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全然気づかずにめっちゃ鼻歌歌いながら浴場入っちゃったじゃん恥ずかしー!

後日譚でも安定の寝落ち…。


ブックマーク、評価ポイント、ありがとうございます。

 

 西方辺境伯領都は実家から馬車で一日くらいの距離にあるラグラント国内で二番目に大きな都市だ。


 元々ユールディンとの交易と豊富な農産物で賑わいをみせていた都市だったが、今は中央通りも空き家や閉まった店が目立っている。


 だがそれもユールディンとの国交が回復すればすぐに元に戻るだろう。


 夕方に到着した俺達は、とりあえずリラシア辺境伯邸へと馬を進めていた。


「なんだか活気がない街だね」


 本屋がないかと馬車の中から外を眺めていたルルミアだが、殆どの商店が閉まっているのを見てあきらめたようだ。


「戦争と災害のせいだよ。以前は王都並に活気のある街だったんだが、ユールディンとの交易が止まって、さらに去年大洪水が起こって小麦畑の半分近くが浸水。この街もこっち側はあまり被害がなかったが、逆側はかなりの建物が流されたり倒壊したりして、未だ復興途中だ」


「戦争が終わったから、すぐまた昔みたいな街に戻るよ」


「そうだな、シャロの言う通りユールディンとの交易が再開すればすぐに活気も戻るさ。それより、見えて気たぞ」




 リラシア辺境伯邸は黒い屋根がよく目立つとにかくでっかい屋敷だ。

 

 王都のどの屋敷よりもでかいが、この屋敷の中に西方辺境伯領の全てが集約されていると考えればこれくらいは必要なのかもしれない。


「コスタル男爵様、シャロルお嬢様、お久しぶりでございます。本日はようこそいらっしゃいました」


「久しぶりですね、ポートスさん」


「お久しぶりです」


 出迎えてくれたのは執事のポートスさん。


 執事として西方辺境伯家に代々仕えている家系の人らしい。


 子供の頃から知っているが、子供の頃から外見が固定されていて、いくつなのかわからない人だ。


「そちらのエルフのお嬢様はお初に御目にかかりますな。お名前をお教えいただけませんか?」


「ルルミアと言います」


「ありがとうございます。ルルミア様ですな。本日はお部屋の方はいかがいたしましょう?個室になさいますか?それともシャロルお嬢様と相部屋になさいますか?」


「個室で。シャロはデュークと相部屋のはずだよ」


「うん。私と兄さんが相部屋でお願いします」


「承知しました。それではご案内いたします」


 ポートスさんの話ではどうやら前泊組は俺達だけらしい。


 まあ一番遠いのが我が家なのでしょうがない。


「お食事までお時間がございますので先に湯浴みに行かれてはいかがと」


「わかった。そうさせてもらうよ」


 ここの風呂はかなり大きくて男女別だから何の気兼ねもなく入ることが出来る。子供の頃から寄合で楽しみにしていた事の一つだ。


 前泊組が俺達だけだから男湯は俺の貸し切りだ。


 と、思っていたのになぁ。


「息災なようだな、デューク。騎士団長をさっさと辞めたものだからどこか痛めでもしたのかと思ったが、その身体ではそんな事もなさそうだな」


 何で来客用浴場にガルドナード様がおるねん!


 全然気づかずにめっちゃ鼻歌歌いながら浴場入っちゃったじゃん恥ずかしー!


「ハッ!お久しぶりでございますガルドナード様。騎士団長を引退しました件につきましては誠に申し訳ありません。身体的なものではなく、責を負っての事でございますので辞める以外に道がございませんでした。ガルドナード様直々に騎士にご推薦いただいたにも関わらず、このような結末になってしまったのは私の不徳のいたすところでございます」


 申し訳ありませんと頭を下げる。


「はっはっは。冗談だ、冗談。クーデリカから話は聞いている。あのワガママ王女をぶん殴ったんだろ?そりゃ辞めざるを得ないわな。あの親バカ国王が許すはずがないもんな」


 そういってニカッと笑うも、こっちとしては迂闊な返事は出来ない。


「いえ、もう少しやりようはあったのではないかと国王様にもご指摘されました。私の浅慮が招いた結果にございます」


「例えそうであってもお前はユールディンとの和睦を成し遂げ国内の腐敗貴族を一掃するのに中心となった活躍をした救国の英雄だぞ。本来なら死刑の馬鹿王女殴ったところでお釣りがくる位だというのにな」


