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隣のキミと過ごす、本当の恋人までの一年間。  作者: 四乃森ゆいな
第一章(前期)
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第19話「幼馴染は、デートの誘いを……してこない」

 ひ、人がせっかく気を使ってあげてるっていうのに相変わらずの態度なんだから!


 それに安眠って……このまま本当に寝ちゃったら、ハル君の経歴上絶対授業前になんて起きるわけないじゃない!! だから起こしてあげようとしてるっていうのにぃぃ──!!


 だがしかし、1回の敗北が何だという?

 ここで『諦める』という言葉は私の辞書には載っていない。私はひたすらメッセージを送ることにした。


 ……それに、何やかんや言ってても、ハル君と話すときは仮面を被る必要がないから楽だ。


『ハル君の場合、寝たら絶対起きないじゃない!──10:44』


『……それは。……こんなに陽気な温度を生み出す気圧が悪い──10:45』


 開き直ったぁぁ──っ!!


 確かにハル君が座っている席は窓際の1番後ろ。1番日差しが当たる場所だけども……こうも開き直られると反応に困るわね。


 極めつけは開けた窓から入ってくる心地よい風。なるほど。これを攻略しないといけないわけね。席替えっていう手段を持たない今、ハル君を起こすために、手段なんてたった1つだけしかないのだ。


『そんなに眠いなら読書すればいいじゃん──10:46』


『今の状態で読書しても内容が頭に入ってこないんだよ。今の僕が本なんか読んだら速攻で天に飛び立つぞ?──10:47』


『それはダメ!!──10:47』


 物理的に天国へ飛び立たせるのは絶対にやってはいけない! ……けれど、ハル君にそう論破されてしまっては、


『なら人の安らかな時間を割くな。おやすみ──10:49』


 最早打つ手無し。ハル君はスマホを仕舞って寝始めてしまった。


 …………ダメだこの子。

 いやまぁ……本当に可愛い行動をするんだけど、今の彼を止める術はもう残っていない。


 私が何年あなたの『幼馴染』でいたと思ってるいるのか。彼のことなら、誰よりも知っている自信しかない。


 ──やっぱり、起こす手段を捨てきれない!


 授業中に寝るのはハル君のためにもよくないし、私が何とかするしかないのだ。

 とはいえ、一体あのお寝坊さんをどうやって起こせばよいものか……?


 ハル君は普段、寝る前の2、3時間は読書している。それを睡眠の時間に当ててほしいけど、彼に言っても直るかどうかは怪しいところ。確か前は、深夜2時ぐらいまで起きててやっと寝たんだっけ。お泊りした日は、素直に一緒の時間に寝てくれたのに。


 それだけ彼にとって読書は大切な時間なのだ。

 ハル君の中で、好きなことが増えるというのは私からしたら嬉しいことこの上ない。


 ……とは思うけど、やっぱり居眠りはよくないよ!

 私は再びメッセージを送る。


『ハル君! このまま寝たら授業のノートとか取れなくなるよ?──10:51』


 するとまだ寝ていなかった彼がのんびり打ち込み返信してくれた。


『別に予習してるし平気。ノートは……一之瀬が取っといてくれるか?──10:52』


 ……た、頼られている! ハル君に!

