閑話 皇帝はつらいよ
キーラン視線のお話です。
合わせて新作も投稿開始したのでよろしければご覧ください。
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俺の名はキーラン・ルフ・ユールディン。
ユールディン帝国の皇帝だ。
皇帝と言うと絶対的な支配者みたいに思われてるかもしれないが、実際はそんなことは全然ない。
毎日毎日部下にせっつかれて仕事詰め。
指先一つで指示を出すなんて事は絶対にない。
帝国全土から集められた公共事業の最終決裁のサインをしたりだとか色んな国策の会議に出席して部下の意見を聞いたりまとめたり。
もう俺一人じゃ手が回らないんじゃねーかと思っている。
誰かもう一人皇帝にしない?
キグスリーお前どう?
日替わり皇帝とか。
巷の食堂じゃないのですからと頭をはたかれた。
本来なら皇帝の頭をはたくとか死刑一択なのだがいまこの場では俺とキグスリーしかいないからそれくらいでは死刑にはならない。
いや、例え他に何をされてもキグスリーが居なくなったら仕事が倍増するから絶対にこいつだけは手離さない。
キグスリーは幼なじみだ。
俺が物心ついた頃にはすでに隣にいて、兄弟のように育ってきた。
何をするのも一緒だったからこうして俺が皇帝になった後も執事として俺のそばにいる。
俺への仕事はキグスリーが一度目を通して俺のサインが必要と判断されたもののみがこちらに回ってくる。
にも関わらず部下は毎日毎日書類を追加していきやがるから減った気がしない。
何でこうなったんだ?
俺は皇帝に何かなる予定の人生じゃなかったはずなのに。
俺は元々エッケベルク子爵家で跡継ぎとして育てられていた。
お袋と親父は流行り病で早死にした、祖父のスタン・エッケベルク子爵からそう聞かされていた。
だからジジイは自分が耄碌する前に俺を跡継ぎとして相応しい男にするために毎日あれやこれやと厳しいレッスンを強いてきたと思っていた。
ただ俺も生来の気性からしょっちゅう反発したり逃げ出したりしていたが。
そんな俺と常に一緒にいたのがキグスリー。
イタズラする時もレッスンから逃げ出す時もこっそり家を抜け出して街で買い食いしたりする時も常に一緒。
当時は祖父の知り合いの子供で俺の遊び相手としてエッケベルク子爵家にやってきたと聞いていた。
今思えば完全にお目付け役だったのだが、当時はキグスリーもガキだったからそんなに深く考えてはおらず、とにかく一緒にいようくらいしか思ってなかったらしいけどな。
そんな俺とキグスリーだがついに成人の十五歳となり、俺は祖父から、キグスリーはエッケベルク子爵家へと態々やって来た父親に、それぞれ呼び出された。
俺達は何か小難しい説教でもされるのかなと嫌々出向いたら、俺は実は皇帝の隠し子だったと聞かされた。
母は宮廷侍女で、ルーファス帝が出来心で手を出して俺を身籠ってしまった。
母の位が低かったから、とりあえず俺は皇位継承権のない庶子として母の実家で育てられることになり、母はそのまま帰郷。
俺を産んだ後、流行り病ですぐに亡くなったらしい。
いきなり呼び出してお前は皇帝の息子だと言われてもハイそうですかと飲み込めるわけもなく、俺はなんでそんな事を今さら伝えやがったんだそんなもん知った事じゃねぇとジジイと激しく口論した。
俺にあれだけ厳しいレッスンを施したのも、いつか俺が皇帝から皇子として迎えられる未来が来た時のためだったらしい。
当時寄り合いで周辺の貴族の子息と話をする機会があった時、なんで我が家だけここまでするんだと疑問に思っていたが、まさかそんな理由だったとは。
俺は母を捨てた皇帝なんかと会う気もないし皇子何かゴメンだと吐き捨てたが、ジジイはそんな無礼な口をきくとは何事かと激昂した。
