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じゃあとりあえずモフナデする

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「すっごい久しぶりだなぁ」


「うん」


 クーデリカ様とミリカを送りながら帰ってきた実家の門の前で、久しぶりの帰郷に帰ってきたんだなぁという気持ちをあらためて感じていた。

 

 王都の家ですら何年ぶりって感じだったが、実家となると、騎士になってから一度も帰って来ていなかった。


 長い旅に出ていたような、そんな気分だ。間違ってはいないけど。


「何年帰ってなかったの?」


「六、七年かな」


「それくらいだね」


 ちなみにルルミアには邪竜に教えもらった未踏破の遺跡に行きたいから同行して欲しいとお願いされ、なら俺達も北方エルフの村にミッドを送る予定だからそれに付き合ってくれとお願いし、しばらく行動をともにすることになった。


 ミッドは非合法ギルドから身を隠すため現在王都の我が家に潜伏中。時期が来たらゴーマット経由で西方辺境伯領都まで来てもらう予定だ。


「わふッ!」


 門の前で話していたら、番犬のマットが俺を見つけて走り寄ってきた。


「お~久しぶりだなマット。すっかりでかくなっちまったなぁ」


 モフモフモフモフモフモフモフモフ。


 父親のマッグ譲りの真っ白なモフ毛に思わず顔を埋めてモフモフに夢中になってしまう。


「おやまあ!若旦那様!お嬢様!いつの間にお帰りに!」


 マットの声を聞き付けたメイド長のマーサが俺達を見つけて駆け寄ってきた。


「久しぶりだなマーサ。元気そうでなにより」


「マーサ、ただいま」


「あらあらお帰りになるならお手紙を下されば領民総出でお迎えいたしましたのに」


「それ、来る途中に会った皆に言われたよ」


「明日は宴会だねって」


「それはそうでしょう!若旦那様は我がコスタル男爵領の誇り、領民の誰もが若旦那様のご活躍を聞くたびに飛び上がって喜んでいるのですよ。それに、ここ数年は援助までしていただいて。ほんとにご立派になられてばあやは感無量でございます。それで、こちらのお綺麗なエルフの方はお友達でしょうか?」


「そうだ。以前話した冒険者時代の仲間でルルミアと言う。しばらく客間に滞在するから用意を頼むよ」


「初めまして、ルルミアです。お世話になります」


「初めまして。コスタル男爵家でメイドをしておりますマーサと申します。若旦那様からお話はうかがっております。ささ、皆様、こんな所で立ち話もなんですから館にお入りください」


 マーサに促されて久しぶりの実家に足を踏み入れると、まったく変わっていない事にひどく安堵した。やはり実家は落ち着くな。


「皆さん、若旦那様とお嬢様がお帰りになられましたよー!」


 マーサの呼びかけに家のあちこちからドタバタと音が聞こえてくる。


「若旦那様、お嬢様、お帰りなさいませ!」


「ご立派になられて!」


「お久しぶりでございます!」


「お元気そうで何よりです!」


 メイドの皆と執事のモールが慌てて出迎えてくれる。

 

 皆と言ってもうちのメイドはマーサを入れて四人しかいないが。まあそんな大きな家じゃないからな。


「久しぶり。皆、健勝なようで何よりだな」


「皆、久しぶり。ただいま」


 シャロはメイドの皆からわーきゃー言いながら出迎えられ、俺はモールに労いの言葉をかける。


「長い間空けてしまいすまなかったな、モール」


「何をおっしゃいます!若旦那様のご活躍はこの地にまで響いて参りました。若旦那様の執事を勤めさせていただたいております事、じいは鼻が高うございますぞ」


「ありがとう。モールが家を守ってくれたから、俺は何も心配する事なく任務に打ち込めたんだ。ご苦労だった」


「ううぅ、過分なお言葉にこのモール、感激にうち震えております」


「泣くことないだろ。それより、今日は友人も一緒なんだ。紹介するよ、彼女はルルミア。俺の冒険者仲間だ」


「初めまして。ルルミアです。デュークとは昔パーティーを組んでました」


「初めまして。執事のモールと申します。すいません、お客様の前でとんだ失態をお見せして」


「気にしてないよ」


「ありがとうございます。今日はもう夕方ですからひとまずお風呂で旅の汚れを落とされてからお食事にいたしましょう。ささ、マーサさん、ルルミア様をご案内して差上げて下さい。他の皆さんは直ぐにお風呂の用意を。それと今晩の食事は豪華なものに」


