら“また”失敗したとなれば・・・また上から小言を言われるな」
「100人近く用意したんでしたよね?どれでも捕まえられないとかゴエモンってどんな化け物なんすか?」
「三本腕というだけで厄介、そして奴の能力は剛力との事だ。百人が束になっても抑えられんほどなんだろうな」
「どう捕まえればいいんすかね?」
「さあな・・・私にもわからん」
ゴエモンは二年程前からこのゴルドラント内で名が広まり始めた盗賊
盗みを働く対象は裕福な貴族や国の権力者等で
盗んだ物は貧民街等にばら撒くため、民衆からは「義賊」と呼ばれている
富裕層からは煙たがられるが貧困層からは英雄扱いされるような存在だった
「でも上も懲りないっすよね。あれだけ毎回失敗してるゼニアさんを使い続けるなんて」
「なによ、文句ある?」
「っ!?」
いつの間にかピエトラの背後に立っていたゼニア
「陰口なら聞こえないようにしてくれないかしら?」
「い、いや・・・陰口だなんて、そんなつもりは・・・」
「まあそういうなピエトラ君。ゼニア君も三本腕の一人だ。世界でも珍しく、我が軍の中でも3人しかいない三本腕の一人なんだ。彼女に難しいことが私達普通の二本腕にできると思うかね?」
「皮肉でしょうか?ロワ准尉」
「失礼、そんなつもりはないよ。本当だ」
「・・・・」
ゼニアが軍属になってからまだ一年
異例のスピード出世ではあるが階級は軍曹
上官であるロワに楯突くなんてとんでもない事だ
「軍に居る私以外の三本腕でもゴエモンを捕まえることは不可能です」
「そうかい?私はゴエモンを直接見た事は無い、それでもあのお二人のどちらかでも出てくれば簡単だと私は思うがね?」
「・・・・ゴエモンを捕まえるのは私です」
「そうかい。まああのお二人は捕り物なんて小さな仕事、興味ないだろうけど」
「・・・・」
ゼニアよりずっと昔から軍に所属している三本腕の二人
その二人はゴルドラントの領土拡大や侵略者から国を守る為に日々最前線で戦っている
ゴルドラントが大国を維持できている立役者でもあり
三本腕とはいえ、たかが盗賊であるゴエモンの事まで気に掛ける余裕は無かった
「だからこそ、新しく入った三本腕であるゼニア君には期待しているんだ。頑張ってくれたまえ」
「言われなくてもそのつもりです」
「なんでゼニアさんはそこまでゴエモンに執着するんすか?」
「・・・・」
ゼニアは所謂「警察」のような立場なので、当然ゴエモン以外の泥棒を捕まえることもある
だが受け持つ仕事の殆どはゴエモン絡みだった
「返してもらわなきゃならない物があるのよ」
「何かゴエモンに盗まれたんすか?」
「・・・ええ」
「そういえば数年前、カターシュ家にコソ泥が入った事があったな。その時の事が関係しているのかな?ゼニア・カターシュ君?」
「・・・・」
「ゴエモンが名を上げ始めたのもその時期か」
ゼニアは名家の娘で、軍属になるよりも前
今から二年程前、家に泥棒に入られた事があった
「でもゴエモンって義賊なんて言われてて、盗んだ物を貧民街とかに配っちゃうんでしたよね?だったらもう持ってないんじゃないっすか?」
「いえ、まだあいつが持っているわ」
「そ、そっすか・・・」
ゼニアの迫力に気圧されるピエトラ
二年前ゴエモンがゼニアから何を盗んだのかは
ゴエモンとゼニアの二人しか知らない事だった
「なんにせよ、期待しているよゼニア君。あの大泥棒ゴエモンを捕まえられるのは君しかいない・・・かもしれないからね」
「そのつもりです」