散々怒鳴りあった後、俺は家を飛び出した。
その途中、待ち伏せしていたキグスリーと出会った俺はキグスリーにも食ってかかった。
お前も俺が皇子だと知って一緒にいたのか、と。
「俺も先ほど初めて聞かされたんだ。お前が皇子だとか想像すらできなかった。父にも何度も間違いじゃないかと確認したくらいだ」
俺の頭をはたきながら『お前が皇子とかこの世の最低の冗談だと思った』だとか『女の着替えを覗こうとしてばれて魔法をくらう皇子とかこの世に存在していいはずがない』とか散々ボロクソに言った後、キグスリーは右手を差し出した。
「お前が皇子だとか父や我が家の言いつけがどうだとか関係ない。俺はお前の幼なじみで、いつも一緒だ。どこに行くにもな。そうだろう?」
俺は泣きそうになりながらキグスリーの右手を握り、一緒にこの国を出ようと誘った。
俺達は幸いそれなりに腕がたつ方だったので、そのまま北の大陸行きの船に飛び乗って、向こうで冒険者になる事にした。
どうせならトップを目指そうぜと言って北の大陸どころか世界一じゃないかと言われるほど冒険者の実力が高いクルンヴァルトを目指す事にした。
クルンヴァルトにたどり着いた俺達は冒険者登録後、サクサク階級を上げていった。
エッケベルク領でもゴブリンやオーク、大足猪を倒した経験があったため、C級まではさして苦労もせずに昇格したが、C級からは流石に二人ではキツくなってきて、遠距離攻撃を持った後衛と、出来ればシーフか回復役が欲しかった。
遠距離攻撃は、俺は剣でキグスリーは槍だったためどちらも遠距離攻撃手段がなかったから、例えば空を飛べる魔物とは相性が悪かった。
索敵は俺もキグスリーも狼系だったためある程度はできたが、ダンジョンの罠の解除や宝箱の解錠等専門スキルを持ったシーフが欲しかったし、戦闘中の回復は薬頼みだったため防御や補助、治癒の魔術が使える魔術師か神官も仲間にしたかった。
そこでギルドでパーティー仲間を募集したら、二人仲間にする事が出来た。
シーフのバクーは鼠の獣人で、その小柄な身体を生かした広範囲の索敵とダンジョンでの素早い罠の解除や未だに失敗したことのない宝箱の解錠はクルンヴァルトどころか現役冒険者でも一番と言われていた。
ただ、攻撃はからっきしなため戦闘時は魔道具を使った全般的な補助役を担う事になった。
エルフのララトグラフは弓使いで、魔術の補助を使用した的を外すことのない並ぶ者なしと称賛された弓術に、エルフの中でも使い手が希少な植物魔法を使った防御や簡易治癒も可能な万能型の後衛だ。
バクーは主にダンジョンに挑むパーティーへ一時的に助っ人として雇われる事が多く、ララトグラフは後衛や飛び道具持ちの人手が足りないパーティーに一時的に助っ人に入る事が多かったらしい。
つまり二人とも基本ソロで活動していたのだが、最近色々限界を感じていたところに俺達の募集を見て応募してきたらしい。
どちらもかなりの能力だと思うのに、何で今まで特定のパーティーに所属してこなかったのか聞いてみた。
「攻撃手段がないシーフはお荷物扱いされるから。ダンジョンでは罠の解除や宝箱の解錠はお手の物だけどボス戦とかだとあまり役に立てないし、ダンジョン以外だとそこまで索敵が必要とされないから。魔道具の補助も金がかかるから敬遠された」
「どのパーティーも不潔極まりない。いくら冒険者が汚れるのが当たり前の職業とは言え風呂も入らず洗濯もろくにしない奴らなんかと組めるわけがない」
バクーは尖りすぎた能力が、ララトグラフは潔癖性が、それぞれ敬遠されたらしい。
俺とキグスリーは自慢じゃないが戦闘能力はC級では収まらない腕前だし、元貴族だから着ている服や己の身体は出来る限り清潔に保つようにしていた。