「食事はマーサ特製のグラタンを頼むよ」


「私は青鮭のムニエルが食べたいな」


「どちらも腕によりをかけてお作りいたしますよ!」


 


 久しぶりの実家で久しぶりの故郷の味を堪能した俺は、自室のベッドに寝転びながら天井を眺めていた。


 明日以降は、それなりにやる事はある。


 まずは寄合に出て久しぶりに皆に挨拶。ガルドナード様には騎士団長を早期引退したことを謝罪しなければならない。


 そしてカウリエン様とのお茶会。


 助けていただいたお礼と、お菓子とブラシをお届けしよう。ルナリア様とミアーナ様にも忘れずに。


 そのついでにミッドを北方エルフの村まで送り、ヅミロス様にマフィンをお供えする。その帰りにアーバン商会によって久しぶりにアーバンさんとグリナに挨拶をしよう。


 その後はルルミアに付き合って未踏破の遺跡の探索のために西パーランディア大陸へ行き、ついでにキーランと安酒と干し肉を土産に飲み会で、その後はイサカに寄ってお袋の足跡でも軽くさがしつつトルーマンとも直接会ってお礼を言おう。


 どれも明日から取りかからなければならないような急ぎの用事じゃないし、国の存亡に関わるものでもない。

 

「はぁ~」


 何と言うか、気が抜けた。


 騎士団長を辞めたはいいが、いきなり明日から動く気力も湧かない。


 ごそごそ。ピョコン。


「なう~」


 ベッドに潜り込んできたシャロをモフナデしながら出迎える。


「どうした、シャロ」


「眠れない兄さんを癒しにきました」


 そういって頭を差し出すシャロ。


 モフナデモフナデ。


「はぁ~、癒される……」


 うちの妹マジ世界一のモフ妹。


「兄さんは、出来る事全部やったよ」


「そうかな」


「そうだよ。だから明日からはしたい事だけしよう?」


「じゃあとりあえずモフナデする」


「うにゃ~」


 


 地元に戻って一週間が経った。


 両親の墓参りをして、羊達やマットをモフりながら世話をして、シャロをモフナデしていたら、あっという間だった。


 とりあえずうちの領地は経営も順調。このままユールディンとの国交が無事再開し、カウリエン様の麦が浸透して西方辺境伯領が復興すればさらに磐石。


 代官をしてもらっている叔父は胸を叩いて何の心配もありませんぞと保証してくれた。


 元々ギリギリ男爵領って規模に、羊毛が特産物の牧歌的な土地だ。大きく飛躍もしなければ、大きく下落する事もない。


 だから領主の俺が長期間留守にしても大丈夫。


「というわけでまたしばらく留守にする。皆、留守を頼んだぞ」


「行ってきます」


「お世話になりました」


 モールを筆頭に家の皆に見送られながら、俺達はひとまず西方辺境伯領都へと向かう。


 寄合の開催日が決定したと連絡が来たので、それに合わせて旅程を組んだ。


 久しぶりの冒険者装備に身を包み、馬車に乗り込む。


「ミッドにも連絡しないとな」


「西方辺境伯領都の冒険者ギルドならマドスの鏡があるんじゃないかな?」


「あるよ。あの本に載ってた」


「ルルミアが言うなら間違いないな」


「久しぶりにデューク団の皆に会うのが楽しみ」


「その名称だけは変えて欲しい」


「デューク団て何?」


 とりとめのない会話を続けながら、俺達はのんびり旅立った。


 まずは西方辺境伯領都だ。

 


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