するわけないだろ?!お前皇后で俺皇帝だぞ?!
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ユールディン帝国の帝都ルフラントは凄く広い。
ラグラント王国の王都ラグランティアもかなりの広さだが、それを二回り広くしたのがルフラントだ。
一日二日では堪能しきれない広さにとりあえず宿を一週間とって、のんびりあちこち見て回ることにした。
すでに来たことのあるルルミアはともかく、俺とシャロ、ロッテはまず何があるのかから始めなければならなかった。
ロッテはもちろん神殿や神様関係の場合に行きたいと言い、俺は美味しいパン屋に行きたいと希望し、シャロは俺が行くところならどこでも、だけど髪やモフ毛のお手入れをする美容系のお店にも行きたいとの事。
ルルミアは特にないとのことで、とりあえず情報を集めに行こうと冒険者ギルドに行ってこっちでは手に入りにくい素材を納品してから受付の人にあれこれ質問してみた。
神殿は大小いくつかあるけど、やはり一番大きいルフラント大神殿がオススメ。
神殿以外で神様に関係するスポットなら東門近くのアルディムの神木が良いとの事。
美味しいパン屋は西門の近くにある市場の管理事務所の隣に建っているワズのパン屋か貴族街の向かいの通りに建っているエスターのパン屋が美味しいと有名。
美容店なら北門側の貴族街の近くにあるブラウ通りに美容関係のお店が連なった通りがあるから気に入るものが絶対ありますよと太鼓判。
ついでに聞いた甘いものが美味しいお店は断然南門と帝宮の間くらいにあるフリーヒルズ通りのフランのお店です!と力強くオススメされた。
とりあえず神殿に行こうか、となってまずはルフラント大神殿にやってきた。
これまたでかい。
入り口からもう巨人用ですか?ってくらいでかい。
俺とシャロは上を見上げて口を半開きにして驚いていた。
ロッテは流石ルフラント大神殿、立派な門ですねーと驚いてはいるが予想の範囲内らしく俺とシャロほどではない。
ルルミアは以前見たことがあるからそもそも驚いてすらいなかった。
とりあえず中に入って御寄進をする。
もちろんカウリエン様とミアーナ様、ルナリア様にだ。
シャロも俺と同じ。
ロッテはその三神に、自分が支えるメルナ様とその夫のウォルト様。
エルフのルルミアは植物の神アルディム様。
エルフはほとんどの部族が大樹信仰をしており、村の中央に大きな木が祭られているらしい。
その木の麓にアルディム様の祠があるのが基本的と。
寄進を終えたらロッテが神官の方に声をかけられた。
サーレクス大神殿の神官が参拝に来るのは久しぶりだとかでお茶会に誘われていた。そして何故か俺達も一緒にお茶会に参加。
とりあえず黙っていたらいつの間にかイサカでの話になり、どうも向こうでの話が伝わっていたらしく、当神殿の地下にも開かずの間がありますみたいな話になり、強制連行された。
イサカのものより大きな扉に祈りの力を込めるとやはりあっさり開いた。
中にはいくつかの古文書と小さな祠が安置してあり、神官の皆さんの結論で祠の神様はアルディム様で古文書はこの街の成り立ちに関する覚書みたいなもの。
古文書を嬉々として解読したルルミアはアルディムの神木の麓に元々祭られていた祠がこの神殿を建てる際に移動してこの地下礼拝堂に安置されたとの事。
とりあえず礼拝堂を掃除してアルディム様にお供え物をする。
その後は神官特有の使徒様攻撃にあって神水を沢山作るはめになった。
ロッテお前は一瓶持ってるだろ遠慮しなさい。
神殿を後にしてアルディムの神木に参拝。
かなりでっかい木だったが、大きさ自体はもっと大きな木は見たことがある。
それよりも驚いたのがそのあふれでる神気だった。
俺とロッテの驚きにシャロとルルミアは?顔だった。