だからバクーが戦闘が出来なくてもあまり問題ないし、ララトグラフが求める清潔具合も常に保っていた。
こうして冒険者パーティー『灰色の牙』が結成された。
二人も腹をわって話してみたら全然良い奴で、パーティーの分け前も、バクーはとりあえず実家に毎月決まった金額を送金できれば後は酒さえ飲めれば文句は言わないと言って、ララトグラフは暇潰しに冒険者になっただけだから清潔な生活を歩むための生活費と晩のワインさえ飲めれば文句を言わないと言った。
俺達はパーティーを組んだ後メキメキ昇格していき、新人で一、二を争うパーティーだと言われるようになった。
ダントツ一位じゃないのは俺達の他に同じように急速に昇格したパーティーがいたからだ。
『貴黒の猫毛』という変な名前のパーティーは、リーダーが俺やキグスリーと同世代で、その仲間達もかなりの曲者揃いだった。
そもそもリーダーのデュークがまず変な奴だった。
俺達獣人の毛の部分をすこぶる好んでいるという変わり者。
一緒にいる猫系獣人の妹をいっつもモフモフしていた。
妹以外、それこそその辺の野良猫や飼い犬、はては魔獣までモフモフするという筋金入りだった。
そのくせ戦闘はめちゃくちゃ強い。
特にえげつない方面で強い。
デュークは戦闘中に間合いを頻繁に変えて戦っていた。
剣を使っているのに槍の間合いになったり、そうかと思えばナイフの間合いになったり。
何を言っているのかわからないかと思うだろうが、本当にそんな感じだった。
剣で切りあいながら、上段から振り下ろしたと思えばいきなり間合いを詰めて超接近からナイフで首を一裂きだとか、槍を使っていたのにいきなり投擲したかと思ったら間合いを詰めて腰に下げていた片手剣で一閃だとか、徒手空拳で近接やっていたと思ったらいきなり大きく後方に間合いをとりながら投げナイフ連投して挙げ句に腰に下げた短弓連射したりだとか動きがまったく読めない。
普通そういう奇策ばかり用いる奴はどれも実力が中途半端のはずなのにあいつときたらどれも一流なのでどの動きでも隙がない。
そして一番あいつの質が悪いところは、その変幻自在な間合いを使った武器破壊が得意中の得意だって事だった。
あいつは魔力量は中の上クラスだが、魔力操作は緻密の一言。
天才魔術師と呼ばれたパーティーメンバーのエルフのルルミアをして、『気持ち悪い』と表現するほど細かい操作が得意だったらしい。
これは妹のシャロも同じくらい得意で、何でそんな事出来るんだと質問したら、母親から教わったと返ってきた。
どうもお袋さんは腕の良い錬金術師兼薬師だったらしく、シャロはその技術を受け継いでシーフとしてでなく錬金術師や薬師としても一流だった。
デュークはその辺りは学んでいなかったが、魔力操作だけは覚えて損はないと教え込まれたらしい。
戦闘中にその身体に薄く魔力を纏わせ、相手の武器に己の魔力を通してダメージが通りやすい部分だとか目に見えない部分で耐久力が落ちてる部分を瞬時に把握して、その部分に拳で殴りつけ外部から衝撃を与えつつ同時に魔力を通して内部からも衝撃を与えて鉄だろうが鋼だろうがミスリルだろうがあっさり破壊してしまう。
俺も模擬戦で何度剣を折られたかわかったもんじゃない。
しかもデュークは普人離れした身体能力の持ち主で、オーラも使えないのに俺と同じくらい早いし力も強い。
お前は普人の皮を被った別の生き物じゃないかと言ったらそれは親父だと返された。
親父さんはドラゴンか何かなのかとからかったら、レッサーじゃないドラゴンを素手で殴り殺せる普人だと言う。
流石にドラゴンを素手で殺せる奴なんかいないだろ。
しかしコスタル兄妹は苦笑いするだけだった。
