お兄ちゃん、これだけで勇気百倍です。
ブックマークしていただきありがとうございます。
現役時代のフル装備に身を包んだ俺は、アーバン商店の中を借りてマジックバックの中身をチェックしていた。
中身が中身だからうかつにその辺で出したり出来ないものばかりだからな。
抜けがない事を確認して、再び中にしまう。
「よし、忘れ物はないな」
北方エルフの村から戻ったクルンヴァルトに戻ってから一週間が経った。
次はカウリエン様にお会いに行かなければならないのだが、場所がちょっと特殊なため自身をちょっと鍛え直していたらあっという間に日にちが過ぎてしまった。
シャロとルルミアにロッテとグリナの協力を得て、全盛期に近いまでにコンディションを高める事はできたが、自分も随分弛んでいた事にグリナの事をとやかく言えた状態じゃなかったなと反省した。
「いや、比べる相手間違ってるから。私からしたら全盛期のあんたが化け物過ぎたのよ」
「S級って、皆さんこのような規格外な方ばかりなのですか。ますます降格したくなってきました」
呆れ顔のグリナに一緒にするなと言われ、ロッテはS級としての自信を喪失気味だった。
回復役として訓練に同行したロッテは俺達の戦闘を見てアル中の実力がどのくらいだったか質問してきたので素直に答えたら、両手両膝を地面について、お爺様に一発入れるには自分の実力が足りないのではと凹んでいた。
「実力は確かにアル中は世界でも一、二を争うくらいだからしょうがないと思うけど、酒飲みたさに孫を遠ざけたのは事実だから一発くらいは入れても問題ないと思うよ」
ルルミアの慰めに、やっぱりそうですよね!と即座に復活はしていたが、S級として云々はやはり気になっているらしい。
「兄さん、大丈夫だと思うけど気をつけてね」
「ああ、無理はしないよ」
ちょっと心配そうなシャロの頭を右手でモフナデして、左手にそえられたしっぽをモフモフする。
お兄ちゃん、これだけで勇気百倍です。
「デュークの事だから何だかんだ大丈夫だろうけど今回は久しぶりだから危険を感じたら即これを使うように」
ルルミアからはかなりの大きさの魔石が嵌め込まれた魔道具を渡された。魔法が込められた使い捨ての魔道具だ。
「中身はインフェルノストーム×五倍だから」
「周囲が更地になりますやん。最後の最後にどうしても使わなきゃヤバい時に使うか考えるよ」
物騒な餞別だった。これだけでクルンヴァルトが滅びかねんな。
「今の状態のあんたが万が一を考えなきゃならないようなところってどこなのかと知りたいような知りたくないような気がするけど、とにかく気をつけてね」
グリナからはハイポーションセットをもらった。
「いいのか?これ、店の奥に飾られてる奴だろ?」
めっちゃ高いなーって思った記憶がある。
「使用期限が半年切っているのよ。このまま使われずに廃棄するならってね」
「そういう事ならありがたくいただくよ。アーバンさんにもお礼を言っといてくれ」
グリナがこっちの手伝いをしてくれていた時に代わりにお店を見ていてくれていたからな。
「ホワイトハニーサックルジャムとあの凄い美味しい食パンが手に入って上機嫌だったから大丈夫よ」
帰ってからすぐにマルチンの店にお土産にホワイトハニーサックルジャムを渡しに行ったら満面の笑顔のマルチンから各種お菓子パンとマフィン、そして新作食パンを試食してくれと言われ、パーティーの皆で食べてみたら、全員が息を飲む美味しさだった。
これならカウリエン様にも喜ばれるに違いないと俺の出発日に合わせてまた焼いてもらうよう追加の小麦粉を渡し、さらに食パンを一斤アーバンさんにホワイトハニーサックルジャムと一緒にお土産で渡したら物凄く喜んでいた。
グリナ同様カウリエン小麦粉の情報を知りたがったので教えてあげたらアーバン商会が援助するからラグラント、ユールディンの両国はすぐさまこの麦を増産すべきだと熱く語りだして、落ち着けジジイとグリナにはたかれていた。
