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新皇帝、けっこうクズですよ?

寝落ち、しました…。


 暗殺者の存在と、標的が紅の騎士団だったという事実に出席者の誰もがあり得る事と考えていたため驚きはなかったが、その標的に俺も含まれていて、暗殺者はシャハルザハルの目(最初は落伍者だったがあまり変わらないので省略)という北の大陸の有名な暗殺集団と聞くと流石に何人かは表情を変えた。


「シャハルザハルの目は世界的にも有名な最強の暗殺集団、その依頼料はかなりの高額だと聞く。よくぞ一人も死なず無事に戻ってきたものだ」


 顔色を変えた一人のフォーゲル団長が硬い表情でそう口にする。王族の護衛が主な任務である近衛として、有名な暗殺者や盗賊の詳細を熟知しているが故にシャハルザハルの目の怖さを理解しているからだろう。


「高額ですか。そうなると個人で雇えるのはホリビス伯爵と辺境伯くらいですが、現状ではホリビス伯爵のみですかな」


 法典長官の推測に宰相が頷きつつ別の案も口にする。


「確かにホリビス伯爵なら可能だろうな、だが個人でなくとも複数の家が金を出し合っても可能だろう?紅の騎士団に関わりのある家がいくつあるかは知らないが、充分に賄えるだろうと思うがね」


「宰相閣下のおっしゃる通り、今回は紅の騎士団に関わる家が金を出し合い依頼したようです」


「今回『は』、かね」


「はい。そもそも北の大陸に本拠地のあるシャハルザハルの目を雇い紅の騎士団を標的にするのなら我々が奴らを捕縛する前から依頼をしていないと日数的に間に合わないのですよ。ですがそれは勿論あり得ません。シャハルザハルの目は最初から国内にいたのですよ」


「何だって?どこにいたと言うのだねコスタル団長」


 宰相は驚きの声を上げる。そんな物騒な奴らが国内に潜伏していたとなると心中穏やかではないだろう。


「潜伏先はパルダス侯爵家。雇い主はリヴェラ・ホリビス元パルダス侯爵第一夫人です」


「何だと?ではパルダス侯爵は」


「病に臥せっていた、と思われていましたが、リヴェラ・ホリビスによって依頼されたシャハルザハルの目によって毒殺だとばれないように徐々に毒を盛られて衰弱させられていました。パルダス侯爵家は次男が紅の騎士団の副団長です」


「ではリヴェラ・ホリビスは腹を痛めて生んだ実の息子を殺そうとしたのかね?」


「違います。その辺りを最初から説明します。シャハルザハルの目は実弟のホリビス伯爵の仲介によってリヴェラ・ホリビスと契約しました。この兄妹は実の父親も暗殺しております。当初はパルダス侯爵の毒殺依頼のみでしたが、紅の騎士団が捕縛されたため、新たな依頼をします。その際には紅の騎士団の団員の実家が資金を出し合いホリビス伯爵がまとめましたが、先導したのリヴェラ・ホリビスでした」


 前ホリビス伯爵の暗殺の件では、やはりな、という声も聞こえてきた。相当疑わしいものだったらしい。


「当初は私のみを標的とし、紅の騎士団を助けて戦争を継続させ私腹を肥やす計画だったみたいですが、リヴェラは不倫相手で長男、次男、五男の実の父親である中央軍引率役フスカ男爵の意見を採用し、私以外にホリビス伯爵次男含む何人かも一緒に暗殺して目眩ましをし、その混乱の隙をついてパルダス侯爵次男によってリグリエッタ姫を救出し、国王様の印象を良くして次男とリグリエッタ姫との婚約を画策していたようです。さらにホリビス伯爵次男の代わりに五男を養子に出し、実弟とホリビス伯爵長男を暗殺してホリビス伯爵家ののっとりも計画していたとのことです」


「ちょっと待て。不倫?しかも相手はパルダス侯爵の実弟のフスカ男爵で、しかもパルダス侯爵の長男、次男、五男はパルダス侯爵ではなくフスカ男爵との子供だと?しかもそいつらを使ってパルダス侯爵家を乗っ取ったり王族の仲間入りを画策したり戦争を継続させようとしたり協力して実父を暗殺してまで実家を継いだ弟までも排除して家督を奪おうとした?どれだけ強欲なんだね、リヴェラ・ホリビスは」


 宰相だけでなく他の出席者も呆れ返っている。まさしくラグラント王国の希代の悪女だ。


「ろくでもない奴ですよ。とにかく自分達が稼げればそれでいいって奴ですから。不倫相手のフスカ男爵は中央軍内、自分のお付きの者としてシャハルザハルの目を周囲において私の暗殺機会を狙っていたようです。そこを逆手にとってこちらからフスカ男爵とシャハルザハルの目に麻痺薬を飲ませて無力化させて捕縛し、拷問したことにより今までの事が明らかになりました」


 捕縛したシャハルザハルの目とフスカ男爵、及びリグリエッタ姫と紅の騎士団は現在南門近くにある第三騎士団駐屯地にゴルズ男爵によって移送が完了したと報告する。


 この事前報告会終了後は王城まで移送する予定だ。


「さらに、信じがたい新事実も発覚しました。リヴェラは我が国最大のタブー、ドラゴンベルを盗み出したのです」


 この事を知らなかった人達はなんだとッ!と驚愕の声をあげた。


 一方、部下の一人が加担していたことが発覚している宰相は渋い顔をしている。


「リヴェラ・ホリビスの指示を受けた宰相府資財管理担当ラグマ・リヒター子爵によって盗み出され、そこから何とシャハルザハルの目によってユールディン帝国第三皇子ミュリアスの手に渡るところでした。両者は戦争継続の点で意見が一致している事からどこかで関係を持って、協力態勢になったと推測します。ですがドラゴンベルは冒険者ギルドに協力を要請し、すんでのところで取り返すことに成功しました。今はユールディンの研究都市イサカの冒険者ギルド支部が保管しています」


 ドラゴンベルが盗まれた事はすでに知られているからかあまり動揺はなかったが、無事取り戻せた事は知られていなかったのか、所々で安堵のタメ息が聞こえてきた。


 リヴェラの正体については、明かす気はなかったので伏せたまま話を進める。アル団長に対する義理と、明かせば余計な国際問題が和睦前に両国の間に起きてしまうからだ。


 面倒事は避けて行きましょう。


「現在ミュリアスは謀反を起こして帝都ルフラントを占領しています。さらに邪竜と契約して、邪竜の力を使いドラゴンベルで亜竜を呼び寄せて配下にしようとした模様です。ですが邪竜はキーラン皇子により依頼された、偶然ユールディンにいたS級冒険者によって討伐され、ミュリアスもキーラン皇子によって追い詰められています。最早時間の問題かと」


 邪竜と聞いて驚きの声が上がるが、すでに討伐されて、さらにミュリアスを追い詰めているキーランに対して賛辞の声があがる。確かに行動だけなら英雄クラスだが、その裏側を知る身としては愛想笑いしかできない。


 新皇帝、けっこうクズですよ?


「なるほど、ユールディン側はキーラン皇子がミュリアス皇子を討てば和睦の準備が整うわけだ。ならばこちらも早急に準備を整えねばな」


 リンクス公爵の言葉にその場の全員が力強く頷く。


 後は、国王様をいかにして納得させるかだろう。


 俺の騎士団長勤務も後少しかと思うと、さっさと終わらせて家で心行くまでモフナデしたいなぁとシャロの頭をモフナデするのだった。



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