第3話「幼馴染たちは、くだらない駆け引きをする」
ゲーム機を点け、起動し、使用キャラを選び、そして激戦を始める。――そんなループが約1時間近く続いた現在。
僕はふぅーっとひと息を吐きながら、隣で項垂れる静かな野郎に声を掛けた。
「大丈夫か?」
「――お前何でそんなに強いんだよっ!! おかしいだろ! 絶っ対不正だ! 全戦全勝ってどうかしてるだろお前!!」
「うわぁ……みっともないことしちゃってるよ透の奴……」
「ま、まぁ……実際、晴斗が全戦全勝しちゃってるのは変えようがない事実だし……」
佐倉さんは大声で叫ぶ透に冷たい視線を送り、渚はテレビ画面にはっきりと映った勝敗結果に「あはは……」と呆れ気味な声をもらしていた。
やけに自信満々だった透は結果として、4人マッチであろうと2人での乱闘になろうとも、僕に黒星を揚げることが出来ずにいたのだ。
「だっておかしいだろ! 晴、お前今日が初プレイだって言ってたじゃんか!」
「……透。……人っていうのはな、やれば何だって出来るんだよ」
「うぜぇぇーー!! この勝ち誇ったような顔、めっちゃ腹立つんだけど!? 絶対お前に黒星を揚げさせてやる!!」
あっ、これ僕が負けない限り終わらないパターンのやつだ。
と、僕が呆れている間に、透は次に操作するキャラを選択する場面に入っていた。どうやら本気で僕に勝つまで辞めないつもりのようだ。
……本当、こういう負けず嫌いがどうして僕の周りには2人もいるんだろうか。
こいつと言い、渚と言い……。
そんなもう1人の負けず嫌いはというと、再戦を一方的に決められた僕に対し『私以外に負けるんじゃないわよ?』的な冷徹な眼差しを向けている。もうね、本当に目が笑ってないのよ……顔は笑み浮かべてるっていうのに、威圧感ありまくりとか……。怖っ――!!
「はぁ……わかったわかった。再戦すりゃあいいんだろ?」
「そうこなくっちゃ! 晴も早くキャラ選べよ!」
「初心者の僕に重量級を使わせる気か。僕のカーソルが思いっきりお前に操作されてるんですけど。その手離せ」
僕が持つコントローラーは、透が両手を使って無理矢理カーソルをずらそうとしてきているため、僕の使いたいキャラに照準が定まらない。
一種のじゃれ合い……と纏められるかもしれないが、初心者相手にむきになってんだぞ。これを『じゃれ合い』とまとめる人間はまずいない。
「ちょ、大人げないことしないの!」
「オレ15歳だぞ!」
子どもか。と、僕は思わず心の中でツッコミを入れた。
15歳を『子ども』と認定するのは社会であって、年齢層的に見ればどこから見ても大人組に近づいている高校生。どう見たって子どもじゃない。
それにその言葉が通用するのは、小学生までだと思うのは僕だけだろうか? 普通にこのやり方、大人げないと言われても当然な気がするぞ。
どうしても引かないと言うのであれば――僕は反撃の一手を打たせてもらうとしよう。
「……あ。そこにお前の大好きな「チラムネ」の最新刊がー」
「――えっ!? どこっ!?」
コントローラーを手放した感覚を掴めば、後の作業は楽だった。
解放されたカーソルをすぐに向け直し、先程まで使っていた『ピカチュウ』を選択。色はまぁ変えなくていいか、時間無いし。そしてそのまま、終点をステージとして選択。
――この出来事、まさにたった3秒間に起こった出来事である。
「おいどこにも――って、あぁぁああああーー!!」
「人を“騙す”ことに関しては、お前より僕の方が上だからな。それに、先に悪知恵を使ってきたのはそっちだ。やり返されるのは当然だろ」
こいつが僕よりもラブコメ作品を推していることは僕が良く知っている。耳にタコが出来るぐらいに何度も何度もレビューされた身だ。
今回はそれを逆に利用させてもらったわけだ。
悪いな。だが、本当の意味で悪いとは思っていない。全てはお前自身で招いた結果なのだからな。
「ありゃりゃ~……。こりゃ、透の負けはもう確定かな?」
「ご愁傷様です」
またもや目が笑っていない渚譲。
しかし先程と違う点がある。それは、目は笑っていないというのは単なる比喩だということ。……事実を言えば、渚は今――本物の“神の子”のような純粋無垢な笑みを浮かべているのだ。その曇りが無い満天な笑みに……逆の意味で恐怖を感じる。
「くっそぉ~! ぜってぇ負けねぇ!」
「臨むところ」
――そこからの乱闘は早かった。
まず、ある程度のダメージを与えた直後に回転コンボを決め、スティックを上手く使い合わせて敵(透)を場外へ放り出し、自らも場外へ行き追い打ちの『とっしん』を喰らわし完全に吹っ飛ばした直後に、自分はすぐに『こうそくいどう』で復帰。
前に動画を見たと言ったが、実はこのコンボを決めるための動画だったりする。
軽量級は初心者にも使いやすく、扱いもすぐに身に付けられる。渚同様、あの説明書を読んだ時点ですぐに基本操作を覚え、後は実践するだけ。
――やっぱ、人間やれば何だって出来るんだな。
3機ずつあった体力は片方だけが削られていく形となり……そして、5分も経たずに乱闘には終幕が降りた。
結果などは言わずもがな、勝ったのは僕だった。3機あった残機を1つも減らさずに。
「何故だ…………」
「言っただろ。人間やれば何でも出来るって」
「本っ当にうぜぇーー!! 絶対いつかリベンジしてやるから覚悟しろや――っ!!」
僕に指を向けながら堂々とリベンジを宣言してきた透に、僕は若干の呆れと少しの楽しみを胸に抱いた。
いつもだったらこんなに面倒とわかってるようなこと、絶対に引き受けない。
だが、面倒だとわかりつつも、渚と勝負しているときのようなワクワク感に支配されているのも嘘ではなかった。
「……また今度、な」
僕は口角を少し上げながら、透との約束事を交わしたのであった。




