モフナデできない人生は我慢出来なかった
ついに今回で完結でございます。
最後まで寝落ちとか……。
思いがけないアホの娘ぶりを発揮した皇后予定のバルティエッタ嬢だが、お説教で涙目になっている姿は案外悪い娘ではないんだろーな、という印象だった。
「皆様、本当に申し訳ありませんでした」
皇后っぽさのかけらもなく半泣きで頭を下げるバルティエッタ嬢。
「本当にすまんデューク、シャロ」
「申し訳ありません。デューク様、シャロ様」
皇帝とその執事もそろって頭を下げた。
「まあ、俺は気にしてないけど、もうちょい考えて行動しような、とだけ言っておくよ」
「次に兄さんを侮辱したら容赦はしない、とだけ言っておく」
「シャロを怒らすとか命知らすだね、とだけ言っておく」
「S級の人を甘く見ると寿命が縮みますよ、とだけ言っておきます」
俺達の反応にごもっともと頷くキーランとキグスリーに、思い知りましたとコクコク頷くバルティエッタ嬢。
「ともかく仕切り直しだ。よく来たなデューク、歓迎するぞ」
「ようこそお出でくださいました。今晩はユールディンの郷土料理を取り揃えておりますのでお楽しみください」
「私の実家でとれた魚を使った料理もありますのでお召し上がりください」
キグスリーが俺の持ち込んだクルンヴァルト支部で出されている安酒を全員についでまわり、全員に行き渡ったところで乾杯となった。
「それでは、再会と新たな出会いを祝して、カンパーイ」
「「「「「「カンパーイ」」」」」」
何故か俺の音戸で乾杯をすると、全員勢いよくゴクゴクと飲んでいく。
「ッ!はあ~!久しぶりのこの味!くぅー安っぽいのに妙にしっくりくるなぁ」
「飛び抜けて美味しいわけではないですが、身体に染み込みますね」
「あー、ギルドの酒場の安酒って感じだぁ~」
キーランとキグスリーは久しぶりの安酒はやっぱり作法もなにもない飲み方が一番美味しく感じられるなぁと笑いあっていた。
最近は特に無礼講なんてことも出来ない日々だろうしな。
バルティエッタ嬢はつい最近まで冒険者をしていたからか、安酒でも特に気にせず飲んでいる。
「うーん、多分今までで一番沢山飲んだ酒だなぁ」
「うん、まずくはないけど特別おいしわけでもない。だけど、落ち着くんだよね」
「私は果実で割りたいな」
「あまり強い酒ではありませんが、不思議と酔いが早い気がします」
俺は酒は強くもなく弱くもなく、普通。
シャロは物凄く強いが、自分から積極的に飲む方じゃない。
ルルミアはちょっと弱いのでいつも途中から果物のジュースで割るのが定番。
ロッテはちょいちょい飲んでいる姿は見ているが、いつも二、三杯で止めている辺り、あまり強くはないのかもしれない。
ちなみにキーランは俺とどっこいどっこい。
キグスリーは深酒をしないタイプだが、それなりに強いっぽい。
皆、それぞれのペースで飲んでいる。
「それでデューク、ここにその格好でいるって事は、やっぱり騎士団長は辞めたのか」
「ああ、国王様に面と向かって引退しますって宣言してきた。やっぱり俺には向かなかったわ、騎士生活」
「そんな気はしてたわ。お前は普段わりと落ち着いているし、正義の味方ってわけじゃないが理不尽や犯罪には厳しい。だけどそれ以上に自分の好きなモノには真っ直ぐ全力だったからなぁ」
ある程度我慢は出来るだろうけども、長期間は無理だと思ってたというキーランの予想は完全に的を射ていた。
俺も多分団長ではなく戦争でもない、そんな時期だったらもっと長い事騎士を続けられただろうなと思っている。
とにかく時期が悪かった。
ただそれだけだ。
「まあ、モフモフ出来ない時間はストレスだったからなぁ」
「出たよモフモフ。お前は本当にモフモフすんの好きだよな。ここ来た時もずっとシャロをモフモフしてたし。今も隙あらばモフモフしてるし」
俺には理解できねぇな、と苦笑いするキーラン。
お前は自前のモフ毛があるからそう言えるんだよとちょびっとジェラシー。
「ふ、俺がモフラーの守護者でよかったな」
「何言ってんだお前……」