デュークの妹のシャロはデュークほどではないがそれなりに変わった子だった。
見た目はちょっとその辺でお目にかかれない美少女だ。
ナンパしようとしたらデュークに殺されそうになったが。
可愛い見た目に反してシーフとしての腕は一流だ。
罠の解除や宝箱の解錠はバクーの方が腕は上だが、戦闘においては足元にも及ばない。
シャロはとにかく早かったし、スタミナもかなりのものでナイフによる速度を落とさず手数で圧倒する攻撃を得意としていた。
しかも錬金術師兼薬師らしく、毒薬や睡眠薬、麻痺薬や爆薬や閃光玉をバカバカ使って相手を無慈悲に無効化してボコボコにしていた。
えげつなさは兄妹共通だった。
そしてエルフの魔術師ルルミア。
魔力の豊富なエルフの中でも特に際立って多い魔力量に本で得た知識で再現した古代魔法の数々。
賢者にもなれるであろう特大の才能を持っているのに本人はとにかく本が読めればそれでよく、魔術はあくまでその副産物に過ぎないらしい。
冒険者になったのも自分が読んだことのない本を求めてだからこいつもやっぱり変わっている。
そして極めつけが神官のロックダムのジジイ。
デュークが依頼で出向いた先の古い神殿跡の中で倒れていたのを拾ってきたらしい。
アルコール中毒で、とにかく酒がないとなにも出来ない。
神殿跡で倒れていたのも酒も酒代もゼロになって行き倒れていたのが真相らしい。
しかしこのじいさん、酒さえ飲ませておけば世界一クラスの神聖魔術の使い手で、普通の神官なら複数人で発動させる上級結界や広範囲治癒を一人で同時発動出来る傑物だ。
うちのパーティーもかなり変わっていたが、『黒猫』とくらべりゃ全然普通だ。
そんなライバル兼友人となった黒猫の奴らと切磋琢磨していたら結果的にパーティー全員がS級になっていた。
俺達は高額依頼を受けまくりガッポガッポ稼いでいたが、バクーもララトグラフも金にはあまり興味を示さず、最初に決めた金額にちょっと色をつけた金額で全然問題ないとそれ以上受け取らなかった。
キグスリーがパーティー運営に必要な経費はきちんと計算して依頼代金から天引きしていたので残りの金はリーダーである俺の懐にほとんど入っていた。
金に余裕があるなら、若い健全な男なら遊びに使うのが普通。
クルンヴァルトは冒険者の街として有名だが、もう二つ有名なものがある。
一つはブレストニア帝国最大の市場を中心とした交易。
そしてもう一つは、大陸最大規模の夜の街だ。
街の南側、帝都寄りの辺りに広がる歓楽街は、カジノや酒場、そして何と言っても娼館が多く建ち並び、どんな性癖の奴にも刺さる店があると評判の店揃えだ。
エッケベルク領には娼館がなく、帝都ルフラントにはそれなりにあるが、俺は一度も行った事がなかった。
俺はここで男になる。
そう、これこそが俺がクルンヴァルトを選んだ真の理由だった。
実際クルンヴァルトの娼館はどの店もレベルが高く、ある程度の金額を出せば問題なく楽しめる。
当然俺も楽しませてもらっていた。
だが、俺はある程度では満足出来なくなった。
冒険者として最高峰に上り詰めたのだから、夜の遊びも頂点を目指す。
この街最高の娼館と名高いヴァイオレットガーデンの一番人気、狐獣人のエレナさんを指名出来るようになるまで通いつめてやると心に決めたのだった。
そう誓ってから一年ほどたって、何とかヴァイオレットガーデンの上位クラスの女の子を指名出来るまでにはなっていた。
あともう少しでエレナさんへの指名が出来るようになる。
いやーうちのパーティーメンバーが金と女に淡白でよかった。
持つべきものは欲のないパーティーメンバーだ。
ただキグスリーは報酬を九割も娼館に注ぎ込むなとか色々言っていたが、最終的にはマイナスにはならなかったのだからなんとかなっていたのだろう。