「私からはこれを。デュークさんならこのアイテムの力を存分に発揮できるはずです」
ロッテからはミスリルのチェーンにコインがついたネックレスを手渡された。
「これは?」
「サーレクス大神殿に伝わる『メルナの息吹き』と呼ばれるアイテムです。かつてサーレクス大神殿に仕えたメルナ様の使徒であった神官が作り上げたとされるもので、祈りの力を込めると治癒の力が身体を包むとされています。私達普通の神官でも自身の力を天馬の羽のように増幅させる効果があります」
「へー。回数制限とかある?」
「ないとされています」
「めちゃくちゃ凄いアイテムだな。試してみても?」
「どうぞ。私も見てみたいです」
「それじゃ、よっと」
コインを握りながら祈りの力を込めると、コインの中に祈りの力が吸収され、身体全体が治癒の光に包まれた。
「おお、マジだ。スゲー」
「これが、本当のメルナの息吹きの力……。凄まじいほどの神気を感じます」
「これは、お店の中を借りて正解だったね兄さん」
「確かに。めちゃくちゃ目立つ」
「発動した瞬間デュークがめちゃくちゃピカピカ光った」
「まぶしいくらいだったわね」
「すまんなロッテ。必ず返すから」
「はい。お気をつけて」
俺の無事をメルナ様に祈ってくれるロッテ。
「皆もありがとうな。それじゃ、行ってくるよ」
全員に見送られながら、俺はカウリエン様にお会いするためにクルンヴァルトを後にしたのだった。
「久しぶりだな、ツェーラ山」
俺はカムユラ山脈にも負けない真っ白な山の麓に立っていた。
ミリカ特製ダンプリンキャットマントが身体を暖かく包み込んでくれる。
ツェーラ山はカムユラ山脈よりは標高が低いが山の八合目くらいにダンジョンが存在し、さらに近辺に亜竜が多いことが有名で難易度で言えばこちらの方が高い。
ここにくるまでにすでに幾多の亜竜を倒してきたが、いい加減亜竜ばかりで飽きてきた。ダンプリンキャット寄越せダンプリンキャット。
「ギャーーース!」
「またお前かよ」
アイスワイバーンを瞬殺し、その後ろに隠れていたナノアイスバジリスクの頭を投げナイフで刺し殺した。
ゴルズのじいさん謹製だけあって亜竜にすらもサクサク刺さる凄まじい切れ味のナイフだ。
とりあえずどちらの身体からも魔石だけ取り出して放置する。
「ナノアイスバジリスクの魔石なら時限玉作れるかもなぁ」
とりあえずまだ本番ですらないのでサクサク進んでいく。
目的地はダンジョン。その奥にある崩落した神殿だ。
俺がカウリエン様の使徒になった場所。
あれは本当に偶然だった。
ダンプリンキャットをモフモフするべくパーティーの休みの日にツェーラ山を徘徊していた俺は、かつて崩落したとされるダンジョンの、別の入り口を偶然見つけた。
興味を惹かれてそのまま先に進んでみたら、ダンジョンには新たなボスが誕生していたようで、これまた偶然ボスの部屋に入ってしまって強制的に戦闘となってしまった。
雪深い山の中にあったのに、ボスは火属性の、インフェルノシーサーペントとか言うマグマの中を自在に泳ぐやっかいな奴だった。
攻撃する度にアチッ!アチッ!ってなりながらなんとか追い詰めたらなんと自爆しやがって、襲いくるマグマの波から命からがら逃げ出した横穴の先で、かつて建国王ラグラントが訪れた、崩落した神殿の跡地へとたどり着いた。
瓦礫だらけで神殿は完全に埋まっているように見えたが、一ヶ所だけ残っていた空の台座があったためそこで一休みしようと腰を下ろしたら、なんとその台座に仕掛けられていた転送魔法によりいきなりいずこかに飛ばされてしまった。
いきなりの転送、さらに転送先が空中だったため受け身を上手くとれずに地面に落下したら、なんと偶然その下にいた男の上に落ちてしまい、下敷きにした男をノックアウトしてしまった。
そのすぐ近くでへたりこんでいたのがカウリエン様だった。




