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隣のキミと過ごす、本当の恋人までの一年間。  作者: 四乃森ゆいな
第一章(前期)
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第6話「幼馴染は、僕の日直作業を手伝ってくれるらしい」

 みなが思う、クラス内で1番嫌な担当といえば何だろうか?


 例えば、掃除当番や給食当番、それから学級委員とか思い当たる節はいくらでもあるだろうか。僕にとって1番嫌いなのは──日直だ。


 通常よりも早めに学校へ来ては、黒板掃除や軽めの掃除。それから教室ごとに違うだろうか、生き物を飼っているクラスならば餌やりも必要だ。後、地味ではあるが授業開始の挨拶なんかも日直がしなくてはいけない。


 たった1日しかないが、ハードスケジュールな日直という仕事。

 その中でも最も嫌な仕事がある。それこそ――日誌である。


 日直であれば誰もが書くことになる日誌。クラス内最下層カーストである僕にしてみれば、あまりクラスメイトとの関わり合いがない時点でアウトな仕事だと思う。

 クラスメイトと親密な関係を強く望まない僕からすれば、まさに罰ゲーム。


 罰ゲームと断定づける理由は1つ──クラス内の状況を上手く読み取ることが出来ないということだ。


 そしてそれを上手いこと発揮しなくてはならないのが、この日直という日替わり当番の仕事のうちの1つ──日誌というわけだ。


「はぁああ……」


「随分大きめなため息ね。どうしたの?」


「……何かなぁー、憂鬱なんだよ」


「言っておくけど私、ハル君の日誌作業を妨害してるつもりはないわよ?」


「そういうことじゃない。……クラス内の最下層カーストにいるのも楽じゃないんだなぁーって、今しみじみと実感してる。こういう作業は難題だ」


「そうね。日頃からクラスを見ないで、小説ばかりに目がいってるからそういう目に遭うんじゃない?」


 完璧な嫌味にグーの音も出ない。

 今日1日の記録を残すという作業。たったそれだけのことが、クラスメイトと距離を置いていることで難関となっている。

 仕方ない。それが僕に定められた運命だからな。


 と、そんな風に開き直ったところで状況が改善されるわけでもないため、僕は思考を止めることが出来ない。シャーペンをクルクルと回しながら考えること、およそ1分。

 今日の出来事を振り返ろうとしたのが……、


「ダメだ……全然浮かばん……」


 僕は再び頭を抱える羽目になった。

 授業中は基本静かだし、問題が起きそうな休み時間は僕自身が教室から離れたり読書の世界に逃げ込んでいるから、クラス内がどういう空気になっているかどうかなど全くわからない。


 それにまだ入学してから日も浅い。

 クラス内がどんな雰囲気なのかすら知らない僕に、この作業は難関すぎる……。


「……一之瀬。これ、代わりにやってくれないか?」


「無理よ。やってあげてもいいけど、私とハル君の字体は違いすぎる。次の日直の人がもしこの日誌を見たとしたらすぐにバレそうだけど、それでもいい?」


「やっぱ結構です……」


 こいつとは幼馴染で、それ以上の干渉はないのだということを証明するために、一之瀬の字体に残るのは非常にまずい。


 男と女の筆跡は全然違う。

 特に一之瀬の字は綺麗で読みやすいし、ノートもわかりやすく見やすいとクラスでの評判も良いため、ほとんどの生徒が彼女の字体を知っている。


 僕が書いていたはずの日誌のページに一之瀬の字体があるのは、さすがに不自然か。

 良い案だと思ったが……見事なまでに敗れ去ってしまったな。これがワープロ式だったら絶対バレないのに。


「……だったらさ、少しアドバイスをくれないか?」


「アドバイス?」


 一之瀬は首を傾げる。

 そう、これはクラストップカーストである一之瀬だからこそ訊くことが可能なアドバイスだ。僕みたいな影のポジションではなく、前線で堂々と指揮が出来る彼女だからこそ、訊く価値がある。


「いいけど、どんなの?」


「なぁに、そんな難しいことじゃない。……今日のクラスでの出来事を教えてくれ」


「結局は他力本願じゃないの! もう……ハル君は私を何だと思ってるの?」


「情報屋」


「…………もう1回言ってみて?」


「嘘です、すみませんでした……」


 怖っ……。


「まったく。そもそも日直はハル君の仕事なんだから、自分の力でやらないとでしょ?」


「僕がこういうの苦手だって知ってるだろ。頼むから、教えてくれないか……?」


「うっ……、か、かわい――って、そうじゃなくて! わ、わかった! わ・か・り・ま・し・たー! だからそんな上目遣いで見てこないでー!」


 慌てた様子の彼女の言葉を聞き、僕は心の中で『よしっ!』とガッツポーズ。

 直接が無理なら間接的に。──戦略の上ではこれこそがベスト。


 それにこれは、彼女がこういう人間だと知っているからこそ出来る、幼馴染の特権だ。どういうわけか僕に対して以前より甘くなった──その結果、拗ねれば大抵のことなら効くようになった。


 まぁ、本人が嫌がっていないならそれでいいと思って、僕は敢えて言わないようにしている。


 黒板掃除をしていたトップカースト様は、僕の前の席に座り、日誌の中身を覗き込む。

 授業に関すること──『科目』『担当教員の名前』『授業内容』『授業態度について』などは全て埋まっている。


 ……が、問題はそこじゃない。


 上の内容っと被らないように注意して書く必要がある、日誌最大難関記入欄『今日の出来事・振り返り』の項目である。目下最大難関だ。敢えてもう一度言った。


 何故これを“根暗ぼっち”である僕に書かせようとする? その意図が全く掴めません。

 けど、一之瀬のように誰にでも目を配る奴だったら、すぐに埋まる項目なんだろうな。


「……予想はしてたけど、見事なまでの白紙だね」


 一之瀬は呆れた様子で肩を竦める。

 わかってたんならそんなに落ち込まないでくれるかな。こっちまで悲しくなるから。


「逆に聞くが、埋まってると本気で思ったのか? 見当違いもいいところだ。僕がこの欄を埋めるとか、人類が滅亡する勢いでありえないぞ」


「別にドやるところじゃないから。はぁ……中学から変わらないね、その性格。本当、そういうところが……──」


「ん、何か言ったか?」


「べ、別に! 何でもないから!」


 そんなに真っ赤な顔しながら言われても説得力ないが。明らかな動揺を隠し通せないところ、そこだけは甘くなる以前から変わらない。


 僕が1番こいつと関わりを持ってきたから良くわかる。

 たとえば──“優しいところ”とか“困ってる人には迷わず手を差し伸べるところ”とか。そんなお節介で親切すぎる一面は、昔から何も変わっていない。


 少しズレてしまった本題を戻すため、シャーペンで日誌を数回突く。


「……それで、今日何があったんだ?」


「……へっ? あ、あぁ! そ、そうだったね。えっと確か今日は――」


 何だ今の妙な間は。それにあの反応……絶対忘れてたな。

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