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隣のキミと過ごす、本当の恋人までの一年間。  作者: 四乃森ゆいな
第一章(前期)
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第7話「幼馴染とは謎の多い生き物らしい」

 それから、一之瀬は今日あった出来事を簡単に話し、そして僕がそれらを知識として得てきたラノベ文章として書き起こした。


 そんな作業を進めること数十分──僕は無事、日誌作業を終えられた。

 ……次に日直が回ってきたときは、その日限定でクラスに解け込む努力をするか。変な目で見られるかもしれないが、これ以外に方法無いし仕方ない。


 ふぅーっと息を吐き、僕は「さてっ」と声を出して立ち上がる。

 面倒ではあるのだが、日誌を職員室まで持っていくのが日直の仕事だからな。本当に面倒だ。


 すると、瞬時に一之瀬が僕の腕を掴んできた。


「……えっと?」


「……どこに行くの?」


「どこって、日誌持っていく場所なんて1つ──職員室だけだろ」


「…………本当に?」


 どこに疑いをかけてんだこの女は。

 ……けれど、そんな彼女の表情は何故か曇っているように見えた。これはきっと気のせいじゃない。


 僕が好きらしいこの幼馴染は、おそらく用があるのが本当に職員室だけなのかが疑問なんだろうな。何せこちとら、鞄まで背負ってるわけだし。


 鞄まで持っていく理由なんて1つだけ──そのまま帰宅するため。

 残りの日直作業は全て一之瀬が片付けしまっていた。なので出しに行ってここに戻って来る理由なんて無いのである。


 その証拠に、日誌に書く内容に困っている中でも進んでいた作業を、一之瀬は迅速に……ではなく、途中からのんびりしていた。多分、僕に合わせてくれていたのだろう。……ハズしてたらかなり恥ずかしいんだけど、この仮説。

 さて……この幼馴染を説得するにはどうしたものか。


「……なら、お前はどうすれば信じてくれるんだ?」


「……えっ?」


「だから。僕の言うことを信じられないなら、どうすれば信じるのかって訊いてるんだ」


 ボケが始まるのはちょっと早いぞ、一之瀬おばあちゃんや。

 ……なんて、冗談言ってる場合でもないか。


「……えぇっと。……本当に、職員室に行くだけ?」


「あぁ」


「じゃ、じゃあ、その荷物は何? 職員室に行くだけだったら、要らないはずだよね?」


「だって、ここに戻って来る意味もないしな」


「……えっ?」


「お前が全部やってくれたんだ。それぐらい知ってるぞ」


「~~~~~~っ!?」


 何故驚く。こちとら何十年お前の幼馴染をやってきたと思ってる。嘗めないで頂きたい。


 ……あ、でもどうだろう。驚く観点はそこじゃない可能性もある。あまりにも臭い台詞は吐いたからかもしれない。


 根暗ぼっちな僕が言ったって──「はいはい、わかりました」的にあっさり流されそうだし。……何だか自分で言ってて切なく思えてきた。


「…………な、なら。私も、一緒に行く」


「ん? いつもみたいに勉強していかないのか?」


「い、言ったでしょ? 今日は一緒に帰るって!」


「……勉強してからだと思ってた」


「勉強は家でも出来るもの。……それにハル君、今日は部活じゃないから残る理由も無いし」


「……そっか」


 一之瀬は放課後、1人教室に残って勉強をしている。その理由が、僕が入ったばかりの文芸部の部活動を終えてから“一緒に帰る口実を作るためのもの”だということも知っている。


