皆さんお変わりなく……いやけっこう老けましたね
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西方辺境伯邸内にある円卓の会議室。
その席に欠けることなく着席しているのは西方辺境伯派閥の貴族達だ。
騎士爵が七名。準男爵が四名。男爵も四名。子爵が二名。そしてその中央に座る西方辺境伯。
合計十八名の貴族によって行われる寄合は年二回ほど行われるのが普通だが、今回は俺が戻ってきた事を報告する場となっているようだ。
正直、お久しぶりです~またお願いします~ぐらいで済ませてしまいたいが、多分ダメな気がする。
「皆の者、よく集まってくれた。久しぶりに西方辺境伯領の全員が揃ったな。ではさっそくコスタル男爵に挨拶と、騎士になってからの話をしてもらおうか」
やっぱりしなきゃダメですか。
よっこらせっと立ち上がり、皆さんの顔を一瞥する。
「えー、ゴルズ男爵とバセット子爵以外の皆さん、お久しぶりです。恥ずかしながら、騎士団長を引退して帰ってきました。皆さんお変わりなく……いやけっこう老けましたね」
ワッと笑いが起こり、余計なお世話だー、と野次が飛ぶ。
うーん、この貴族らしからぬ空気がまさしく西方辺境伯派閥だなと、懐かしく思いながら騎士になってからの話を面白可笑しく話始めた。
「お疲れ様。久しぶりに大笑いさせてもらったよ」
「いやいや暗い話題が多かった西方で、久しぶりな明るい話を聞けて良かった」
「ゴルズ殿にやったっていう強い酒、まだ持ってないか?」
「うちの孫が騎士団に入りたいって言っててな、今度みてやってくれないか?」
「カウリエン様の麦とはどんな麦なのです?」
寄合の後の食事会では皆さんが代わる代わるやってきては話をしていく。
久しぶりの寄合だったが、皆思ったより元気そうで安心した。
「なーんて思っているんじゃない?デューク兄」
「ミルチェか、久しぶりだな」
いつの間にか俺の横にアルスバッハ男爵の長女でフリックの婚約者でもあるミルチェが立っていた。
久しぶりに会ったが背も伸びて顔も随分大人っぽくなっていた。
「うん、久しぶり。ヴェルデローザじゃ挨拶出来なくてごめんなさい」
「かまわないよ。仕事でちょっと寄っただけなんだろ?しょうがない。フリックの奴は嬉しがってたぞ」
「んフフー。それはもちろん可愛い婚約者に会えたんだから当然です」
「お前ら、このゴタゴタが一段落したら式を挙げるんだろ?」
「ええ、本当は明日にでも挙げたいけど、東方辺境伯領で第二騎士団の応援に行かなきゃ行けないって連絡が来たから」
「そっちも後は小物ばかりだからすぐに終わるだろうよ」
「うん。デューク兄がそう言うなら間違いないね。で、話は戻るけど。デューク兄はさ、皆元気そうだなーって思ったでしょ?」
「ああ、実際あそこで親父さんとゴルズのじいさんが飲み比べしてるし」
寄合の後の風物詩だ。ちなみにどちらも酒に飲まれた姿は見たことがない。
普人ながらドワーフのゴルズのじいさんとやりあえるとか相当ザルだよなアルスバッハ男爵。
「あはは、父さんは後でシメるとして。あのね、寄合の皆がこんなに笑ってるの、本当に久しぶりなんだ。最近じゃ寄合の後は食事会はしないで皆自分達の領地にトンボ返りしてたから」
「そうなのか?」
「うん。皆自分の領地を立て直すのに忙しかったから」
「ああ、そりゃ、そうだよな」
我が家やゴルズ男爵領は山側だったしそれぞれ鍛治や牧畜と産業が独自だったためそこまでの被害はなかったが、西方辺境伯派閥の大半は交易か農業を主産業にしていたためどの家もかなりキツキツな生活だったはずだ。
代々の西方辺境伯が日頃から何が起こるかわからないから貯蓄を怠るな、と口にしていたためどの家も蓄えはあったはずだが、流石に何年ももつわけじゃない。
西方辺境伯家もかなり厳しくて、ガルドナード様は寝る間も惜しんで働いていると聞いていたじゃないか。
「すまん。俺の考えが足りなかったな」
自分の領地が大丈夫だったからと、ちょっと浅く受け取っていた自分に憤りを覚える。
