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ミック渾身の右ストレートによりミッドは雪の上をゴロゴロ転がっていった

ブックマーク、評価ポイント、皆さまありがとうございます。



「これこれ、これを待っておったのだ!」


 うめぇー!と言いながらマフィンを食べるヅミロス様の分神を前に、ロッテは両膝をつきながら一心不乱にお祈りを捧げていた。


 ミッドも初めて間近に接する神様を前に緊張でめちゃめちゃ震えている。


「うむ、旨かった。今回は全部食べずに神界に持ち帰ってちゃんとむこうでも食えるようにしないとな」


「以前から疑問だったのですが、神界では地上の物は手に入らないのですか?」


「入らないわけではないがな、お供え物なら神界に持ち帰ればむこうで再現できるのだが、お供えされないと無理なのだ。いやぁそれにしても中々来てくれなんだから忘れられたかもと不安に思ってカウリエンに聞いてみたら、なにやら大変だったみたいだなデュークよ」


「申し訳ありません。立て込んでおりましてこちらに中々お伺い出来なかったのです。まさかヅミロス様がそこまでこのマフィンをお気にいられておいでとは思わず」


「よいよい。お前さんはワシの使徒ではないから神託も出来ぬししょうがないわな。それより姪が世話になっておるの」


「とんでもない。カウリエン様にお世話になっておりますのは私の方でございます」


「引きこもっていた姪が、最近はまた顔を出すようになって嬉しいのだ。あやつも良い使徒と契約したの」


「私がカウリエン様の使徒になったのも偶然でございますが、せめてその役目に恥じぬよう努力しております」


 俺とヅミロス様の会話を聞いてミッドとロッテが目を見開いて俺を見ている。使徒だって事は伏せていたが、神様との会話の流れだったのでばれてもしょうがない。


「此度の戦では活躍したそうではないか。カウリエンとルナリアが自慢しておったぞ。お主がカウリエンの使徒でなければワシが勧誘したんだがのぅ」


 いやぁ残念残念と石像の状態で首を振るヅミロス様。


 パラパラと落ちる石の欠片を見て大丈夫かなとちょっと不安になる。


「さて、名残惜しいがあまり地上に長居するのも駄目なのでな。マフィン、感謝する。また気が向けば何か甘味か珍しい酒を供えてくれるとありがたい。今回の褒美として何かしてやりたいが、何か希望はあるか?」


「ならば恐れながらお願い申し上げます。この二人にもカムユラ山脈をフリーパスにしていただきたいのです」


 俺はそう言ってロッテとミッドを指す。


 ミッドは北方エルフの村からお供え物を持ってくる時楽になるだろうし、ロッテもまたここに参拝をしに来るだろうからな。


「そんな事で良いのなら、そら、これで大丈夫だ」


 ロッテは神様に祝福されたのが初めてらしく、身に余る光栄です、ありがとうございますと頭を地につけている。


 ミッドは震えながら、これでお供えにお伺いするのが楽になりやした、ありがとうございますとお礼を言っていた。


「では、また機会があれば会おうぞ。さらばだ」


 ヅミロス様の分神はまたもとの石像に戻って神界に帰られていった。


「はぁ、緊張した。ヅミロス様は気さくでお優しい神様だけど、何度お会いしてもおそれ多いわね」


 グリナは片膝をついたお祈りの姿勢から立ち上がると、ん~っと伸びをした。


「そりゃ神様の中でも特に偉いお方だしな」


「声に威厳があるよね」


「石像の分神越しでも感じる凄い力には毎回圧倒されちゃうな」


「皆さん、反応がおかしいです。神様ってだけでおそれ多いです。なんでそんな人界の偉い人に会ったみたいなリアクションなんですか!」


「俺、緊張で心臓が口から飛び出るかと思いやしたぜ」


「ミッドさん、あなたの反応が普通です。四人の反応がおかしいのです」


「そう言われても、お会いになるの三度目だし」


 北方エルフの村に行く途中と、帰りにジャムとお酒をお供えした時の二回に、今回で三度目。


「私も最初はミッドみたいな反応だったけど、ヅミロス様が気楽にするがいいと言ってくださったうえに祝福もいただいたからかな」


 最初よりは慣れたのよねぇと言うグリナにシャロとルルミアが頷いていた。


「最初から普通に会話できていたのは兄さんだけだった」


「デュークは使徒だから神様慣れしていたけど私達もグリナ同様最初はめちゃくちゃ緊張したよ」


「そうです!デュークさん、先ほどヅミロス様との会話でカウリエン様の使徒だとおっしゃられていましたけど!」


「デュークの旦那、俺も初耳ですぜ」


「ああ。言ってなかったからな。ほれ、証拠」


 俺はカウリエンの紋章を手の甲に浮かび上がらせて二人に見せる。


「ほ、本物だ~!本物の使徒様!それもカウリエン様の使徒様なんて!」


 ロッテはメラニア同様俺の手の甲の紋章を見ながらキャーキャー言い始めた。



 