まあなんともならなくなってもギルドで土下座して頼み込めば大抵何とかなったし。
頭を下げるだけで金策ができるのだから安いものだ。
そう笑って話すと大抵キグスリーから殴られて説教されたけどな。
そうやって順調に進んでいた俺達の冒険者生活だが、ある日突然終わりを告げてしまった。
実家から人がやってきたのだ。
俺達はライバルの黒猫同様パーティーメンバーが欠ける事なく全員S級まで上り詰めた話題のパーティーで、その活躍は海を渡ったバーランディア大陸にも響いていたらしい。
そのせいで実家のジジイに俺の話が耳に入り、俺を連れ戻すべく人が送られてきた。
やってきたのは再従兄弟のウォルト。
実家の親戚の中ではキグスリーを除いて一番仲が良かった、年の離れた兄貴みたいな存在だった。
俺に剣の手解きをしてくれた師匠でもある。
ウォルトは若いころは帝都で騎士をしていたのだが、俺が剣のレッスンを始める年頃になると祖父の要望に答えてわざわざ騎士を辞めて戻ってきた。
元々婚約者の幼なじみがいる地元に結婚のためにもどるタイミングだったからちょうどよかったと笑っていたが、後から知った話では騎士団長にもなれる逸材としてかなり引き留められたらしい。
そんなウォルトに祖父が流行り病で立てなくなった事、このままではエッケベルク子爵家はお家断絶の危機である事、エッケベルク子爵領内は流行り病と天災、魔物被害で大きなダメージを受けてしまった事を聞かせれて、俺はめちゃくちゃ混乱した。
ウォルトが継げば良いじゃないか、と言ったらウォルトはすでに奥さんの実家の騎士爵家を継いでいるのでダメで、子供も女の子ばかり。
それ以外の養子に入るなどして継げそうな血族も流行り病や天災で亡くなってしまったらしい。
兄貴で師匠なウォルトに、頼むから戻ってきてくれと頭を下げられて、それでも当時の俺は拒否して追い返してしまった。
今さら帰れるかって気持ちが三割。まだエレナさんを指名出来ていないって気持ちが七割だったが。
イラつく頭で定宿の食堂で酒をかっくらっていたら、ギルドに行って留守にしていたキグスリーが帰ってきて俺を見た瞬間何かあったなと察したらしい。
俺と同じように酒を注文したキグスリーに全てを話し、今さらなんなんだと管を巻いた俺はそのまま潰れて寝落ちしてしまった。
次の日、日中は二日酔いで死んでいたのだが、午後から気分を変えるべく娼館に繰り出し最近お気に入りのヴァイオレットガーデンの指名ランク二十位、癒し系の雰囲気が人気の普人のマーガレットを指名してその癒し成分たっぷりの胸に癒してもらい、気分よく翌朝を迎え定宿に戻ってみれば、ウォルトとキグスリーが食堂で朝食を食べていた。
「帰ってきたかキーラン。朝飯、食べるか?」
「ああ、そういや起きてから何にも食べてないから腹減ってるな。おかみさん、俺にも朝飯。肉系でよろしく」
「昨夜はお楽しみだったようだな」
キグスリーはいつもの事だがと言わんばかりの呆れた目線でそう言って軽く頭を振った。
「まあな。マーガレットちゃんの癒し系な胸にたっぷり癒されてきたぜ」
「お前は昔から巨乳派だなキーラン」
「そういうウォルトは変わらず足派なんだろ?」
「俺にとって嫁さんのキレイな足以上のものは存在しないな」
「はいはいごちそうさん」
シモな話から入ったのもあって、ウォルトとは先日の気まずい空気を引きずることなく話す事が出来たが、この日はウォルトではなくキグスリーに帰る話をふられてしまった。
思えば、この時話も聞かずにその場から逃げ出していれば俺が皇帝になることはなかったかもしれないと今更ながら後悔している。
「それで、キーラン。お前本当に良いのか?」
「何がだよ?」
「とぼけるな。スタン様の事だ」
