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後は頼んだで

遅くなりました。

後日譚はもう少し続きます。



「いい天気だなぁ」


 報告会の途中で王城を辞した俺は、第三騎士団の駐屯地に向かいながら目に写る空の青さに素晴らしい解放感を感じていた。


 まるで生まれ変わったかのような、今ならなんだって出来るって思えるこの感覚をなんと言えば良いのだろうか。


 俺は自由だー!と叫びまわりたい。


 シャロを一日中モフナデしたい。


 何?遠慮はいらない?ならお言葉に甘えてモフナデしよう。


 俺にモフナデされながら歩いているシャロの手には持ってきていた神紙はすでにない。


 王の間を退出した後リンクス公爵のお供の方に渡しておいてくれと頼んだからだ。


 あの国王の事だから実際にリグリエッタと対面したらまた何を言い出すかわからないから、リンクス公爵に止めてもらうための隠し武器だな。


「ここ何日か、ずっといい天気だったよ?」


「ユールディンの話でしょ?」


「そうだった」


 ルルミアのボケにシャロが突っ込むのを聞きながら、二人の会話に加わる。


「こっちもここ数日はずっといい天気だったよ」


「じゃあ何でわざわざ口に出したの?」


「何でだろ、気分?」


「気分ならしょうがない」


「ルルミアはスコラト日記の原本を読んで満足したか?」


「うん。やっぱり現代語訳の写しだと完全に正確なものじゃなかった。新しい発見もあったから大満足」


「そりゃよかった」


 シャロの頭をモフナデしながら相づちを打つ。


 その後もまったりした会話をしながら駐屯地に戻ってきた。


 俺の帰還を知らされたランデルが、俺の顔を見て苦笑を浮かべる。


 長くコンビを組んだ仲だ、言わずとも伝わったのだろう。


「お疲れ様でした、と言うべきですかな?」


「はっはっは。後は頼んだぜ、ランデルのおっさん」


「やはりそうなりましたか……。お前さんのフォローをするのも、これが最後ってわけだな。寂しくなるよ、相棒」


 一緒、ほんの一緒だけウルッと来たが、俺は右手を差し出してニヤリと笑った。


「わりぃな、相棒。後は頼んだ」


 ランデルとがっしりと握手を交わすと、俺はこの場にいる全員を集めるよう指示をした。




 第三騎士団。


 ラグラント王国で一番歴史の浅い騎士団だ。


 ラグラント王国が大きくなるにつれて、第一騎士団だけでは手が回らないからと、新たに創設された騎士団。


 近衛に名を変えた第一騎士団に代わり、国内の犯罪の取り締まりと戦時は徴兵した兵士達を率いる任務をおった、常に前線に身をおく騎士団だ。


 創設時に重要視されたのは、国を護るという誓いに忠実である事、仲間を信頼し、仲間に信頼される絆を作る事、上役の命に忠実に従い、騎士団員としての自覚をもつ事。


 近衛騎士団のように貴族や同盟相手の豪族の血筋である必要もなく、ラグラント王国生まれである必要もない。


 種族の縛りも存在しない。獣人、普人、エルフにドワーフ、希少種族、どんな種族も試験に通れば採用される。


 今、俺の目の前に並んでいる団員達は、そんな第三騎士団を象徴する者達だ。


 多種多様な団員達を前に、俺は団長として最後の挨拶をする。


「この場にいない者もいるが、今は有事だからしょうがあるまい。さて、それでは皆に伝える事がある」


 ゆっくりと団員の顔を眺める。


 ここ数年、毎日一緒に過ごした者達だ。


 俺が騎士団長として唯一自慢出来るとしたら、俺が就任後は誰一人としてし死なせなかった事ぐらいだろう


「俺はただ今をもって騎士団長を引退する」


 とたん、ランデルを除いた団員全員が驚きの声を上げる。


 何故?どうして?そんな声が重なりあって最早誰が何を言っているのかわかったもんじゃない。


 俺は右手をサッと上げて口を閉じるよう指示する。


 気をつけの視線で口を閉じた団員達に、引退理由を説明する。


「我々は騎士だ。守るべきはこの国の土地、民、主君、つまり全てだ。私は守るべき主君へと手を上げた。あの時はあれが最善であったと思っているが、しかしそれは言い訳にならない。私は私の職責をもってこれに挑んだ。その結果なのだ」