ユールディン皇家の家名であり、帝都の名でもある大神鳥ルフの住処だったというのは間違いないのだろう。
ルフはアルディム様の騎鳥となるべく神界に上がったらしいが、神木だけでも物凄い存在感だな。
とりあえず神水をかけて欲しげに思えたので根っこにかけたら神気が倍増してもう凄い眩しかった。
神気が見えないシャロとルルミアはやっぱり?顔だったが。
ビックリした帝都内の神官達が集まり出したので見つかる前にこそこそ退散。
とりあえず次は距離的に貴族街近くの美容店とパン屋に決定。
ブラウ通りはギルドの受付の人が言っていた通りに美容関係がビッシリ並んでいた。
うちの女性陣はシャロの髪の毛とモフ毛の手入れ以外では普段そこまで美容に気を遣う素振りを見せないのだが、いざお店の前に来るとやはりそれなりに夢中になってしまい、俺はお店の前のベンチで置物状態。
ふと周りを見回すと、俺以外にも何人かの男性が置物状態だった。
貴族、平民、冒険者、色んな立場や職業の男性がいたが、今この場では皆等しく置物仲間。
目が合うとお互いに苦笑いしてお互い大変ですなと会釈しあう所が妙に共感できた。
色んなお店をまわる中で隣に座った中年の商人っぽい人に話しかけたら、奥さんと娘さんのお供でかれこれ半日この通りにいるらしい。
酷い時は一日中いますよ、と虚ろな目をしてため息をついていた。
美容に対する女性の執念、恐るべし。
お目当てのものがわりとサクッと見つかったと三時間後にシャロ達から言われた時、俺は思ったよりも早かったね、としか言えなかった。
悟りきった顔の俺とニコニコ顔の女性陣は同じく貴族街近くのエスターのパン屋に行ってみた。
貴族御用達らしくキレイな店舗にならぶパンはどれも高級そうな感じ。
見た目より味だと食パンと他にいくつかのパンを買ってこの日は宿に帰った。
夕食のついでにパンも食べてみたら、かなり美味しかった。
美味しかったが、あの値段ならこれくらいはな、という感覚。
あらためてマルチンの腕の良さを再確認した夜だった。
ちなみにその晩美容店で買った石鹸を使ったシャロの良い匂いが昼間の記憶を刺激して、今日は別々に寝ようと言った俺は悪くないと思う。
次の日は市場とそこにあるパン屋、そして甘いもの巡りだった。
市場はかなり大きく、西バーランディア大陸の食品のほとんど全てが手に入ると言っても過言じゃないくらい品数豊富だった。
とりあえずあれこれ見て回り、お茶の茶葉をいくつか買ったり見たことない調味料を買ったりしながらワズのパン屋に到着。
エスターのパン屋と違い下町向けの低価格で沢山並んでいたが、種類はそこまで多くはなく、とりあえずいつも通り食パンと他にいくつか買って、お店の近くのベンチで試食。
こちらは素材はおそらく低価格なものを使っているが、作るときに一手間かけているのだろう味はかなり良かった。
この価格でこの味なら充分美味しいなとホワイトハニーサックルのジャムを塗りながらわいわい食べていたら、猪系獣人のマッチョな男性が俺達に声をかけてきた。
男性はパン屋の主のワズさんで、ジャムの香りに釣られたらしく、一口もらえないかとお願いしてきた。
俺が切ってあった食パン一枚に塗って手渡したら物凄い勢いで食べていた。
このジャムはどこで手に入るのか!とマジ顔で聞かれたのでアーバン商会のクルンヴァルト支店だと答えると、ありがとう早速アーバン商会に問い合わせてみるよ!と爆走して去っていった。
パン好きはやはりホワイトハニーサックルジャムの虜になる運命なんだな。
その後はフリーヒルズ通りで甘いもの巡りを堪能し、受付の人に教えられたフランのお店であれこれ買って、ついでに教えてくれた受付の人にお土産を買って宿に戻った。
俺は冒険者ギルドに受付の人にお土産を渡しにいったついでにギルド長との面会を希望。
S級であることは素材納品の時に伝えてあったが、あくまで今回は観光だからとあまり口外しないようお願いしてあった。