「…………」
「別に俺はお前にエッケベルク家を継げって言いたいわけじゃない。だが、スタン様には会うべきだ」
「今さらあのジジイに会いたいなんて思わねぇよ」
「スタン様は確かに頑固で融通のきかない所もあったが、お前の事を嫌っていたわけではなかった。むしろ愛していたからこそあそこまで熱心にお前を教育していたんだ。ただ、その教育がむしろお前との距離を作ってしまったのは否定できないが。だからと言ってお前を成人まで不自由なく育ててくれたのはあの方で、今のお前がいるのもスタン様のおかげなんだ。我を張って会わずに後悔するより、一度は会って話をした方が良い」
「お前の言いたい事は分かった。だが俺ぁ……」
「会いに行くならお前が指名したがっていたヴァイオレットガーデンの一番人気の狐獣人と一晩お付き合い出来るよう話を通してやる」
「ジジイが死ぬ前に顔くらい見に行ってやってもいいかな」
こうして俺は故郷に戻り、そのあまりの荒廃ぶりにいてもたってもいられずにあれこれ動いた結果、気づいたら皇帝になっていた。
「キーラン兄、じゃなくて旦那様、でもなくて、陛下。何か考え事ですか?」
バルティエッタが自室で食後のお茶を飲みながらぼーっとしていた俺にお代わりを注いで隣に座った。
人前ではちゃんと皇后が出来ているバルティエッタだが、こうやって自室で二人だけの時はまだまだ素が出ることが多い。
元々皇后になる予定なんか無かった娘だし、冒険者をしていたなど皇家の一員としての意識も薄かったからそれを思えばよくやっているし、だからこそ俺とも気が合った。
俺自身冒険者時代は結婚何か考えたこともなかったが、思った以上にこの娘との結婚生活は上手くいっている。
「キーラン兄でいいぞ。ここでは素でかまわないって言ってるだろ?」
「そうだけど、普段からある程度気にしないとすぐにボロが出ちゃいそうだし」
難しー!と言いながらもリラックスした様子で俺の肩に頭をあずけてくる。
「で、何を考えていたんです?」
「今までの事を、色々とな。子爵家を飛び出して冒険者になって、バクーやララトグラフとパーティーを組んで、デューク達と切磋琢磨して、S級になって、故郷に戻ってあれこれしてたら皇帝になってしまっていた。どうしてこうなったんだかと思い返してたんだよ」
「キーラン兄ほど波瀾万丈な人生を歩んでいる人って中々いないよね。S級冒険者が皇帝なるなんておとぎ話みたい」
「嫁さんも元冒険者だしな。でもまぁデュークの奴も相当ぶっ飛んだ人生送ってるがな」
「あー、デュークさんも確かに凄いよね。S級冒険者から騎士団長になって、辞めたかと思えば辞めた原因の国王様が退位させられて、新しい国王様に戻って来いって言われても無視して東の大陸にさっさと冒険に行っちゃったし。それでもキーラン兄ほどではないんじゃないかな?」
そう、デュークの奴は神託がきたとか言って東の大陸で行われる剣聖を決める大会に出場しに行っちまったからな。
しかしあいつほどフットワークが軽い使徒はいないだろうなぁ。
「あいつに関してはお前にも言えない秘密があってな、実はあいつは皇帝何かより希少な存在なんだよ。それを踏まえると俺なんかよりよっぽど数奇な人生歩んでるぞ」
「ええ?!何それ初耳だよキーラン兄。気になるな~」
「知りたければ本人に直接聞いてみな。東の大陸から帰ってきたら土産持ってこっちに来るって話だから、その時にでもな」
お預けか~と言いながらちょっとふくれるバルティエッタの頭をなでながら、今晩は抜け出すのは無理だなぁと思いつつ次はいつ娼館に遊びに行けるかなと考えながら今日は大人しくバルティエッタと床に入るのだった。
またネタを思い付いたら閑話を書きたいと思います。




