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No,4

4話目です。少し短くなりますが、最後までお付き合いよろしくお願いします。

 海につく頃にはもう太陽が赤く染まり始めていた。車椅子の少女は家を出てからずっときょろきょろとあたりを見渡し楽しそうだ。1時間ほど歩いたが、国の連中には運よく出会わず、何とか海までたどり着けた。海といっても漁業が盛んな船着き場だが。それでも、少女はとても楽しそうだ。

「あれは何かしら!」

 魚の直売所らしき場所を見つけて、振り返った青い瞳はとても澄んでいた。

「あそこで魚が買えるんだよ。少し食べてみるかい?」

 言い換えればおそらく、僕の最後の晩餐になるであろう魚の煮つけを1人前買ってきた。少女は美味しそうに食べて、朱くなった頬を落とさないように抱えている。そんな幸せの象徴のような笑顔とともに、こんなにも美味しい食事を誰かと取れて本当に幸せだった。

(誰かと食事を共にしたのなんて、あの二人が殺される前日くらいだったけな。あぁ、こんなにも暖かいのはいつぶりだろうか。)

 僕は名残惜しい時間を最後まで大事にし、最後の一切れを彼女の口へ入れてあげた。僕には少女を逃がす当てはないが、ポケットには余ってしまった金貨が5枚残っていた。船着き場にくる者はお金持ちに魚を売りに来た、いわば貧困者である。金貨の3枚をちらつかせれば、彼女を向こう岸の別の街へ送り届けることなど造作もないだろう。

「それじゃ、少し船に近づいてみようか。」

 彼女はまだ楽しそうだ。でも、僕には聞こえていた。国の警報音や、警備隊の足音が目立ってきている。もう残された時間はわずかしかないと、直感で感じるほどの圧だ。船の男には話がついている。煮つけ代と金貨3枚で納得した。

「この子を頼むぞ。約束の金だ。」

 少女を船に乗せ、自分は降りながらそう男に告げた。

「お兄さん?どこ行くの、一緒に帰らないとお父様に怒られてしまうわ!お兄さん、待ってっ!待ってよ!」

「ごめん!僕にはこうすることしかできないんだ。僕の分まで幸せになってくれ!」

『いたぞ!224だ。ガキは殺せ。』

 船が陸から離れた時に警備隊が到着した。拳銃を構える警備兵に僕は飛びついた。絶対に彼女を逃がす。その一心だった。

 その時腹部に鋭い痛みが走った。腹を撃たれたのだとわかる。それでも、絶対に力を緩めず、立ち向かう。どんなに身体に痛みが走ろうが、弾が貫通しようが僕には関係なかった。 

僕を呼ぶ優しい声が遠ざかっていき、消えた。彼女はきっと生き延びる。声が聞こえなくなってから、急に睡魔が襲ってきた。どんなに打たれても緩むことのなかった腕が、足が糸を失った人形のように崩れる。そして、力の入らない身体が激しく跳ねるほどの銃弾が降ってきた。

「きっと、もう一度しあわせになれる、、、」

 青年の言葉は、最後まで音にならずに銃声の中に散っていった。


読んでいただいてありがとうございます。次回最終話になります。翌日17時に投稿予定です。

是非、最後まで見ていってください!

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