 俺は言葉を切り、一同をぐるりと見回す。


 シュライザーは口を真一文字に結んで何かに耐えるようにこちらを見ている。次の副団長補佐お前な。


 リッツとアベイルは顔を歪めて、嘘でしょ?みたいな表情をしている。相変わらずリアクションはそっくりだな。


 フリックは泣いていた。泣くな馬鹿もん。ガキの頃から涙もろい子だなぁ。


 ホーキンスはその凛々しい目で射ぬくように真っ直ぐにこちらを見ている、かと思ったら王城を睨んでいた。鷹の目で見ちゃいけないもの見つけるの止めなさい。


 ノックスは、年の功かな、多分俺の気持ちに気づいていたんだろう。穏やかな表情でお疲れ様でしたって顔をしている。先生、ありがとうございました。


 メラニアは納得できませんって顔だな。でも使徒様に対して無礼なって感じなら勘弁してやって。結婚式にはちゃんと出席するからさ。

 

 他の団員も納得出来ませんって顔をしている。


 まあ俺がそっち側だったら同じ気持ちだろうけどね。


「だが、その結果、国は守られた。諸君らの奮闘が実を結んだのだ。私のような若輩者が騎士団長を全う出来たのも諸君らのおかげだ。感謝している」


 深く頭を下げる。


 すまん、ほんとにすまん。


 俺には、騎士団長は重荷だったんだ。


 器じゃなかった。


 モフナデ出来ないのは辛すぎたんだ。


 もうなんか身体の内側から迸るモフラー魂を誤魔化すことが出来なくなっていたんだ。


 こんな理由で引退してごめん。


 ほんとごめん。特にランデル。


 顔を上げると、苦笑いしているランデルと目があった。

 

 全てお見通しのようだ。


 後は頼んだで。


「それでは、後は任せた。さらばだ」


 ランデルの解散!という声で皆が持ち場に戻る。


 俺は貸与されている鎧を脱ぐべく団長専用天幕に向かおうとしたら、ゴルズ男爵とミリカ、そしてクーデリカ様に呼び止められた。


「やっぱりこうなったか、デュー坊」


「はい。ですが、最良の結果です。ユールディンとは和睦が成され、戦争を起こして国を腐らせた輩は一掃され、カウリエン様の麦がこの国を救う。まさに物語を締めくくるに相応しいじゃないですか」


「ふん。確かにの。じゃがワシは気に食わん」


「そう言わないでよ。気持ちはありがたいけどさ」


 俺はシャロから受け取った酒瓶をゴルズのじいさんに渡す。


「報酬の先払い。北方エルフの酒だよ。味と強さは保証する」


「これが……。ふん、ええじゃろ、お前さんの引退祝いにミスリルナイフは全部魔石付きにしてやるわい」


「マジで?気前いいなぁ」


「感謝するんじゃな」


「するする」


 酒瓶を大事そうにもったゴルズのじいさんが一歩後ろに下がると、ミリカが俺の前にきた。


「デュー兄、お疲れ様なんよ」


「ミリカもありがとうな。ナイフ届けにきただけなのに結局最後まで付き合わせちゃって悪かった」


「違うんよ、うちが残りたいっておじいちゃんにお願いしたんよ。デュー兄の役に立ちたかったんよ」


「そうなのか?すっごい助かったからこっちとしてはありがたかったよ」


 子どもの頃のように思わず頭をなでる。


 ミリカは子どもの頃から今にいたるまで身長差があまり変わらないのでなで慣れた高さだからかついなでてしまった。


「おっとすまん、大人の女性の頭をなでるのはよくないな」


「デュー兄、シャロ姉の頭はしょっちゅうなでてるんよ」


「シャロは大人である前に妹だしただなでるだけじゃなくモフナデだからセーフ」


「うう、モフナデとの差がわからないんよ。でもうちはデュー兄ならいつでも頭をなでてもらっていいんよ」


「はっはっは。それでミリカ、お願いがあるんだが」


「デュー兄のお願いならなんでも聞いちゃうんよ」


「いや、例のブラシ、追加で作って欲しいんだ。2つ同じ大きさのを。三本サイズが違うのも」


「三本のサイズはどれくらいなんよ?」


「一本は大きめ。二倍くらいで持ち手もがっしりとした……いや持ち手はいらないな。羊用だし。もう一本は一回り小さめ、ブラシの毛も半分くらいの長さで。最後の一本は歯ブラシより一回り大きいくらい。毛も歯ブラシくらいで」