「そういうお前の方はどうなんだよ。見事皇帝になっちまった感想は?」
「死ぬほど面倒くせえ!」
「でしょーね」
騎士団長ですら色々面倒だったんだから国のトップともなればその面倒ぶりは想像も出来ないレベルだろう。
「飯が毒味だーとか言って冷めた飯しか出てこなかったり一から十まで俺の許可がいるからと署名させられたり色々面倒なんだよ!」
トイレにすら護衛がついてくる始末で四六時中監視されていて気が休まらないらしい。
「うーわ、トイレまで護衛ついてくるのはないわ~ドン引きだわ~」
「している最中まで見ようとしてきたからさすがに皇帝権限で辞めさせたけどよ……」
皇帝になってからまだ一月も経ってないが、すでに相当ストレスが溜まっているらしく飲んでは愚痴り飲んでは愚痴りを繰り返すキーラン。
「大分やられてんなー。正直なとこどうなんキグスリー?」
「皇帝になったから、と言うより皇帝になる時にあれこれやったので今は特に護衛がピリピリしているのは間違いないのでしょうがない部分もありますが、それでも色街に出かけようとする辺りまだ余裕かと」
「やっぱり抜け出そうとしてやがったか」
「すでに三回は止めに入っております」
「週一で抜け出そうとしてんのか」
「週一でございます」
「もうすでにあなたの子なんです作戦をしてくる奴も十や二十はいるのか?」
「一桁足りません」
「マジか」
「マジでございます」
「いやーもてる男は辛いな」
「うるせえこれでも食ってろ」
キーランの口に干し肉をぶっこむ。
「モガッ!こりゃ携帯食品の干し肉か」
「お前の要望に答えて持ってきたの忘れてたわ」
「相変わらずかった!」
苦労して食いちぎるキーラン。
ベキベキとたてる音は食品とは思えない。
「お前らってクエスト行くと必ず干し肉くってたよな」
「金がなかったんだよ。お前らんとこみたいにマジックバック持ちじゃなかったしな」
「キーラン様の女性問題でパーティーの資金はかなり余裕がありませんでしたからね」
「お前が悪いんじゃねーか」
変だと思ってたんだよなこいつらだってS級パーティーなんだからちょっと貯めればマジックバックなんて買えそうなものなのに。
「パーティーメンバー、よく何も言わなかったなあいつら」
「うちのパーティーメンバーはお前もよく知ってると思うが酒さえ飲めればそこまでも気にしなかったからな」
「つまりお前がひたすら浪費していた、と」
「あの頃キーラン様が一ヶ月色街をがまんしていただければマジックバックなどすぐ買えたんですけどね」
「はっはっはっは」
ユールディン帝国の皆さん、新皇帝ほんとにクズですよ?
その後も冒険者時代のキーランのだめっぷりで盛り上がった俺達だった。
女性陣は女性陣で盛り上がっていて、アホの娘バルティエッタ嬢はロッテと特に親しくなったようだ。
俺達と一緒に行動し始めてからのエピソードを話してはバルティエッタ嬢にS級は人外だなんだと愚痴り、それを聞いたバルティエッタ嬢がドン引きしていた。
シャロとルルミアはお酒と料理を楽しんでいて、あれが美味しいこれは微妙と言いながらぱくついていた。
時折ロッテに突っ込みを入れてさらにバルティエッタ嬢をドン引きさせていた。
「もう皇帝やだー!お姉ちゃんのいるお店で一晩中遊びたいー!」
キーランは大分酒に飲まれてきたようだ。
「はっはっは。まずはお世継ぎを三人は作ってから文句を言ってください。側室も後最低二人はもらっていただきますよ」
キグスリーはキグスリーで結構ハイペースで飲んでいるな。
その後もかなりの量の酒を消費しながらキーランは愚痴りキグスリーは突っ込みを繰り返しながら夜は更けていった。
「酷い有り様だなぁ」
「昔みたいだね」
宴の場は俺とシャロ以外皆酒に飲まれて机に突っ伏していた。
珍しくキグスリーまでやられていたのは驚いた。
やはりキグスリーも相当苦労してるんだな。
ルルミアは座った状態で器用に寝落ちしているし、ロッテは完全に潰れているし、バルティエッタ嬢も酒を片手に寝落ちしている。
「兄さんはまだ大丈夫そう」
「キーランとキグスリーの勢いに聞き役に徹してたからなぁ」