 けど、ここで誤って「喜んで!」なんて返信を打ってはいけない。ハル君のためにならないし、人に甘やかされてばかりではダメ人間に向けてまっしぐらだ。


 私は『喜んで』と送ろうとしていたメッセージを全部消し、改めて打ち込んだ。


 ……それにしても、こういうことが言えるあたり、さすが全国模試総合20位以内だよね。といってもこれは中学の頃の結果で、今はどうかわからないけど。


『取らないよ! そういうのは、自分でやらないと意味ないんだから!──10:53』


『じゃあ寝る──10:54』


 寝るなぁぁ──っ!! ──思わずそう叫びたくなったのを心の中に収める。


 結局振り出しに戻ってしまった……。やっぱ、こういうときのハル君を説得するのは、非常に難しい……。


 ……それに、まただ。

 過去15年間『幼馴染』をしてきたけれど、未だに彼は私を『一之瀬』と呼ぶ。

 はぁあ……私も、下の名前で、渚って呼ばれてみたい。

 周りのクラスメイト達は馴れ馴れしくそう呼んでくるのに、彼はなの文字すら出てこない。──やっぱ、意識されてないのかなぁ。


 ハル君はもう、取り合う気力も残っていないらしく、スマホの電源を切った。

 また腕の中に顔を埋めてしまったところを見るに、もう起こすことは叶わない。

 仕方ない……と思って私もスマホをそっと仕舞おうとしたときだった。


「──また寝てんのかぁ?」


「……………………………………」


 寝ているハル君の隣にあの男がやって来た。いや、元々私達と同じクラスなわけだし、居て当然なのかもしれないけれど。


 中学時代からの同級生──藤崎透君。彼はハル君と同じ文芸部で、運動神経抜群なためによく運動部から助っ人を頼まれているとか。何で文化部に入ってるのかな……運動部に入ればよかったのに。


 そして、自称“根暗ぼっち”なハル君とは対照的に、陽キャの鏡のような存在だ。


 どうしてこんな真反対な2人が噛み合うのだと、少し噂になっていた時期があった。……改めて考えると少し謎かも。()りが合う……っていうのはもちろんだと思うけど、どうもそれだけとは思えない。私の勘が、そう訴えている。


「おーい。生きてるかー?」


「…………死んでます」


「死んでる人間は応答出来ないぞー。(もっと)も、オレに霊感があるっていうなら話は別だが」


「…………眠いんだ。寝かせろ」


「ダメだ! オレの話に付き合ってもらうぞ!」


「拒否する」


「それを拒否する!」


「……横暴な人間の知り合いはいない。大体、そんなんじゃいつか嫌われるぞ」


「そんなことはないね。何せ、そう言う晴自身がオレと話してるわけだし!」


「……ったく。何の用だよ、透」


 ……どうしてだろう。

 ハル君が藤崎君のことを“透”と呼ぶとき、彼のことを名前呼びにしているとき、ギュッと胸を締め付けられるような感覚がする。……おそらく、嫉妬というやつかもしれない。


 普段は温厚でもなければ、何かに熱中するようなタイプでもない。人と極力話しかけられないようにする陰キャ。それが私だけが知る──凪宮晴斗。


 ……けれど、それと同じように、藤崎君にも彼にしか知らないハル君がいる。

 押しに弱いところ、そして趣味の一致から生まれた追憶。後者は……どう考えても私には当てはまらない。


 私には決して見せたことがない、彼だけへの感情。

 たったそれだけの、ごく普通の友達とのやり取りにすら……私は嫉妬する。


 私は普段ライトノベルなんて読まないし、たとえ読んだとしてもハル君の知識量には遠く及ばない。反対に、藤崎君はハル君と趣味の意思疎通が出来る。

 ……もしかして、その差なのだろうか?

 藤崎君にあって、私に足りないものがあるから、私は名前呼びしてもらえないのだろうか?


「……だったら、早めに解決策を──」


 そう考えようとしたのも束の間、スマホが鳴る。


 ……あれ? 誰よこんなときに。もしお父さんからだったら少しお灸を据えることとしよう。──と、そんな考えは一瞬にして吹っ飛んだ。


 画面に表示されていたのは、メッセージが1件。しかもその相手は──ハル君だった。



 ……えええぇぇぇ────っっ!?



 は、ハル君から! は、ハル君から、メール!?


 こ、こんなこと、1年に1回あるかないか……なんて大袈裟なことはないけど、それにしいたって珍しかった。

 少し驚きつつも、その内容を確認するためにメッセージを開いた。


『今日の放課後、予定は?──10:59』


『よ、予定? 無いけど──10:59』


『そっか。じゃあ、少し付き合ってくれ──11:00』



 …………えっ? …………えぇっと?



 意外も意外。そのメッセージ内容はいわゆる──デートのお誘いだったのだ。

 いやそうじゃないかもしれないけど……でも、私からすればかけがえのないプレゼントになってしまっていた。




 ────ちょ、ちょちょちょっっっっっっと!?!?




 あまりにも現実的ではないその内容に、数秒間、私は銀河系を彷徨(さまよ)っていた。


 すると、あまりの内容に意識が吹っ飛んで既読無視状態となっていたメッセージ欄に、新しいメッセージが届いた。


『言っとくが、これデートの誘いじゃないからな?──11:02』


 ……少しぐらい余韻に浸らせてくれてもよかったんじゃないかなぁ。


 ハル君からのそのメッセージを受け取った直後、タイミングを計ったように先生が入ってきて現代文の授業が始まった。

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