だけど冒険者って商売は舐められたら終わりだからな。埋める?
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「ちょっと、待てって言ってるだろ!」
イケメンを無視して先に進もうと歩きだしたら、ちょっと怒ったように俺達の前にまわりこんできた。
「リュート、私達は急いでるって言ったわよね」
まわりこんできたイケメンを迂回して足を止めずにそう言ってその場を後にしようとするグリナ。表情もかなり冷たい感じになっている。
「だから待ってって言ってるじゃないですかグリナさん!ギルドの受付で聞きましたよ、カムユラ山脈まで行くって」
「はぁ、勝手に私達の情報をしゃべっちゃうなんて。帰ったら注意しなきゃ」
「グリナさん、カムユラ山脈は魔の森以上に過酷な場所だって分かってるはずですよ」
「行った事あるから知ってるわよ」
「そんな所にグリナさんだけで行くなんて危険すぎます!」
「あなたね、ちゃんと目、ついてる?五人パーティーよ私達」
「グリナさん、いくらお友達のお願いだからってそんな危険な場所までついていってあげるなんて人が好すぎます。護衛隊の人も一緒に行くべきです」
「彼らは今出払ってるし、いても連れていかなかったわよ。可哀想だから」
大体本人達に拒否されるわよ、とグリナが虚ろな目をすると、イケメンは待ってましたとばかりにさらに前にまわりこんで、手を胸に当てて軽くお辞儀をした。
「なら俺が、ご一緒します。俺ならグリナさんを守れます」
軽薄な動作と言葉だったが、イケメンだから様になってるって言えばなっている。でもやっぱり事情を知ってる人からみれば滑稽としか言いようがないが。
「無理。絶対無理。あなたが出来る最良の事はこの場で何も言わずに私達を見送ることよ」
お辞儀した状態のイケメンの横をグリナは一瞥すらせず通りすぎていく。
「待って下さい!」
そんなグリナの手を掴んで引き留めるイケメン。
「グリナさん、貴女がとても責任感の強い女性だって俺は知っています。今回の事も、何か人に言えないような事情があるんですよね?彼らが本当に友人かどうかも怪しいものです。だから一人で背負って解決しようとしている。でも、たまには人を頼っても良いじゃないですか。そんな全てを背負う必要はありません。それじゃあグリナさんが潰れてしまいます。だから、俺にも背負わせてください」
俺達は何を見せられているのだろうか?
そろそろイラついてきて思わずシャロの頭をモフナデして気を静める。
ルルミアも呆れた表情で背中の杖を手に取った。
ミッドはスッと気配を消した。
それを見たグリナが焦りの表情を浮かべてイケメンの手を払った。
「勘違いもほどほどにしてちょうだい。彼らは本当に久しぶりに再会した友人よ。そもそも彼らがカムユラ山脈に向かうのに、ついていくと言ったのは私の方からなの」
グリナが、もう面倒だから俺達の素性を話して良いかと目で訴えてくる。
事前に目立つのは面倒だからこっちから積極的に身分は明かさない方向で行くと伝えていたためグリナは口にださなかったが、ここまでしつこいともうしょうがないからとうなずき返す。
「彼らは、私の師匠よ。元S級パーティー『貴黒の猫毛』の三人と、あら?ミッドがいない?とにかくその友人よ」
「な?!あの噂の!」
「そうよ。あなたはあなたに都合が良い勘違いをしていたようだけど、全然見当違いも甚だしいわ。私は最近弛んでるじゃないかと師匠達に指摘されて、自分を鍛え直すために同行しているの。理解した?じゃあ私達は急ぐからこれでね」
固まっているイケメンの横を再度通りすぎようとするグリナに、イケメンはそれでも引き留めてきた。
「で、でもグリナさん!彼らは冒険者を引退してもう何年にもなるんでしょ?そんなブランクの空いた人達に現役のグリナさんを弛んでるなんて言う資格が」
「あるのよ。リュート、あんたいい加減にしなさいよ。ロッテ、貴女からも何か言ってやってよ」
ロッテと呼ばれた神官の女の子は他のハーレムの女の子と違いリュートを冷めた目で見ていたが、何故かグリナの言葉に俺に対してキッと視線を向けてきた。
「リュート、あなたの勘違いは彼らに多大な迷惑をかけています。謝罪すべきかと。ただ、ブランクのあるS級が現役のグリナさんに対して師匠面するのも確かに頷きがたいものがありますが」
おお、イケメンを諭すかと思いきやこちらに喧嘩を売ってくるとは中々やるじゃないかこの神官っ娘。
「馬鹿!ロッテあんた」
「グラビティ」
グリナの言葉を遮るようにルルミアが地の魔法でこちらに敵意剥き出しだったハーレムパーティーを地べたへと縫い付けた。
「く、この、サンクチュアリ!」
神官っ娘が神聖魔法で結界を張り抵抗してくるが、ルルミアは容赦がなかった。
「グラビティ×十倍」
威力を増した地の魔法で結界ごと地面の中へと埋め込んで行く。
おーおー結界の中から凄い悲鳴が聞こえてくるな。結界を頑張って維持している神官っ娘はS級だけあって大したものだが後五分も持たないだろうな。
「皆?!貴様ら何をする!」
「売られた喧嘩を買っただけだが?」
「くっ!この野郎!」
イケメンが何か見た目のカッコいい剣で切りかかってきた。恐らくミスリル製だな、高かったろうに。
だが残念だったな、買い直しです。
「ホイッと」
パリーン!