「お茶のむ?」
「砂糖多めで」
「うん」
酔いざましにシャロにお茶を入れてもらいながら、しっぽをモフモフする。
「はい、どうぞ」
「ありがと」
二人でお茶を飲みながらなんとなく無言の時間が続く。
「バルティエッタの話だと、結婚式は早ければ来月だって。平和条約締結にラグラントの使者が来週来るみたい」
「そうか、キーランもついに年貢の納め時か」
「その後に側室候補を選定して迎えるみたい。仲良くできればいいなってバルティエッタはちょっと不安がってた」
「どうだろうね」
「兄さん、膝の上良い?」
「どうぞ、お姫様」
ポスンと俺の膝の上に座ったシャロをモフナデしながら、夜はさらに更けていった。
一ヶ月後。
一度地元に戻った俺達だったが、戻ってすぐに国王様により俺の当主強制引退の命が下された。
どうやらリグリエッタはすっかり怯えきってしまって以前の面影もなくなってしまったのが腹に据えかねたらしい。
八つ当たり人事だったが俺は粛々と受け入れて次期当主を叔父にお願いすると周囲の引き止めを無視して再び国外へと旅に出た。
なんだかんだとついてきたルルミアとロッテと冒険者を続けながら一ヶ月が過ぎ、ついにユールディンにてキーランの結婚式が行われる事になり、俺達はその様子を街中から眺めていた。
キーランからは正式に招待すると言われたが、ラグラントからの参加者達とキーランの双方に迷惑がかかると遠慮した。
「キーラン、めちゃくちゃ緊張してんなー」
「バルティエッタは落ち着いているね」
「アホの娘っぷりが欠片も見られない」
「バルティエッタ、綺麗ですね……」
ロッテが夢見る乙女状態でバルティエッタを見ていた。
やはりまだ若い女の子。結婚式には思い入れがあるのだろう。
「シャロはどんな式を上げたい?」
「仲が良い友達や家族と少人数でお祝いしてもらうのが良いな。なんなら二人きりでも良いくらい」
そう良いながらシャロは手を繋いできた。
シャロが引き取られてから兄妹として長く一緒に暮らしてきた。
だけどシャロはいつしか妹としてだけでなく女性としても見てほしいとアプローチするようになってきて、そんなシャロに俺はどうしたいのか悩んだ時期もあったけど、今さらシャロを他の男に任せるなんて出来ないといつしか思うようになった。
そもそもシャロの極モフがなければ俺はもう生きていけない身体になっているし。
キーラン達がルフラント大神殿の神殿長の前でそれぞれの誓いの言葉を述べて、キスをした。
途端、周囲から盛大な拍手が起こる。
俺とシャロも親友の新たな門出におしみなく拍手を送る。
拍手が鳴りやまない中、俺はシャロの横顔を眺めながら、次は俺達かな、と口にする。
驚いてこちらを振り向いたシャロに、優しくキスをする。
顔を真っ赤にしたシャロの肩を引き寄せながら、こちらに手を振っているキーランに振り返してやる。
命がけで国を守ったけど、結果として騎士団長も引退して貴族の地位も退いて、得たのは元からこの手にあったものだけだったが、それで良いのだろうと今なら思う。
俺には騎士団長は荷が重すぎた。
モフナデできない人生は我慢出来なかった。
だからこの俺にはもったいないくらい可愛くて世界一の極モフな妹と一緒に生きていければそれで充分。
帝都民全員から祝福されるキーラン達を眺めながら、俺とシャロはもう一度キスをした。
最後までお読みくださった皆様、本当にありがとうございました。
当初はもっと軽い流れで書こうと思っていたお話だったんですが、後から色々付け足したら思った以上に長い感じに……。
初投稿だったのでとりあえず毎日更新を目標にやってまいりましたが、色々後悔も残る作品でした。
書いている途中でリアルが忙しくなり、執筆時間がかなり少なくなってしまったため自分でも納得できない内容の日もありました。
毎日更新にこだわらずもう少し練ってから投稿した方が良かったのかと思う今日この頃です。
ですがなんとか完結までもってこられたのも、こんな作品をお読みくださる皆様がいらっしゃったおかげです。
本当にありがとうございました。