 ──まぁでも、勉強に関して一切手を抜かないことも事実だが。


「なら、一緒に僕の家で勉強するか? 今日は遅いからあれだけど、明日は休日だから出来るだろ」


「い、行っていいの?」


 気負う必要はないというのに、一之瀬は少し戸惑っている様子だ。


「何か問題でもあるのか?」


「そういうわけじゃないけど。その……確か明日って、お兄さんが帰って来るんじゃ……」


「…………忘れてた。そうだった。バカ兄貴に構ってるほど暇じゃなかったかし」


「可哀想」


「そういうお前の方が1番兄貴のこと軽蔑してますけど、その自覚なんかはありますか?」


「当然。……実の兄だからって、私のハル君にベタベタベタ……っ!!」


 言っておくが、お前のでもないぞ。

 僕には、3つ上の兄と1つ下の妹がいる。


 僕は兄貴のことを『バカ兄貴』と呼んでいるが、本当はどこにも通用するほどの美貌を持っている上に、勉学に置いても頭1つどころか3つ4つ抜くほどの天才だ。


 一方妹は、今年受験生である。

 一応、県内の高校を目指しているらしいが、志望校は謎。それに関しては、偶に勉強を教えている一之瀬の方が詳しい。専属家庭教師ってやつだ。


 そしてその兄貴が明日、休日という名目で寮ではなく家に戻ってくるつもりらしい。そんな連絡がきていたこと自体忘れてたが。

 ……うーーん。まぁ、いっか。


「別にいいんじゃねぇか? 兄貴のことは僕が何とかするし、うるさかったら寮に強制送還させるから」


「……ハル君って、私よりお兄さんに当たり強くない?」


「いいのいいの、兄弟だから」


 他人だったらまずいかもしれないが、一応僕はそんな兄の『弟』だから何をしても咎められない。それはたとえ──兄自身であったとしてもだ。

 その理由は……すぐにわかる。


「んじゃ、戸締りして帰るぞ」


「……うん!」


 一之瀬の元気いい声が教室に木霊する。1日眠くなる授業を聞かされて、よくそこまでの元気が余るものだ。

 何でそこまで耐久力があるのか不思議でしかない。


 教室の扉を閉め、職員室へ先生に日誌を提出をした後鍵を返し、帰路へと着いた。


 4月と言ってもまだまだ春。

 夕方になるとそれなりに冷え込んでくるようだ。今日が新刊の発売日とかじゃなくてよかった……。


「あっ、そうだ。明日さ、その……勉強ついでにと言ってはなんだけど、1泊泊めてくれないかな?」


「なんで?」


 大したドキドキもせずに即答で疑問を返す。

 それもそのはず──幼馴染として付き合ってきた年月は伊達じゃない。それに隣の家同士だからな。互いの家でのお泊り会なんてしょっちゅうやっていた。

 ……小さい頃の話だけど。


「明日から、お父さん達が出張でいなくてね……。1人でいるのも暇だし退屈だし。だからいっそのこと泊まっちゃおうかな? と思って」


「……別にいいけど。寝るのは妹の部屋だからな」


「そこは『一緒に寝よ』って言ってよー!」


 恋人同士じゃあるまいし、そんなことを僕が言えると本気で思ってるわけでもあるまいに。


 はぁ、とため息を吐いて、隣を歩く一之瀬をチラリと見る。

 夕焼けに照らされ、一層煌びやかな品質を表し、黒だけど若干茶色が混ざった髪の艶は本当……幻想的だよな。男子共が惚れる理由もわかる。……僕も男子だけど。


 こういう彼女を目の当たりにすると、幼馴染という枠を超えて、恋人関係になっても構わないと思ってしまう。もちろん、僕にはそんな気持ちは一ミリも存在していないが。


 ……だがそうなると益々疑問だ。

 一之瀬は頑なに、何故僕が好きなのかを語らない。


 そのため僕はこいつの真意や理由を知らない。訊いたら訊いたで、また流されそうだし。

 まさかとは思うが──幼馴染だから、何て言う古典的な理由で惚れてるんだろうか?


 そうだとしたら、早めに目を覚まさせてやらないといけないんだが……多分違うんだよな。

 ……やっぱりこの幼馴染は、謎が多い。

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