ただもちろんギルド長には報告してあるだろうと思っての面会希望だったが即了承された。
どうも向こうもこっちに会いたかったらしい。
そのまま受付の人にギルド長室まで案内してもらった。
「お初お目にかかる。冒険者ギルドルフラント支部の支部長をしているバルケッタ・バックラントだ」
バルケッタ支部長は目付きの鋭い鷲系の獣人だった。
「どうも。デュークと言います。いきなり不躾ではあるのですが、支部長はズィールのバックラント家の方なのですか?」
「いかにも。現当主の腹違いの弟だ。先日まではズィール支部の支部長だったが、ルフラントの前任の支部長が辞任してな、急遽俺がこっちの支部長を拝命した」
「なるほど。それはこちらにとってと好都合でした」
「ふむ、君の事は姪の婚約者から話を聞いているよ。いずれ近い内にここにくるだろうからよろしく頼む、とな」
「それは話が早い。あいつに連絡をつけていただきたい」
「了解した。連絡がとれ次第君達に伝えよう。今宿泊している宿はどこかね?」
俺は宿の名前と場所を伝え、不在の場合は伝言を宿の人に頼むようお願いした。
「それにしても、あの有名な貴黒の猫毛のリーダーがこんなに若いとは驚いたよ。キーラン君といい、クルンヴァルト支部の実力はやはり別格だな」
「俺の事をご存知だったんですか」
「もちろんだとも。俺も若い頃は冒険者として各地を回ったが、そのどこでも貴黒の猫毛やキーラン君達の灰色の牙は話題の的だったよ。君は自分がとても有名人だともう少し自覚した方がいいな」
「最近、思いしりましたよ。だから移動先ではなるべく口外しないようギルド員にはお願いしています。バルケッタ支部長こそお若くしてギルド長を勤めてらっしゃるじゃないですか」
「はっはっは。まぁA級止まりの俺が支部長に選ばれたのも政治の部分が強いからなんだがな。特に最近はバックラント家の名が大陸中に響き渡っているからね」
「キーランと婚約した姪ごさんはどんな女性なんですか?」
「跳ねっ返りのじゃじゃ馬でね、剣で私に勝ったら婚約してやるって顔合わせの席で上から目線でキーラン君に勝負を申し込んだものだからこっちはヒヤヒヤものだった」
わっはっはっと笑うバルケッタ支部長。
こっちは笑えないよそのネタは。
「まぁ、剣狼キーランからしたらシルバーのナイフ一本で勝てる程度の腕前だったがね」
姪ごさんは地元ズィールで冒険者をしていたらしく、一人娘のじゃじゃ馬っぷりはお前の影響じゃないかとバルケッタ支部長は兄からチクチク言われていたらしい。
それでもB級になれた程度には才能があったらしく、淑女教育もそっちのけで冒険者活動にいそしんでいたらしい。
そこに持ち上がった突然の婚約話に憤慨。
剣に自信のあった姪ごさんだったがキーランに一太刀も浴びせる事も出来ずに敗北。
その後は従順になり、急遽皇后様に相応しい淑女教育の真っ最中らしい。
あの娘は犬や狼のように強者に従うから最初にガツンとやったのは正解だったねとバルケッタ支部長はからから笑っていた。
まぁ、キーランにはお似合いの嫁さんだと思っておこう。
「それで、君達はこのまま結婚式まで滞在するのかい?」
「流石にそこまでは。いつになるか分からないですし」
「そうか。溜まっている高難易度の依頼を片付けてくれたらな、と思っていたんだが」
「渡りをつけていただくお礼に一つくらいなら引き受けますよ」
「はっはっは。催促したみたいで申し訳ないね。それでは受付のマーナに話しておくから彼女から聞いておいてくれ」
「マーナさん?」
「君を案内した子だよ」
「なるほど。わかりました」
「では、よろしく頼む」
後日、帝都北部の湿原でドラゴンを狩ったりしながら暇潰しをして、連絡のついたキーランと会う日がやってきた。
場所はルフラント大神殿。
神殿長にお願いして声が漏れない機密部屋を借りられる事になった。