「とんでもございません。和睦はカウリエン様のお慈悲の賜物ですし、不正貴族の摘発は今までのさばらせていた騎士団に責があります」


「はぁ……デューク。何故そこまで謙遜する。お前はもっと胸を張ってよい立場のはずだ」


「そんな事は……」


 騎士団長を辞めたくて、あれこれ画策した俺に張れる胸も、誇れる活躍もないんですよ。しかも辞めた一番の理由が自由にモフナデしたいからだし。


「やっぱりお前は、騎士が重荷だったんだな」


 見透かされていた事に、内心ドキリとする。


 慌てて否定しようとする俺を、ガルドナードさまは手で制すると、浴場の中で俺に向かって頭を下げた。


「すまなかった、デューク」


「な、頭を上げて下さい!ガルドナード様が私なんぞに頭を下げる理由などありません!」


「そんな事はない。俺が騎士になれと言って、お前が断れるはずはなかったし、お前は騎士に向いているわけじゃなかった。そう分かった上で俺はお前を推薦した。内容は話せないが、俺の個人的な理由でな。お前が騎士になったからこそ国は救われた。だがお前自身はどうだ?伝説として語り継がれるであろう活躍をしたお前は、どこか己を責めているじゃないか」


 いや~俺モフナデしたいから騎士辞めたかったんですよーなんて言える空気じゃなかった。


 責めているように見えるのはそんな理由で辞めた後ろめたさがあるからですよって言えたら楽なんだが。


「ガルドナード様、クーデリカ様にもお伝えしましたが、私は騎士になったこと、騎士団長を引退した事を後悔しておりませんん。むしろ誇りに思っています。ですから頭を上げて下さい」


「すまん、お前を困らせてばかりだな、俺は」


 やっと頭を上げてくれたガルドナード様は、頭をかきながら湯船から立ち上がった。


「クーデリカがお前に会いたがっている。風呂から出たら、顔を出してやってくれ」


 ちょっとのぼせたのか若干ふらつきながら浴場を後にするガルドナード様の背中に、わかりましたと返事をしながら、気疲れして思わず湯船に頭から潜り込むのだった。



「デューク兄様!ようこそいらっしゃいました!」


 お風呂上がりなのかほんのり頬が赤いクーデリカ様は、部屋を訪ねた俺を勢いよく中に引っ張りこんだ。


「そんな引っ張らなくても逃げませんよ」


「デューク兄様、どうか今は昔みたいな口調でお願いします」


 うーむ、あまり自己主張をしなかったクーデリカ様が久しぶりに再会してから自分のして欲しい事を積極的に口にするようになったな。


 良いことだ。何せ国のためならこの身を捧げますとあっさり口にするような、自己犠牲の強いお方だったからな。


「わかったわかった。気を付けるよ」


 これでいいかい?と言うと、ちょっと不満げな顔をした。


「口調はいいです。ですけどお家に来ていただいたらあだ名で呼んでいただけるとお約束したはずですよ」


「そんな約束したっけ?」


 ぷーっと頬を膨らますクーデリカ様が可愛かったので、わざとじらしてみる。


「しました!もう、デューク兄様は昔からたまに意地悪なお顔をされます」


「はっはっは、ごめんごめん。何か怒ってるクーの顔が新鮮だったからさ」


「あだ名で呼んでいただけたので、許してあげます」


「ハッ!もったいないお言葉、恐悦至極に存じます」


 芝居がかった動作でクーの前で片膝をつく。


「フフ、何だか懐かしいですね、それ」


 昔、皆でよく騎士ごっこをしていた時、女の子達は順番でお姫様役をやりたがった。そんな彼女達の前でお芝居で覚えた騎士礼をしたら喜ばれたものだった。


「昔はよくやったな、これ。クーも他の子も何度もせがむから、やたらと上手くなった気がする」


「デューク団の女の子はミルチェ以外は皆デューク兄様に次は私とせがんだものですね」


「ミルチェは昔からぶれずにフリックにだけやらしていたからな。フリックにカッコいい騎士礼の仕方を教えてくれとこっそりお願いされたなぁ」


「その話は初耳です!」


「口どめされてたからね。でもあいつもこの前俺の秘密を口をすべらせたから俺もちょっとすべらせるのもしょうがない」


「それはしょうがないですね」


 クーデリカ様と子供の頃の話で盛り上がっていたら、お食事の用意が出来ましたとメイドさんが呼びに来たので、二人で食堂へと向かった。


 その際に、子供の頃みたいに手をつないで連れていって下さいとお願いされ、ちょっとした攻防があったが、最終的にはメイドさんから生暖かい目で見られてしまうのだった。


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