俺はサッと剣を避けるとそのまま剣を殴って粉々に破壊した。
「な?!」
「ホイホイっと」
「ウゴブェッ!」
信じられないと言った表情になったイケメンのがら空きボディに一発くれてやると、顔が下がったところに右頬に追加の一発。
イケメンはゲロを吐きながらすっ飛んでいった。
「だから、何も言わずに見送れって言ったのに……」
一歩も動けず項垂れるグリナに、気配を戻したミッドが慰めるように肩に手をおいていた。
「さて、こっちはどうしようか?」
神官っ娘は思ったより頑張っているのかまだ結界が維持されたいた。
「グラビティの威力は戻したからまだちょっと時間に余裕があるよ」
「なるほど」
相変わらず中からは悲鳴が響き、神官っ娘も結界を維持しながら青い顔をしている。
「だけど冒険者って商売は舐められたら終わりだからな。埋める?」
「ホイホーイ」
ルルミアがグラビティを維持しながらもう一つ地の魔法を発動させ、周辺の土を動かして蓋をしようとした。
「ま、待って待って止めてあげて!」
「グリナはちょっと黙ってようね」
「んー!んー!」
シャロに後ろから拘束され口を覆われたグリナの目の前で、結界に土をかぶせようとした瞬間、神官っ娘が大声で叫んで謝罪した。
「私が悪かったです!どうか許してください!」
「え?やだ」
「残念時間切れ」
ルルミアは土をそのまま結界の上にかぶせた。
「「「「いやあぁぁぁぁーーー!」」」」
土の中から響き渡る絶叫に、ミッドがドン引きして俺達を見ていた。
「「「「ほ、本当に申し訳ありませんでじだぁ」」」」
俺達の前で土下座する美少女達。
皆大泣きして目が腫れ上っていた。
「いやーこっちこそごめん。ちょっとこういう感じ久しぶりだったから悪ノリしちゃった。怪我はない?」
いや本当にごめん。流石にやりすぎた。
「ごめんねー」
「めんごめんご」
「謝罪が軽いわよあんたら」
「鬼だ……旦那達マジオーガより鬼だよ」
グリナはちょっとご立腹で、ミッドはドン引きしている。
ちなみにイケメンは吹っ飛んだまま帰ってこないとこをみるに絶賛気絶中なんだろう。
「ロッテ、普段冷静な貴女があんな挑発的な態度をとるなんて、一体どうしたっていうのよ?」
グリナの呆れたって表情に、神官っ娘は頭を上げると、俺とグリナの方に視線を行ったり来たりしながら事情を話始めた。
「私は、サーレクス大神殿に仕える神官だったのですが、聖峰コロムカヒの空中神殿に参拝に伺った際に、ヅミロス様のお声を聞いたのです。『クルンヴァルトにある美味しいマフィンがまた食べたい』、と」
「神託?お前さん使徒なのか?」
「い、いいえ、違います。ですが一応神殿からは聖女に認定されています。聖女は使徒ほどではないのですが、時折神々のお声を聞く事ができるのです。正確には神託ではなく、神告、と呼ばれています。神々が神殿にて呟かれた言葉をたまたま拾ってしまう事をそう呼びます」
………ヅミロス様、口に出してしまうくらいに気に入ってたんですね。
「貴女が聖女だって事は知ってるけど、それとデューク達を挑発した事とどう繋がってくるの?」
「はい。実は私の祖父が関わる事なのですが」
祖父?神官なん?俺が北の大陸で関わりのあった神官なんてアル中しかいないってもしかして?