「久しぶりだな、デューク、シャロ。ルルミアはこの前ぶり」
「お久しぶりです、デューク様、シャロ様、ルルミア様は先日は大変お世話になりました」
皇帝になってもかわらないキーランに、やややつれたキグスリー。
キグスリー、まじ大変なんだろうな。
「で、そっちの神官っ娘は新人か?」
「この子はシャーロット・ルンテス。ロックダムの孫娘だ」
「何ぃ?!あのアル中結婚しててしかもこんな可愛い孫娘までいたのかよ!」
「これは驚きですね。ロックダム様の破天荒ぶりにてっきり独身かと」
「で、そっちのこっちをめっちゃ睨みつけてるのはお前の護身か?」
「お前相手に護身何か意味ないだろ。この娘が俺の婚約者のバルティエッタ・バックラントだ」
「初めてまして。バルティエッタ・バックラントです。貴黒の猫毛の噂はかねがね聞いております。ですがこのようなハーレムパーティーのスケコマシだとは知りもしませんでしたが」
「ッ!馬鹿!」
キーランが止める間もなく喧嘩を売ってきたバルティエッタ嬢。
「兄さんを侮辱するとか、死にたいの?」
こちらも止める間もなくシャロがバルティエッタ嬢の喉元にナイフを突きつけていた。
「な、い、いつの間に……」
冷や汗を流しながらシャロの殺気にやられて一歩も動けないバルティエッタ嬢。
バルティエッタ嬢は見えなかっただろうなあ本気の動きだったからなぁ。
でもシャロさん、相手将来の皇后様ですよ?
「あれほど事前にご説明させていただいたのに、何も理解されていなかったのですかバルティエッタ様。シャロ様の前でデューク様を侮辱するような真似は慎んで下さいとあれ程申し上げたはずですのに」
キグスリーが呆れた顔でナイフを突きつけられた状態のバルティエッタを諌めている。
どうやらキグスリーのやつれ具合はこの跳ね返り皇后様にも原因があるらしい。
「シャロさんが怒ったの、初めて見ました」
怖ッ!て感じでルルミアの後ろに隠れているロッテ。
「シャロはデュークを馬鹿にする奴は許さないし、逆もまた然り。キーラン、何でこんな奴を連れてきたの?」
何気にこちらも怒っているルルミアにこんな奴呼ばわりされた婚約者を困った目で見ているキーラン。
「シャロ、すまなかった。俺の教育が足りなかった。だからナイフを下ろしてくれ。お願いだ」
「謝る相手が違う。キーランではなくこの娘が兄さんに謝るのがスジ」
「た、大変失礼しました、デューク様、シャロ様」
「はいはい。許す。シャロ、ナイフを下ろしてやって」
シャロは俺の言葉に渋々ナイフを下ろしてこちらに戻ってきた。
「っ、はぁ、」
「このアホっ娘。寿命が縮んだぞ」
息も絶え絶えなバルティエッタ嬢の頭をスパーンとはたくキーラン。
「うぐッ!だって、S級の人の本気を見る機会なんてないから」
「そんな理由で喧嘩売ったのか?!」
「だって、キーラン兄もキグスリー兄も本気で相手してくれないじゃん」
「するわけないだろ?!お前皇后で俺皇帝だぞ?!」
「主の奥方様に本気でお相手するような部下がいるわけないではありませんか。普段から口を酸っぱくして申し上げておりますが、皇后様となられるからには軽挙妄動は慎んで下さい」
二人がかりで説教を受けて涙目の次期皇后様。
うん、初対面だけどこの娘はアホの娘だとすごくよく理解できた。
先ほどまで毛を逆立てて怒っていたシャロも怒気を抜かれてアホの娘を見る視線でバルティエッタ嬢を見ている。
ルルミアも呆れた顔をしていた。
冒険者の中にはこういった相手を挑発して実力を見ようとする奴が一定数いるが、そういった奴に限って相手の実力を正しく計れないタイプが多い。
「私、初対面でデュークさん個人をどうこう言わなくて本当に良かったです」
アル中に騙されていたとは言え自身も挑発して酷い目にあったロッテはちょっとだけ同情の視線でバルティエッタ嬢を見ていた。