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No,1

拙い文章ですが、是非最後まで読んでいただけると嬉しく思います。

 「命売り」これはある職業の名前だ。この世界で財や富を一切持たず、稼ぐ術さえ持っていない生きる価値のない人間が行える最後の仕事。他の仕事を見つければいいって?何も持っていない人間は、ここではごみ以下の扱いだ。職なんて見つけられるわけがない。

そして、2択を迫られる。

「今死ぬか、命売りになるか。」と。


古びたノートをパラパラとめくり、思い出したくもない思い出を呼び起こす。


《僕は少し前から孤児院で暮らしています。不自由ではありながらも友人を持ち、親のように信頼する先生が一緒で、わずかながらも幸せを感じています。

毎日朝の7時に起き、朝食を広間のランチルームで食べる。そこに並ぶ食事はだいたい豆を煮たスープだけだけど、たまに先生が外の世界で仕事に行ってくれた次の日は卵や、緑色の葉が並ぶこともあります。僕はその日が大好きです。だって、その日から1週間くらい先生はみんな笑顔でお仕事を間違えてしまった子にも怒らないからです。

いつもはすごく優しい先生でも、お仕事の失敗にはすごく怒るから怖かった。でもごちそうを食べると、どんな失敗でも許してくれます。お仕事は変えられちゃうみたいだけど。お仕事というのは、食事のあとから17時までそれぞれ行うものです。誰が何のお仕事をしているかは絶対に秘密にしなきゃいけないと言われていたから、他の子の仕事は知りません。僕の仕事は、きれいなお花を摘んで孤児院の端っこのセンターと呼ばれるところへ持っていくことです。僕以外に、何人か同い年くらいの男の子がいたし、センターには女の子が6人くらいいて、みんな同じくらいの年齢だったから、もしかしたら性別や年で仕事は決まるのかもしれないです。

仕事が終わって、19時から夕食を食べます。朝のスープはとっくにおなかの中には無いから、みんな腹の悲鳴がうるさいです。夕食も大体は豆のスープで、少ない食事でもみんな感謝しています。毎日のご飯とお仕事、それの幸せを知っているからです。孤児院にくる子は、すごくつらい思いをしていると、先生は言っていました。確かに僕も先生に出会うまでは、独りぼっちで食べ物もなく、生きることもギリギリの状態でした。みんなそういった過去があるのだと思います。

先生に出会えて本当に僕は幸せです。》


 子供ながらの乱雑な文字で、日記に幸せを書き留めていた日々を思い出す。毎日孤児院生活を送っていた時に書かされていたものだ。1ページごとに幸せだとか、感謝だとか。今の自分からは想像もできない文章がつらつらと書いてある。僕のいた孤児院はもうない。質も量もない食事は1日で2回あればよく、体を洗うのは2週間に1回、外界への道は鍵で遮断され孤児院は文字通りの無法地帯だった。劣悪な環境で子供たちを労働させ、違法なドラックを生産する。そして、先生と呼ばれていた大人が夜売りに出る。これが孤児院の本当の顔だ。そこで得た金の多くは大人の私利私欲へ消え、子供に充てていた金は卵と野菜の銀貨数枚だけだったらしい。そのせいで国家の介入により孤児院はものの10分で消えた。大人は捕まり、僕たち孤児は、仮の親が探された。多くは新しい環境で幸せに暮らしたのかもしれない。もしかしたら、僕以外はみんな今でも幸せなのかもしれない。僕だって、最初は幸せだった。

 子供ができなかった老夫婦へ引き取られた僕は、今まで感じたことのない幸せを感じた。肉や魚を初めて食べた感動は今でも忘れない。あれこそが本物の幸せだったと思う。

 でも、老夫婦に残された時間はわずかだった。僕がやっと家族になりかけたころ、老夫婦は強盗に襲われて殺された。命売りの仕業だ。金品は盗まれ、食料、衣服の類はすべて消えた。抵抗した老夫婦はゆっくり時間をかけて殴り殺された。僕は見ていることしかできなかった。命売りのやつらは僕には全く気を留めず、老体へ無慈悲に拳を埋めていった。何かが破裂する音、弱弱しくなる声、硬いもの同士が当たる音。いろんな音がしていた。気が付くと命売りは去っていて、冷たくなった肉が二つ転がっていた。そして、僕は掴みかけた幸せを失った。またしても、何もかも失ってしまった。親も、友人も、金も、道具も。生きるために使えそうなものは自分の命くらいだった。

 

 神という存在は冷たいもので、再び見捨てた相手に救いを差し伸べることはしなかった。悔しかった。なんで自分だけがこんなにもつらい思いをしなくてはいけないのか。何が原因なのか、有り余る時間で考え続けた。老夫婦を殺した命売りの連中か。孤児院をつぶした国の連中か。自分を置いて先に死んでしまった実親か。考えても答えが出なった。どいつもこいつもひどい奴だ。僕が考え、導いた答えは空白のままだった。どれだけ考えても誰に恨みをぶち当てればいいのか、わからない。それでも、一つ分かったことは自分の無知さだ。自分は何も知らなかった。誰が悪いのか、どうすればいいのか。それを探して見つけることだけを目標に生きていくことを決めた。日銭を盗みで稼ぎ、その日を生きる。その繰り返しだったが、とうとう国の連中に見つかった。手首に鉄の輪をかけられ、分厚い壁を越えたコンクリート施設に到着したころには、自分の終着点が見えたようだった。この国の裁判は、金を払わなくては行えない。金でなくても、友人からの心からの訴えだとかそんな無形のものでもいいらしいが、生憎僕には何もなかったので関係ない。裁判を行わない罪人は問答無用で有罪。裁判で有罪が決まった人間よりも扱いは酷く、収容される場所も隔離された地下牢であった。薄暗い湿った場所で、やることも壁のシミを数えるくらいだ。どうしてこうなったのか、答えはそこでも出なかった。日の光もなく、どれくらい時間がたったかわからないが、おそらく2週間くらいだろうか。知らない男が僕の牢の前にいた。身なりは軍服のようなものを着ており、一般人ではなさそうだった。少し白髪が混ざった整った髪の毛に、鋭い眼光、一文字に結んだ口。かなりの圧に冷や汗が背を伝った。その時、終始無言であった男の口が開いた。

「今死ぬか、命売りになるか。」


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