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取り換え子

作者: 森野 ふうら

 うちの地域には「取り換え子」というものがある。赤ちゃんが生まれると、まず村の霊能者さんに見てもらう。そのとき「呪いがある」と言われたら、その子が3歳になった日に、山の中にある小屋につれていく。そして、一晩置きざりにする。そうすると山の神様が呪いのある子をもらい、呪いのない子と取り換えてくれる。らしい。もちろん実際に取り換えられるわけじゃない。けど、そういうことになっている。

 ぼくの妹は「取り換え子」だ。だからなのか、家族は妹にだけ態度が違う。いつも妹を無視する。妹が話しかけても返事をしない。目も合わせない。どんなときでも仲間はずれにする。家族だけじゃない。村の人みんなそうだ。

 ぼくには理解できない。

 妹は元気で明るい、とてもいい子だ。いつもニコニコ笑ってぼくの後をついてくる。いろんなことを話してくれる。妹はぼくが大好きだ。毎日ぼくを誘って散歩にでては、道に咲いたきれいな花や、川原に落ちてたすべすべの石をくれる。自分にはなにも残さない。全部ぼくにくれる。たまには自分で持ってなよと言っても「わたしには、おにいちゃんがいるからいいの」と笑っている。

 こんなにやさしい妹を、みんなが無視する。それだけじゃない。ぼくが妹と話していると「話すのをやめなさい」と、ぼくにも妹を無視させようとする。

 ぼくにはわからない。妹は「取り換え子」だ。だけど、山の神様に取り換えられたなら、呪いはもうないはずだ。それに、取り換え子だとかそうじゃないとか、呪いがあるとかないとか、そんなことは関係なく、妹は妹だ。ぼくの大事な妹だ。もう我慢できない。

 「どうして妹を無視するの!?取り換え子だから?そんな理由で無視するなんておかしいよ!」

 叫んだぼくに、お母さんは眉間にしわをよせた。

 「何を言ってるの。取り換え子はあなたでしょ?3歳の時に山の小屋に連れてったじゃない」

 え?とぼくは口を開けた。お母さんは怖い顔をして続ける。

 「それに、妹って誰のこと?あなたには妹なんていないでしょ。あなたはいつも一人で喋っているだけ。もうそういうのはやめなさい」

 ぼくは頭がまっしろになった。

 妹がいない?なんのことだろう。妹はずっといるじゃないか。昔からぼくのそばに。ぼくが3歳のころから、ずっと。ほら、今だって。

 後ろをふりかえる。妹が立っている。妹はにこにこしながらぼくを見上げた。

 「おにいちゃん、さんぽにいこう? やまにいこうよ。こんどはかえらないでね」


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