No,2
2話目です。今回も拙い文章ですが最後までお付き合いよろしくお願いします。
今僕は、汚くて小さな街で暮らしている。所謂、スラム街だろうか。小さいころから劣悪な場所でしか育ったことが無いから、あの老夫婦の家より落ち着いてしまう自分が憎い。あの時僕は2択のどちらかを選ばなければいけなかった。このまま死んでも楽になれるだろうし、僕が死んだところで誰も悲しまず、正直僕が消えたことに気が付く者もいないだろう。でも、ありすぎた時間で考え続けた僕には老夫婦の笑顔がちらついてしまっていた。僕がいたから殺されたのか、それとも命売りに殺される定めだったのか。僕にはわかりっこないが、その理由を知ることが老夫婦への初めてのお返しになる気がした。あの二人には子供も親戚もいない。つまり、命売りに襲われたあの日から僕と同等になってしまったのだ。あの心優しい二人を覚えているのは僕だけだと、そう思ってからはなんだか生きていなきゃいけない気がした。だから、僕は死ぬことよりも命売りになることを選択した。本来恨まなくてはいけない存在に僕自身がなることを望んでしまった。その事実よりも、老夫婦の存在を消してはいけない使命感が勝ったのだ。命売りの生活は思ったより特別ではなかった。孤児院の生活よりましに感じるほどだ。命売りになった僕はまず名前を奪われた。戸籍から消されて、代わりに番号を与えられた。「224」これが今の僕を表す言葉だ。名前なんて今まで呼ばれたことが無いから、逆に自分のことを呼ぶ言葉が新鮮に感じた。呼ぶといっても気が付くと置いてある書面に書いてあるだけなのだが。最初の指令は盗みだった。強盗というよりも、内容は簡単で精肉店の肉を1つ盗むという僕にとっては日常の一部のようなことだった。肉を盗んで指定の場所へ納める。それでまた知らない間に置かれた報酬を受け取ることができる。肉塊1つで金貨1枚だ。こんなお得なことがあっていいのか僕はわからなかった。金貨1枚があれば、十分すぎる食事を3食買うことができる。今まで食べてきたものよりも豪華な食事をとったとき、不思議と優越感がせりあがってきた。生きている、そう実感したのだと思った。こんな生活を続けて早1年が経過しようとした時だった。今までにない指令が届いた。
『224、ターゲット殺害の指令』
その下には顔写真と戸籍情報、行動スケジュール、ターゲットの交友関係まで事細かに書いてあった。いつ、どこで、どういった方法で殺すのかまで、旅のしおりのようにすべて書いてある。指令によると殺す相手は少し離れた『ネルス』という街に住む金持ちだそうだ。ネルスは聞くところによると国家の犬や重鎮のお偉いさんが住む街であり、この男は国にとっていらないものになったということが教養を受けていない僕にもわかった。しかし、殺しとなると今まで行ってきた悪行が小さく思えてくる。少し緊張もするが、報酬の欄にある対価を見ると1年間命売りとして生きた僕が覚悟を決めるには多すぎるほどの量の金が用意されていた。そして、僕は殺人を行うことに対して胸を躍らせるほどにまで昂っていた。
「あと7日後か。」
呟きは誰にも聞かれることなく空間に消えていった。
読んでいただいてありがとうございます。
次回も翌日17時に投稿予定です。