「羊用?ほかのも何か人用じゃないような気がするんよ」


「今回お世話になったモフラー仲間にお礼として渡すものだから。頼むよ」


「難しそうだけど、デュー兄のお願いなら頑張るんよ。だから報酬の先払いを要求するんよ。もう一度頭をなでて欲しいんよ」


「それでいいのなら」


 ミリカの頭を再度なでる。


 そういやミリカは俺が獣人の子どもをモフナデしている時に、ずるい、うちも!ってなでるのをよくおねだりしてきたなぁ。


「ふぅ、満足したんよ!デュー兄のお目に叶う一品を帰ったら真っ先に作るんよ」


「よろしく頼むよ」


 ミリカがゴルズのじいさんの横に下がると、今度はクーデリカ様が俺の目の前に立った。


 俺はクーデリカ様の前で片膝をつき、頭を垂れた。


「デューク兄様、騎士団長の任、お疲れ様でした。デューク兄様ほど騎士団長として活躍したお方は剣聖ナタリー様以外にいらっしゃらないかと存じます」


「身に余るお言葉をいただき、光栄でございます」


「デューク兄様がお父様のお言葉により騎士になられた時はとても誇らしい気持ちでいっぱいでした。でも、私自身が遅ればせながらこうやってデューク兄様のお近くでお仕事を拝見できる機会を得て、デューク兄様はとても大変なお仕事をされていたのだと、察せられなかった自分がとても情けないです。お父様のお言葉を、デューク兄様が拒否できるはずなかったのに、ただ自分の気持ちだけで」


「そこまでです、クーデリカ様」


 俺は立ち上がってクーデリカ様の発言を遮った。


 凄い無礼な事は百も承知だが、それでもこの優しい子に、こんな言葉を口にして欲しくない。


「確かに大恩あるガルドナード様のお言葉に首を横に振る事などあり得ませんでしたが、だからといって嫌々騎士になったわけではありません。私は騎士であった自分に誇りをもって騎士団長を、騎士を引退するのです。楽な仕事であったとは申しませんが、それでも私が成し遂げた事、その結果は、先ほどクーデリカ様にお褒めいただいた事で報われたのです。ですからどうか、ご自分を責めてはなりません」


 クーデリカ様はぽかん、とした顔を浮かべた後、ポスンと胸に抱きついてきた。いや、その良すぎるスタイルからポヨンって感じか。ちょっと自分の胸に跳ね返されてたし。


「デューク兄様は、ずるいです」


「そうかな?そんな事ないと思うけど」


「ずるいですけど、今度お家にいらしてあだ名でお呼びいただけたら、許してあげます」


「じゃあ、寄合を企画しといて。久しぶりに皆にも会いたいからね」


「わかりました。帰ったらすぐに行います」


 ちょっと涙目になりながらクーデリカ様は名残惜しそうに俺から離れた。


 その後は少しだけ話をして、俺とシャロはとりあえず明日には一度領地に帰ると告げると、ミリカとクーデリカ様が一緒に帰ると言い出したので、明日辺境伯軍の駐屯地まで迎えに行くと告げて一先ず別れた。


「さて、帰るか」


 久しぶりに鎧を脱いだ姿で日中を歩く事を新鮮に思いながら、王都の家に向かって歩き始めた。


「ルルミアは家に泊まる?」


「お邪魔じゃなければ」


「お邪魔なんてことはないよ」


「狭いとこだけど歓迎するよ」


「ありがとう」


 何年ぶりかの我が家に何年ぶりかの来客を伴って帰宅するのだった。



評価ポイント、ブックマーク、誤字報告、感想、皆様ありがとうございます。本当にあともう少しだけ、お付き合いくださると嬉しいです。

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