「ロッテとやら、あんたまさかだけど、ロックダムの孫だったりする?」
「は、はい。その、通り、です………」
「「「「ええーーーー!!!」」」」
事情が分かっていないミッド以外の全員が驚きの声を上げた。
「あのアル中ジジイ、結婚してたのかよ!」
「あのアル中が、まさか結婚して子供がいたなんて」
「アル中の孫なのに真面目で美少女でアル中じゃないなんて」
「まさか、ロッテがロックダムさんの孫だったなんて。言われてみると確かに目元とか似てるわね。彼は元気にしてる?」
「グリナさん以外からの評価がアル中しかないのは身内の恥なので甘んじて受け入れますが、祖父は現在サーレクス大神殿にて名誉顧問をしております」
「名ばかり職だな」
「酒が入ってないと手が震えちゃうから」
「酒さえ飲ませておけば神聖魔法の使い手としては世界一クラスだから」
「まあ、あまり表に出るタイプじゃないわよね。それで、挑発した理由は?」
「それは……祖父から、ヅミロス様が欲しているマフィンは昔パーティーを組んでいたデュークがお供えした物で、あいつならどこで売っているか知っているはず、お前は神官としてはまだまだだから、修行としてヅミロス様にマフィンをお供えしにクルンヴァルトに行きなさい、と指示されて、神殿を追い出されてしまって」
「え?なんで?俺は地元に帰ってたからクルンヴァルトに居ないことはアル中も知ってたはずだぞ」
「そもそも、兄さんに聞かずともアル中はどこのマフィンか知ってたはず。たまに自分でも買いに行っていたから」
「マフィンの事を手紙で聞くとかすればよかったのでは?」
「えー、この街に来た時私に聞いてくれればよかったのに」
「その、祖父から神告に関わる事だからみだりに口にしてはいけないと言われていまして」
「もしかしてだけど、ロッテちゃんはさ」
「ロッテ、で結構です。ちゃんは要りません」
「ロッテはさ、アル中に酒を呑むのを控えるような事言ってたりした?」
「………はい。その、あまりにも飲む量が多かったので、お身体に障ると。しかも、飲む量が増えたのは冒険者時代にデュークと出会ってしまったからだ、あいつは儂の信仰心を変えてしまった、と言うので」
アル中、孫のお酒控えろ発言が耳に痛かったから修行と称して遠ざけたな。そして酒量が多い理由も俺のせいにしたな。
確かに俺が使徒になったと知って衝撃を受けたの知っていたが、酒量はその前後でまったく変わってないし、信仰心を変えたって元々破戒神官だったジジイが使徒になった俺の祈りの力を見たり分神だが神様に直に会ったりして多少神官らしく出先の祠や神殿にお参りするように改善されたくらいだぞ。
使徒である事を伏せてそれを伝えると、ロッテはワナワナ震えて怒りを露にした。
「お、お爺様、そんなにしてまでお酒が呑みたかったのですか。わざわざ孫の私を遠ざけてまで。おかしいとは思ったんですよ。マフィンを探し出せではなくパーティー仲間を探し出せって言ったのも、私はすでに神官としては十分な実力があったのに、外に修行に出される意味も」
「まあ、なんと言うか、ドンマイ。これでも食べて元気出しな」
「お茶もあるよ」
俺は正座状態のままだった美少女達にもう崩してもかまわないと言って各々にマルチンの店で買い込んだマフィンを渡してやる。
さらにシャロがお茶を淹れてくれていて、それも配って道端でお茶会みたいな感じになった。
「あ、美味しい。これが噂のマフィンなんですか?」
「ああ、マルチンのパン屋で売ってるよ」
他の子達も口々に美味しいと言ってくれる。
「気に入ったなら街に戻ったらお店に行ってみてくれ。場所は冒険者ギルドとは逆の、住宅街の真ん中にある小さな店だ」
マルチンの宣伝をしながら俺達はマフィンを堪能したのだった。




