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隣のキミと過ごす、本当の恋人までの一年間。  作者: 四乃森ゆいな
第一章(前期)
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第14話「僕は、幼馴染の言動に戸惑う」

「……いつまでやるんだ、勉強」


「気を抜いたら負けるからね。どっかの誰かさんに!」


「……だからって」


 あれからあっという間に時は過ぎ、夜ご飯の支度をする時間になっていた。


 時刻は18時と少し。

 帰り道の約束通り、僕は一之瀬と共同作業という形で晩ご飯を作っているわけなのだが……その間にも、一之瀬は『休む』ことを惜しまなかった。


 先程までもずーっと一之瀬の勉強を見ていたので読書どころじゃなかったし、まさかここまで勉強すると……一体誰が想像出来ただろうか?


 それだけ集中しているのであればまたの機会にも出来たのに。約束は破らないよな。

 台所に立ちながらも立てられた教科書をチラチラ見ながら頭を働かせる様は、もうさすがとしか言いようがない。


 ……やっぱり、こういう光景を見ると思い知らされる。

 ここに並んで立ったときの、カースト上位者と根暗ぼっちの差がはっきりと具現化されていていたたまれない……。


「どうしたの?」なんて、いつもなら優しいはずの気遣いもこの状況では野暮だった。

 すまないと思ってるよ……多分。


 やがて出来上がった晩ご飯を、今度は僕、一之瀬、優衣の3人で囲んで食べる。

 兄貴は「ちょっとやらなきゃならない仕事があってな。ごめんよぉ~、大好きなお兄ちゃんが側にいなくて寂しいかもしれないけど、後でいっぱい慰めてやるからな?」と、うざったらしい長めの文章と共に僕を抱き寄せてきた。


 ……やっぱり早急に病院に連れて行った方がいいんだろうか。


 食べ終えた後、優衣は自室へと戻っていった。きっと勉強の続きをするか、ベッドで寝転がるかのどちらかだろうな。


「風呂、先に入るか?」


「そう、ね。あいつの後だけは入りたくないし、前に入るわ。汚い風呂には浸かりたいと思わないもの!」


「言うと思ったよ」


 やっぱり僕より一之瀬の方が扱い雑だろ。


「……ハル君、先に入ったらどう? 私はあいつ以外だったらいいし」


「じゃあ、お言葉に甘えるかな。お前は僕の後ででもいいか?」


「……す、好きにしてよ」


 兄貴のように何かしら反論してくるのかと思ったのだが、どうやらそういったことは無さそうだ。意外とあっさり引いてくれた。


 しかし。何故あんなにも兄貴を拒絶するのか甚だ疑問だ。何が気に入らなくてあんなにもめるのやら。僕は疑問に思いつつも風呂場へと向かう。


 優衣は部屋に籠ったし、兄貴は大学の課題で手詰まり中。

 それに加えて、一之瀬は僕の後。


 ……あれ? 必然的に僕が最初じゃん。くじを引くまでもなく結果は明らかだった。


「はぁ……」


 脱衣所にて僕は重苦しいため息を吐く。

 特別意識しているわけではない。ただの昔馴染みで、隣にいるのが当たり前なだけ。


 今までの交流だって変えたつもりは特にない。

 ……だというのに、どうしてこんなにも一之瀬のことが頭から抜けないのだろう。



 春休み──全てはあの告白から始まった。


 きっとあれのせいで、僕の認識がずれ始めているに違いない。嘘でも、そう思いたい。

 これは……単なる好奇心だ。欲求だ。


 これは決してあいつが言うような『恋心』じゃない――。


 そもそもだ。僕はクラスの全員をまとめられるようなカリスマ性なんて持ち合わせていない。精々クラス内の影に溶け込む“根暗ぼっち”のはずだ。名前に『晴』なんて付いているが所詮は名前でしかない。僕は名前のように光り輝いているわけじゃない。



 ……あぁあ!! ダメだ……こんなこと、すぐに忘れよう。



 悩んでいたってどうしようもない。

 結局のところは僕の気持ち次第なのだろう? ──なら、決まっている。


 僕に、一之瀬のことを好きになる資格も、それを言うような度胸もない。


 シャワーを全身に浴びながら、僕はそう改めて決意した。

 こんな有耶無耶な気持ちのまま、僕の決意を曲げることは許さない。



「……上がったぞ」


 それから数十分してから風呂場を出る。

 髪をドライヤーで乾かした後、僕はリビングへと足を踏み入れる。そこには、机に向かって勉強している一之瀬がいた。


 ……こいつ、いつも勉強してないと死ぬ呪いでもあるのだろうか。

 でも──こんな皮肉めいたことを言えるのも、全てはこいつのことを誰よりも知っているからで──。


「あ、うん──っぶふ!?」


「えっ……なに?」


 一之瀬が僕の方へと振り向いた瞬間、飲んでいた飲み物を全て吹き出したのだ。その後咳き込む彼女の背中を摩ると、何故か真っ赤な顔をされながら眉間にしわのよった表情で言われた。


「ど、どうして裸なのよ!?」


「どうしてって……そりゃあ、さっきまで風呂に入ってたんだし当たり前だろ?」


「そういうことじゃない!! た、確かに、いつも家族にしか見られてないからそんな反応なのかもしれないけど、普通はありえないのよ!? 何で裸でリビングに来たりなんかしたのよ!! 私への嫌がらせ!? それはそれで嬉し……──って、そうじゃなくて──け、健康の毒よ!!」


 それを言うなら目の毒だろ。何だ、その新しい表現。

 今の僕はバスタオルを腰に巻き、タオルを首に掛けただけの状態だ。確かに、ほぼ全裸だと言われても仕方がない。


 ……まぁ、迂闊なことをしてしまった僕にも理はあるわけだけど。それよりもさっき、僕のこの姿を見て『嬉しい』って言いかけなかったか?

 こいつ……こんなにド変態だったっけ……。


「な、何よ、その目は」


「いや。……人って色々と個性があるのを再確認させられたっていうか、認識させられたっていうか……」


「何よそれ……。というか、どうして裸で……?」


 犯罪者を見るような目はいい加減にやめてほしいんだけど。お前、一応こんな僕に告白したっていう事実をお忘れで?


「どうしてって、そりゃあお前を呼ぶためと……牛乳を飲むため?」


「……ふ~ん。……へぇ~~、風呂上りに牛乳、ねぇ~?」


 急に怪しげな笑みを浮かべた一之瀬。

 ……あ、これはまずい。変なネタを与えてしまったかもしれない。

 一之瀬がこんな表情を浮かべるときは十中八九――人を小馬鹿にするときだ。


「風呂上がりに牛乳……そんなに身長が平均並みなの気にしてるの~?」


「……うっさいなー! そんなの僕の勝手だろうが」


 僕の身長は高校生男子の平均ぐらい。身長が高いどこかのアホに嫉妬することもあるほどにコンプレックスなのである。


「まぁそうね。確かにハル君の勝手だけど、私としては伸びない方が助かるのに……」


「……えっ?」


「~~~~~っ!! や、やっぱり今の無し!! お、お風呂入ってきます!!」


 慌てた様子で僕の横を通って行き、お風呂場へと向かう一之瀬の頬は真紅の色へと変化を遂げていた。

 ……自爆でもしたのか?


 聞き間違いであってほしいんだけど、今の発言。少しだけ、ほんの少しだけだが……胸が絞めつけられた感覚がした。

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