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今すぐ行こうすぐ行こう

遅くなりました……。



「読んだ事のない本がこんなに!」


 ルルミアは普段からは考えられない興奮ぶりで目を輝かせながら地下室に入っていった。


「いいんですか?」


「構わないよ。ここにある本、ほとんどが古代語で俺達じゃ読めないから」


「読める人に読んでもらった方が本も幸せ」


「なるほど」

 

 知識の棟で開かずの扉を探していた二人は開かずの扉をいくつか見つけたのだが、実際に行ってみると単に鍵を紛失して開けないだけの倉庫だったり、研究室の研究員がまったく外に出てこない人で別の意味で開かずの部屋だったりしたのだが、一つだけ本物があった。


 神殿の奥にある地下室のドアノブも鍵穴もない扉だった。


 これは使徒関係に違いないとロッテが張り切って俺達を探していたところ、地下室の中を見て宿に引き返してきた俺達を発見してそのまま神殿まで引っ張って行った。


 さあどうぞと扉の前に立たされ、どないせえっちゅーねんと言いながら扉に祈りの力を流したらあっさり開いた。


 目を輝かせるロッテと本がないかと興味津々なルルミアに押されて中に入ると、そこには小さな祭壇があり、中に古い石像があった。


 ロッテから祭壇の様式と石像の作りから祭られている神様は愛の神ブラフエンズだと言われ、俺は即座に祭壇と石像を破壊して扉を閉めた。


 何をするんですかと叫ぶロッテに、ブラフエンズは主神ガイナス様のお怒りを買って謹慎中で、その理由が人界の女性を愛だと言いながら無理矢理襲いまくった挙げ句神界で我が女神カウリエン様を襲おうとしたからだと説明したら、二度と開かないよう封印しましょうとの力強い返事に即頷いて、ルルミアに地の魔法で地下室を特殊な土で固めてもらった。


 イサカ神殿の神官さんには使徒である事を明かして、あの扉の先には悪神に関する物が封印されていたと嘘をついて、そのお詫びにリライアの桶で作った神水を一瓶プレゼントした。ロッテも欲しがったのでついでにあげた。


 がっかりしているルルミアに、母の生家に地下室が隠されていて本だらけだったと伝えたら、今すぐ行こうすぐ行こうとマジ顔で言われて今にいたるって感じだった。


「しかし、本当にあまり汚れていませんね。古代魔法というのは凄いものなのですね」


「周囲にも影響を与えるほど強いってのは本当なんだな」


「確かに何百年何千年と保存しようと思うと魔法の力がないと無理だよね」


 地下室には保存に関する魔法がかけられていたらしく、その影響でこの家全体がそのままの状態を維持するよう働きかけられているらしい。


 よほど強力な魔法だったらしく、ルルミアがかなり驚いていた。


 その当人は地下室にこもって出てくる気配がない。


「とりあえず掃除しようか」


「そうだね、今日はここに泊まろう」


「お手伝いします」


 ルルミアが地下室の本を全部読み終えたのは四日後だった。




「デューク、あなたは多分例の王朝の子孫だよ」


「マジか」


「ロッテ、あなたもその王朝の子孫」


「マジですか」


「マジ。だから遺跡の扉が開けた」


「そうかー。俺とロッテは先祖が一緒だったんだなぁ」


「地下の黄金像、似てるって言ったのあながち間違いじゃなかったんですね」


「世が世なら兄さんは王子様だったんだね」


「そうじゃなくて本当に良かったよ」


 モフナデモフナデ。


「うにゃ~」


「地下室の本に色々書いてあったけど、大まかに言うと例の王朝は神様の怒りにふれて滅んだ。生き残りは散り散りになり、神様の怒りを鎮めるために神官になった一族がいたり、ひっそりと王朝の歴史を後世に伝える役目の一族がいたりした」


「「なるほど」」


「兄さんとロッテ以外にも役目を帯びた一族の子孫がまだいるの?」


「いるけど、もう王朝とは何にも関係ない感じ。というより多分この家の人達以外はもう王朝の事を知っている一族はいないんじゃないかな」


「私の家はそんな話は聞いたことがなかったです」


「うん。そうだろうと思った。デューク、地下室の本は王朝の歴史を綴ったものだけど、現代に再現するには危ない魔法や実験の数々まで記載されていた。私は知識の探求者にして大の本好きとして本当は勧めたくないんだけど、あの本達は危ないから処分すべきだと思う」


「わかった。燃やそうか」


「あっさり。いいの?」


「今の俺に古代王朝の子孫だなんて言われてもピンとこないし、本好きのルルミアが処分すべきなんて言うほど危ない内容なら読まずに燃やしちまった方が良いだろ。な、シャロ」


「お母さんも兄さんと私に任せるって決めた時点で多分こうするって分かってたんじゃないかな。ロッテもそれでいいよね?」


「元より私に決定権はありませんが、神様のお怒りに触れるようなものは、破棄すべきかと」


「なら、早い方がいいから今すぐやろう。あの地下室だと保存の魔法で燃やせないから、マジックバックに入れてどっか適当なとこで燃やそう」


「了解だ」


「お弁当作って行こう」


「お手伝いしますシャロさん」


「デューク、マジックバックに入れるの手伝って」


「はいはい」



 その後俺達は近くの丘で古代王朝の本が燃えていくのを見ながらシャロとロッテの作ったお弁当を食べて、まったりとした後にお袋の家に戻った。



 その夜、なんとなく眠れなくてベッドから抜け出て居間の窓から見える月を眺めていたら、ルルミアがひょっこり顔を出した。


「眠れない?」


「なんとなくな」


 ルルミアはそのまま俺の向かいに座ると俺と同じように外の月を眺めだした。


「あの月には、ルナリア様がペットと共に暮らしているんだってね」


「神界でな。フクロウと羊とウサギ。どれも素晴らしくモフモフ」


「神界に行って、デュークはどう感じた?」


「意外と人界と変わらないな、と」


「そうなんだ……。古代王朝は、人を神様に近付ける実験をしていた」


「へぇ」


「神様のように不老不死を目指した。でも、何度実験しても無理だった」


「そりゃそうだ」


「だから、こう考えた。神様との間に子供を作れば良いって」


「罰当たりだな」


「そうだね、でも神様の中には人界の異性にコナをかける神様がいて、古代王朝はその子供を拐ってきて実験した」


「古代王朝も古代王朝だが神様も神様だ」


「古代王朝は、多分実験に成功した。だから神様のお怒りを買って一夜にして滅んだ」


「なるほど、納得」


「神様になりたかった古代王朝の気持ち、使徒のデュークには理解できる?」


「さっぱり。俺は多分使徒の中でも特別な立ち位置なんだろうけど、それでも不老不死になりたいだなんて思った事はないな。シャロと一緒に歳を取って、同じ時間を生きたいよ」


「デュークっぽい考えだね」


「そうかな。さて、シャロが心配するといけないからそろそろベッドに戻るわ。おやすみー」


「おやすみー」



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