「え?違う違うよデューク兄、勘違いしてるよ。私が言いたかったのは、今皆が笑ってるのはデューク兄が全部解決してくれたからだよ!」
「は?」
「だってそうでしょ?デューク兄が和睦を成し遂げて、デューク兄がカウリエン様から特別な麦を頂いて、デューク兄があの馬鹿王女を成敗して、デューク兄が中央で暗躍してた腐敗貴族どもを成敗して国を建て直したんでしょ」
「いや、俺が全部やったわけじゃないし。和睦も麦もカウリエン様の御慈悲の賜物で俺はハイハイ頷いていただけだ。王女は殴ったけど」
「でもデューク兄が全部何とかしたってフリックは」
あのアホ。何を伝えたか知らないが婚約者だからって迂闊に情報漏らすな。
「ミルチェさんや、こう言っちゃなんだがフリックは俺に対しては五割増しで話を膨らませるとこあるぞ」
「う、それは、そういうとこは確かにあったけど。それでも皆が今日笑ってるのはデューク兄のおかげだよってそう言いたかったの私は!」
「はっはっは。ミルチェはええ子やなぁ。フリックは良い嫁さん貰って果報者やな」
「んフフー、そうでしょそうでしょってちょっとデューク兄話そらしてない?」
「結婚式には呼べよ」
「もちろん!んフフー、もう凄い可愛い式にするんだから!」
ミルチェは自分の結婚式の妄想に忙しくなったためその場を離れて外の空気でも吸うかと思ったら、デューク団の奴らに取っ捕まって先に捕まっていたシャロとルルミアとともに冒険者時代の話から騎士団時代の話まであれやこれやと質問されてしまうのだった。
「はぁ、つ、疲れた」
「うん、疲れた」
シャロと二人してベッドに背中から倒れこむ。
デューク団からの質問の嵐に親どもまで混じり始めて喉がかすれるまで話してしまった。
「同じ話何回させるし」
「再現してとか無茶振りしてくるし」
「「疲れた」」
シャロのしっぽをモフモフしながら寝転んでいたら本当に寝てしまいそうになったが、ミリカがブラシと時限玉が出来てるから後で部屋に取りに来て欲しいと言っていたので、気力を振り絞って立ち上がる。
「ミリカのとこ行こう」
「そうだね」
部屋の外にいたメイドさんにミリカの部屋を教えてもらい、ドアをノックする。
「どなたー?」
「俺だ」
「あ、デュー兄。入ってもらって大丈夫なんよ」
「お邪魔しまーす」
「しまーす」
「いらっしゃいなんよ二人とも。さっきはお疲れ様だったんよ」
「マジ、疲れた」
「フラフラ」
「あはは、あれは確かに疲れちゃうんよ」
ミリカは机の上においてあったカバンから、ブラシと小さな箱を取り出した。
「ブラシはデュー兄の注文通りに出来たと思うんよ。できたら使用感も聞いてきてほしいんよ」
机の上に並べられたブラシは、俺が頭の中で思い浮かべていた形と寸分違わなかった。
「さすがミリカ。予想以上の出来だな」
「ありがとうなんよ。シャロ姉の時限玉はとりあえず色々作ってみたんよ」
ミリカが開けた小さな箱の中には時限玉がいくつか入っており、それぞれが色違いで黒色が二十個、銀色が八個、虹色が二個ずつ入っていた。
「黒色が虫系の、銀色が魚系の、虹色がミニチュアレインボードラゴンの魔石で作られてるんよ。一応虫系と魚系は試射してみたけど虫系は空の樽が割れるくらいの威力で、魚系は鉄の鎧が大きく凹む程度なんよ」
「ミニチュアレインボードラゴンはワイバーンの鱗を貫通して身体を四散させるくらい威力があった。やっぱり小さくてもドラゴンなんだね」
「魚系は簡単に手に入る物を使ったけど、手に入りにくいような希少種ならまた違うと思うんよ。もし手に入ったら持ってきて欲しいんよ」
「ありがとミリカ。どれくらいかかった?」
「お金はいいんよ。代わりにお願いしたい事があるんよ」
「どんな事?」
「アダマンタイトって希少な金属が欲しいんよ。ミスリル以上に貴重なんよ」
俺とシャロは顔を見合わせると、シャロが身に付けているマジックバックからナイフを一振取り出した。刃全体が真っ黒の、やや長めのナイフだ。
「これ、アダマンタイト。私には少し重いから死蔵してた。あげる。」
「ええ?!」
「インゴットもあるぞ」
「ええええー?!」
目を白黒させているミリカに礼を言って、俺達は部屋に戻ったのだった。