「この馬鹿息子がーー!」


「ぐはぁッ!」


 ミック渾身の右ストレートによりミッドは雪の上をゴロゴロ転がっていった。


「何年も帰らずにいたのは気まずかったからだとこのドラ息子が!そんな理由でなんの音沙汰もなく母さんを悲しませたのか!」


 激オコのミックの説教にミッドも流石に言い返せないようで、起き上がった後はそのまま雪の上に正座して大人しくしていた。


「あの人ったらお客様もほっといてなにやってるのかしら。デュークさん、お久しぶりなのにごめんなさいね」


「構わないよ。それだけミックも心配してたって事だろ。ドリスだって言いたい事や聞きたい事がいっぱいあるだろうから今日は集会所に泊まるよ」


「そんな、そこまで気を使わなくても」


「久しぶりの親子水入らずの邪魔をする方が野暮だよ。お礼ならドリス特性ホワイトハニーサックルジャムを頼むよ」


「……ありがとうございます。明日、三人であらためてお礼をしますので、その後ホワイトハニーサックルを獲りに行きましょう。どうせなら、出来立てをお渡ししたいですし」


「楽しみにしているよ。じゃあ、また明日」


 

 翌朝、顔と目の回りを腫らしたミッドと、目がやや赤いミックとドリスの三人と一緒にホワイトハニーサックルを狩りに出かけた。


「やっぱりデュークにお願いしておいてよかったよ。この馬鹿、まさか非合法ギルドにいたなんて。本当にすまん、恩にきるよ」


「出会えたのもまったくの偶然だったし、下手すりゃ殺してしまうとこだったからそんな何度も礼を言わなくてもいいよ。最終的にはミッドのおかげで俺も自由になれたわけだし」


「ああ、すまん。しかし、デュークが騎士団長になっていたとは驚きだったなぁ」


「俺も驚いたよ。だから中々こっちに顔を出せなかったんだ。そっちはどうなんだ?アーバンさんが毎年ホワイトハニーサックルが手に入るようになったと喜んでいたけど」


「ああ、そっちもデュークのおかげさ。アイスドラゴンがいなくなったから昔みたいにアンダースラント村までの交易が出来るようになって村も以前に比べて大分豊かになったよ」


「そりゃよかった。ただ、不心得者がいないとも限らないから侵入者には注意しろよ」


「わかってる。だけどここまで無傷でこれるのはデューク達くらいだぞ」


「ヅミロス様の祝福があるからな」


「いや、それもあるけど魔物もかなり強いから。俺達北方エルフみたいに特殊技能がないと普通は無理だ」

 

「俺達みたいな侵入者がいないとも限らない」


「まずないと思うが……。その時は潔く諦めるよ。お、見えてきた」


 ミックが指差した先にはホワイトハニーサックルが沢山の実をつけていた。


「ちょうどいい季節にこれて運がよかったよ」


「ああ、タイミングはばっちりだったな。さ、まずは今年の出来を食べて確かめよう」


 まずは美味しく熟した実を皆で食べる。


「あ、甘ーい!美味しい!」


 初めて食べたロッテはその美味しさに感動していた。


「やっぱり美味しいね、兄さん。ほら、もう一つ、あーん」


「あーん。モグング、久しぶりだから特にそう感じるなぁ」


 モフナデモフナデ。


「デューク、あなた食べるがモフナデするがどっちかにしなさいよ。シャロも甘やかし過ぎ」


「兄さんはここ何年もずっと頑張っていたからこれくらいでちょうどいいんだよ」


「そうだそうだー」


「はあ、確かに昨晩色々聞いてビックリしたけど。それよりデューク、例の小麦粉が輸出できるようになったら事前に伝えてよ」


「わかったわかった。事前に手紙を出すよ」


「ラグラントとユールディンが和睦したとなれば色々商機が増えるから、戻ったら早速動かないとね」


「そうだな、ラグラント復興のためにも色々買い付けてくれ。ただ今はホワイトハニーサックルを楽しもう」


「そうね、次に食べられるのはいつになるかわからないし」


「来年もここまで来ればいいんじゃないか?」


「いくらヅミロス様の祝福があっても魔物の強さ的にあなた達以外とだと危ないわよ。あ、これ特に甘い!」


 ホワイトハニーサックルを楽しんだ俺達はその後沢山収穫もして、さらにドリス特性ホワイトハニーサックルジャムの出来立てもいただいた。


「デュークの旦那、シャロの姉御、ルルミアの姉御、世話になりやした。あんた方がいなけりゃ俺は故郷に帰ってくる事が出来なかった。本当に感謝してます」


「気にすんなよ。おかげで俺は一生ホワイトハニーサックルジャムがタダなんだから」


「私は特に何もしていないよ。兄さんのおかげ」


「私も特に何もしてないのにお土産までもらっちゃって」


 ルルミアは村にあった古い本をお土産にいただいていた。読んだことのあるものだったが貴重な初版本らしく喜んでいた。


「グリナさん、ロッテさん、帰りもお気をつけて」


「ありがとう。あなたがいてくれてほんとーに良かったわ。私一人だったらあの地獄に耐えられなかったわ……」


「ミッドさんもお元気で。またいつか会いましょう。ともに死線をくぐり抜けた同士、いつか三人で飲みましょうね!」


 魔の森を踏破して強固な連帯感を育んだ三人は、熱い握手を交わして再開を誓いあっていた。


「世話になったな、デューク。来年もまた来てくれよな」


「ありがとうございましたデュークさん。来年も美味しいジャムをお作りしますから皆さん是非来てくださいな」


「二人とも、ありがとう。また来るよ」


「お酒も沢山もらっちゃって。今度来る時はコスタル領名産の羊毛とチーズを持ってくるね」


「本、ありがとうございました」


「それじゃ、またな」


「またねー」


「バイバーイ」


「それじゃ、元気でねー」


「皆さんの健康をメルナ様とウォルト様に祈っております」


 こうして俺達は北方エルフの村を後にしたのだった。

 





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